(写真:六川 則夫)「非常に良い試合をして、選手たちもプレーをエンジョイできた」とイラクのバシム・カシム監督。「エンジョイ」ときたか…。それを一番恐れていた。イラクは予選突破の可能性がない。恐れずにボールをつなぐ。自陣…


(写真:六川 則夫)

「非常に良い試合をして、選手たちもプレーをエンジョイできた」とイラクのバシム・カシム監督。「エンジョイ」ときたか…。それを一番恐れていた。イラクは予選突破の可能性がない。恐れずにボールをつなぐ。自陣で奪ったボールも、奪い返されることを恐れずにつなぐ。必死の形相で縦に運ぶ日本を尻目に、イラクは横に回して「エンジョイ」。リスクなんか屁でもないイラクは、リスクを売って体力を買う。この炎天下で、こんな能天気な相手とは一番やりたくなかった。昨年10月のホーム戦のように、フィジカルとハイプレスで必死こいて襲い掛かってくるイラクのほうが、まだ良かった。少なくとも、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のチームにとっては。「最後の15分間でガクッと落ちる」というスカウティングも、このサッカーをするイラクには当てはまらなかった。

 もちろん、日本が勝ち切れなかった直接の原因は、72分に守備でミスが起こり、失点をゼロに抑えられなかったことだ。反射的にクリアすれば切り抜けられたシーンだが、吉田麻也はGK川島永嗣にボールを捕球させようとした。隣の酒井宏樹が足を引きずり、久保裕也も動けず、逆に体が動いていた井手口陽介は脳しんとうで交代。状況がどんどん悪くなる中、それまでは高く保ってオフサイドを取っていたディフェンスラインが、ペナルティーエリア手前まで押し下げられていた。決壊寸前である。この状況で延々と続くイラクの攻撃をいったん切ろうとした吉田のギリギリの判断を、間違いと言っていいものか。ミスではあるが、間違いとは言い切れない。このシーンを除けばパーフェクトな出来だっただけに惜しい。だけど、あのシーンをしのいだからと言って、あと20分もしのげただろうか。

 追い込まれた要因は、質を求めたイラクのゲームコントロールと、けが人続出というアクシデント。もう一つは、攻撃の効率を欠いたことだろう。久保と本田圭佑を逆足サイドに置き、サイドでのポゼッションが落ち着きやすいようにしたのは良い。効果はあった。ところが、徐々にSBが追い越せなくなると、幅が失われ、中央が混雑。この状況で縦に急ぎ、ボールを失って前後が分断してしまった。この症状は前半から出ていたので、両サイドを独力で運べる原口元気と乾貴士に早めに変えても良かった。倉田秋を入れてプランを変えずにしのぐより、ゲーム状況に合っていたのではないか。

文・清水英斗