元男子バレー日本代表・福澤達哉 インタビュー後編「ブランジャパン」1年目の振り返り【ブラン監督のバレーの特徴】――男子日本代表は、2017年からコーチを務めていたフィリップ・ブラン氏が、昨年度から監督として指揮を執っています。チームに変化は…

元男子バレー日本代表・福澤達哉 インタビュー後編

「ブランジャパン」1年目の振り返り

【ブラン監督のバレーの特徴】

――男子日本代表は、2017年からコーチを務めていたフィリップ・ブラン氏が、昨年度から監督として指揮を執っています。チームに変化はありましたか?

福澤:チームとしての方向性に大きな変化はなく、リオ五輪が終わってから東京五輪までの5年間の延長線上で強化を進めている印象です。他国は新監督になってチームカラーがガラッと変わったり、世代交代が進んだりしていますから、そういったアドバンテージがネーションズリーグ(VNL)や世界バレーでも出ていたと思います。その段階での他チームのクオリティを考えると、単純に「この1年ですごく飛躍した」と手放しでは喜べませんが、非常にいいバレーができていましたね。



世界バレーは主将の石川祐希(左)、ミドルブロッカーの山内晶大(右)の奮闘も目立った

――世界バレーの決勝トーナメント初戦で、東京五輪覇者であるフランス代表と対戦。フルセットの最終第5セットは日本が先にマッチポイントを握るも、競り負けてベスト16という結果でした。

福澤:フランスに関しては、日本と同様に五輪チームの上乗せという感じでしたから、あそこまで戦えたことで「パリ五輪までに何をしないといけないのか」というビジョンがより明確になったんじゃないかと思います。選手たちも、世界のトップに勝つための戦術をしっかり遂行するスキルがついてきた印象がありますね。

――福澤さんも指導を受けた経験がある、ブラン監督のバレーはどんな特徴がありますか?

福澤: 今のチームの武器が何なのか、というところから戦術を組み立てて、そこにチームをはめていくという感じでした。今のチームには石川祐希選手や西田有志選手などビッグサーバーが多いので、サーブで試合を優位に持っていくことを考えていると思います。そのためには、サイドアウトをきっちり取らないといけない。攻撃を組み立てるセッターはもちろん、ミドルブロッカーに対する要求も非常に高くなっています。

 VNLや世界バレーでも、ミドルブロッカーの山内晶大選手の打数が多く、安定感もすごくありました。以前よりミドルの攻撃参加の意識が高くなり、セッターと徹底的にコンビを合わせた結果、試合でも自信を持って使えるようになったんだと思います。おそらく、東京五輪で「サイドアタッカーを軸にしたチームで世界と戦える」という算段がつき、次のステージに行こうとしているんでしょう。山内選手や小野寺太志選手なども、東京五輪で「俺たちが伸びれば、もっと余裕を持って勝てるんじゃないか」と気づいたのでは。その意識の変化は大きいですね。

【ミドル陣と石川祐希の意識の変化】

――パナソニックパンサーズ時代の福澤さんの後輩でもある山内選手は、東京五輪後にさらに成長したように感じます。

福澤:そうですね。これまでは石川選手、西田選手などが活躍すれば勝てるという意識がどこかにあって、そこまでのプロセスをしっかりしよう、という気持ちが強かったのかもしれません。それも大事なことですが、ミドルがただの"お膳立て"のポジションにとどまってしまいますし、サイドアタッカー陣へのマークが厳しくなってしまう。

 そこから「自分たちが主役にならないと厳しい」というマインドチェンジがあったはずです。以前の山内選手は、負けん気は強いですが、感情を表に出して自己主張するほうではなかった。今はコート上でもそれができるようになって、それがプレーにもいい影響をもたらしているように見えます。

――チーム全体としての印象はいかがですか?

福澤:ある程度、チームとしてのコンセプトが固まっていて、誰が出てもチーム力が落ちないことは大きいです。特定の選手が飛躍したからチームが強くなっているというわけではなくて、チーム全体が同じようなレベルで練習ができていることが、層の厚さに表れていると思います。ブラン監督はやるべきことをはっきり口にするタイプで、ブレがない。結果も出ていますから、いい信頼関係が築けているのではないでしょうか。

――石川選手のキャプテンとしてのプレーはどう見ていましたか?

福澤:もともとリーダーシップがある選手でしたが、東京五輪のあたりから、キャプテンとして一段フェーズが上がったように感じます。大事なポイントを取ったところで感情を表に出すことは、感情が昂っているので自然にできるもの。でも、最近の石川選手はセリエAや日本代表の試合でも、試合の序盤や劣勢の時、チームがスイッチを入れないといけない時などにオーバーアクションをするようになりました。

 バレーボールは"流れのスポーツ"とも言われますが、選手たちに迷いが生まれると一気に持っていかれてしまう。プレーでそれを断ち切ることもありますが、感情を出すことによってチームを引っ張るということを、石川選手は意識的にやるようになったんじゃないかと思います。

――それは、イタリアで長くプレーしていることの影響もあるでしょうか。

福澤:世界のトップレベルの選手に学ぶことはあったでしょうね。例えばブラジル代表のセッター、ブルーノ・レゼンデ選手もそうです。直接は点数を取れないポジションだけど、誰よりも声を出してアクションを起こしている。石川選手はセリエAのモデナでブルーノとチームメイトでしたし、"リーダーシップとは"というのを肌で感じたはずです。現在、石川選手はミラノでも中心選手になっていますが、チームメイトたちがプレー以外の部分もリスペクトしているということだと思います。

 チーム内で絶対的な存在になっている選手は、調子が悪くても相手チームが「何かやってくるんじゃないか」と警戒をするものなのですが、それはコート上での立ち振る舞いやアクションなどがそう思わせる部分もあります。石川選手はスキルやプレーじゃない領域にも目を向けるようになったんじゃないでしょうか。

――世界の強豪国を上回るために、チームとしてさらに進化が期待できる部分はありますか?

福澤:昨年の国際大会を見ての個人的な見解ですが、2段トスに対する3枚ブロックの完成度は伸びる余地があると思います。日本代表はサーブがいいわりに、ブロックによる得点数が少ない。手の出し方やタイミング、ミドルブロッカーの詰めの速さを向上させてブロックを強化すると、世界との差がさらに埋まっていくと思います。

 さらに、またミドルブロッカーへの期待になってしまいますが、ミドルのサーブ力を高めていきたいですね。ミドルのビッグサーバーがサーブでエースを取ることは、現代バレーでは当たり前になってきています。日本のミドル勢も、フローターサーブでエースを取ったり崩したりするシーンは非常に多くなってきていますが、ビッグサーバーが1、2人でも出てくるとさらに面白くなりそうですね。

【Vリーグで上位を争うチームの印象】

――続いて、Vリーグについて伺います。上位争いをしているチームの印象はいかがですか?

福澤:各チームの外国人選手が世界トップレベルで、男子はどのチームが勝ってもおかしくないですね。その中で、(2月2日時点で)1位のウルフドッグス名古屋は、昨年とほぼメンバーが変わらずに完成度が増した印象です。非常にスキルの高い選手が多く、クレク・バルトシュ選手という大エースもいますから、セッターの永露元稀選手がどれだけ安定してトスを上げられるかがカギになりそうです。

 現在2位で、3連覇を目指すサントリーサンバーズは、大砲のドミトリー・ムセルスキー選手とセッターの大宅真樹選手がリーダーシップを取っていますね。そんな中で21歳のデ・アルマス アライン選手なども得点を重ねています。

 3位の堺ブレイザーズも調子がいいですね。昨年から、オポジットのシャロン・バーノン エバンズ選手が非常に当たっています。これまでは、グッとチームを引っ張れる選手がいなかったことが課題でしたが、そこにベテランの深津旭弘選手が入った。それによって、ベテランと若手がバランスよく、安定して活躍できているように思います。

――福澤さんが所属していたパナソニックは5位ですが、チームの状況をどう見ていますか?

福澤:前半戦は厳しかったですね。主力選手の年齢が上がってきているので、なかなか爆発力を出すことが難しくなってきている。ただ、年明けに大学生の大塚達宣選手やエバデダン・ラリー選手がチームに合流して、立て直せている部分もあると思います。ベテランが土台となり、若い選手が躍動するようなチームバランスになれば、巻き返しも可能だと思います。

――洛南高校の後輩であり、日本代表でもパナソニックでも福澤さんの背番号を受け継いだ大塚選手の印象は?

福澤:本当にクレバーで、ひとつひとつプレーをよく考えながらできる選手です。チームの苦しい状況も理解した上でさまざまなアクションができる選手なので、年齢やキャリアなどは関係なくパンサーズを引っ張っていってもらいたいですね。

 同じ大学生として東京五輪に出場した、髙橋藍選手のセリエAでの活躍は刺激にはなっていると思います。先ほども言ったように、Vリーグも外国人選手をはじめ、レベルが高くなっているので焦らずに個のスキルを伸ばしていってほしい。加えて、チームメイトのミハウ・クビアク選手のように"チームを勝たせる選手"になっていってほしいです。

――シーズン前の大型補強で話題になったジェイテクトSTINGSは6位と苦しんでいる印象です。

福澤: 柳田将洋選手、関田誠大選手、西田有志選手、スロベニア代表のティネ・ウルナウト選手と"個の力"はリーグ屈指ですが、近年のVリーグはチームに安定感もないと勝てなくなってきています。その点、日本代表の活動によってチームへの合流が遅れたり、西田選手の離脱もあってチームの連携を高める時間が他チームより少なかったでしょうから、それが前半戦は顕著に出た印象です。

 競った試合でもターニングポイントで流れをつかみきれないことがありましたが、天皇杯で優勝したことは自信になったでしょうし、調子は上向いていると感じます。戦術の遂行能力が高い選手が揃っていますから、相互理解が深まればかなり怖い存在になる。上位争いもより混戦模様になっていくでしょうね。

 その他も魅力的なチームばかりで、力の差はなくなってきています。パス、つなぎ、リバウンドなどの細かいプレーの精度が勝敗を分けることになる。そういった高度な勝負が見られるVリーグの今後から目が離せませんね。

(春高バレーについて:「勝てるチーム」の変化、代表入りも期待の207cmミドルブロッカーなど注目選手も語った>>)

【プロフィール】
福澤達哉(ふくざわ・たつや)

1986年7月1日生まれ。京都府京都市出身。洛南高校時代に春高バレーに2度出場、インターハイでは3年時に優勝を果たした。卒業後は中央大学に進学し、1年時の2005年に初めて日本代表に選出。ワールドリーグで代表デビューを果たすと、2008年には清水邦広と共に最年少で北京五輪出場を果たす。大学卒業後はパナソニックパンサーズに入団。ブラジルやフランスのリーグにも挑戦しながら、長くパナソニックの主力としてプレーした。2021年8月に現役を引退して以降は、解説者など活躍の場を広げている。