早稲田大・駅伝監督花田勝彦氏インタビュー前編 今年の箱根駅伝は、駒澤大、青学大、順天堂大、國學院大、中央大がトップ5と言われていた。そのなかで果敢に勝負を挑み、レースを盛り上げたのが早稲田大。前回大会13位となり、シード権を失って1年。昨年…

早稲田大・駅伝監督
花田勝彦氏インタビュー
前編

 今年の箱根駅伝は、駒澤大、青学大、順天堂大、國學院大、中央大がトップ5と言われていた。そのなかで果敢に勝負を挑み、レースを盛り上げたのが早稲田大。前回大会13位となり、シード権を失って1年。昨年6月に花田勝彦氏が駅伝監督となり、短い期間でチームを建て直し、強い早稲田の姿を取り戻した。総合6位の成績を収めた箱根駅伝、そして、2023年の早稲田について、指揮官に聞いた。

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箱根駅伝、往路は5位でゴールした早稲田大

──箱根駅伝の区間エントリーで悩んだところはありましたか。

「今回は悩むところがあまりなかったです。各区間で想定タイムを立てて、それを確実に実行できる選手を前提に考えて、1区から6区まではベストメンバーが組めました。山口(智規・1年)が12月29日に発熱があり、7区の予定から外すことになりましたが、迷ったのは10区ですね。辻(文哉・3年)の調子がよかったので、そのまま行くか、それとも調子がぐっと上がってきた菅野(雄太・2年)にするか、そこだけです」

──1区の間瀬田(純平)選手は、1年生ですが、他にも1区候補はいたのですか?

「間瀬田以外は、他に候補がいなかったですね。戦前、前回同様に吉居(大和・中央大3年)君がまたくるんじゃないかと言われていましたし、その時、対応できる選手となるとうちも限られてきます。ただ、そこをあまりにも意識しすぎてしまうとバランスがよいオーダーが組めなくなります。今回に関しては吉居君が先に行った場合でも、マークするのは駒澤大、青学大と決めていたので、その2チームとあまり差を広げられないように、できれば区間一桁、トップと40秒差内でという話を間瀬田にしました。順位こそ設定には届きませんでしたが(区間14位)、終わってみればトップと39秒差でしたし、1年生でプレッシャーのある区間で、自分の役割を十分に果たしてくれたと思います」

──2区では、なかなか前との差が縮まりませんでした。焦りはありましたか。

「石塚(陽士・2年)は前半、自重していましたけど、それに対して不安はなかったです。石塚は授業が本当に大変で、空いている時間に個人で練習をこなす感じでした。常に自分のコンディションを把握しながら練習をしているので、今回も自分の状態を考えて走っているんだろうなっていうのはわかっていましたから。淡々と走るなか、最後の上りは行かないといけないので、そこではちょっと檄を飛ばしました。走っている自分の感覚とタイムにズレがあったようで、区間順位は一桁の予想よりも下回りましたが(区間10位)、想定タイムの68分前後(68分5秒)できてくれた。それが次の井川(龍人・4年)の走りにつながったと思います(区間2位)」

──往路では3区がターニングポイントになりましたね。

「井川は、全日本大学駅伝のあと、疲労もあって練習がうまくできず、不安な面もあったんですが、12月の最後の週になってぐっと調子が上がってきたんです。想定タイムは、62分前後で、うまく乗れなければ63分台もあるかなと思っていましたが、61分58秒で想定タイムをクリアして、チームを押し上げる走りをしてくれました」

──区間エントリーの予想では、エース格で1万m、27分59秒のタイムを持つ井川選手を2区、石塚選手が3区か4区ではないかとも言われていました。

「箱根予選会や全日本の走りを見た時、井川は2区を走れる選手だと思っていました。でも、2区に向けた練習ができていなかったんです。今回の箱根は、攻めのレースではなく、守りのレース。井川でいけばひょっとしたらプラスアルファがあったかもしれないですけど、上りが得意ではない。でも、下りは得意で、3区なら自信をもって走れるということでしたので、井川に任せました。もうひとつは石塚なら2区を確実に68分台でくるのが見えていたので、守りのレースとしてもその選択が正しかったと思っています」

──4区の当日変更の意図は?

「佐藤(航希・3年)をリザーブに入れていたのは、偵察メンバーというより当日、体調不良とか何かあった時に対応できるように外していたということです。全日本のアンカーをきっちり走れていたので、その時点で佐藤には4区を伝えていました。私も過去4区を走った経験があり、本人には『私のタイム(62分7秒)ぐらいはいけるよね』という話をしたんです。想定タイムは62分前後でしたが、62分18秒で大きく崩れることなく、まとめる走りをしてくれました(区間6位)」

──5区の伊藤大志選手(2年)は、前回が5区11位、今回はという気持ちが強かった感じがしました。

「伊藤は自信を持っていましたね。予定では区間5位から8位、想定タイムは72分でした。前半、創価大の野沢(悠真・1年)君と競り合う展開になって力を使った感があったので、中間は思ったよりも伸びなかった。でも、ラストは伸びて、しっかり71分台(71分49秒・区間6位)を出してくれました。山に特化した練習はせず、ひたすら走力を磨いてきたなか、今回は100%に近い力を出しきってくれたと思います」

──往路は、5位という結果でした。

「選手の練習を見てきたなかで想定タイムを作っていたんですが、そのタイムと実際のタイムの誤差がほぼなくて、やってきたことをレースで出すという今回のテーマをきっちりとやってくれました。それが復路のメンバーが落ち着いて走れる要因にもなったと思います。往路は、5時間27分33秒でほぼ設定どおり、総合の想定タイムは10時間55分だったのですが、それでシードを落としたら、それは監督の責任なので復路も想定タイムをクリアしていきましょうという話を選手にしました」

 復路は、前評判が高かった6区の北村光(3年)がどこまで順位を上げられるか。その後、8区が終わった時点で、どの順位にいるのかというところがポイントになると花田監督は見ていた。

──6区の北村選手の走りは、圧巻でした。

「北村は私が見てきたなかで一番下りがうまい選手ですが、走力、練習量が足りていなかったんです。そこで下りに特化してやるよりも全体の走力を上げることにフォーカスして夏以降やってきた結果、主力クラスと変わらない練習ができていた。でも、3位まで順位を上げてくるとは思っていなかったですね(笑)。想定タイムは、58分30秒前後を考えていたので、タイム的にはもう少しいってほしかったですが(58分58秒・区間3位)、やってきたものは出してくれたと思います」

──7区の鈴木創士選手(4年)は、小指卓也選手(4年)との当日変更でした。

「本来は、山口だったんですが、走れないので10区に入った菅野を7区に持ってこようかなとも考えました。でも、7区はエース級の選手が入る区間。主将の鈴木が入るということになれば他校に与える影響が違うと思うんです。本人には『64分00秒から30秒ぐらいでつなぐ走りができるか』と聞いた時、『それならいけます』と言ってきましたし、チームのメンバーからも1年間、鈴木がチームを牽引してきたので、『創士さんが走ったほうがいい』という意見が多かった。ただ、全日本の前に疲労骨折をしたり、12月に風邪を引いたり、練習は60~70%程度しかできていなくて、本来の調子ではなかったですね」

──区間12位でしたが、想定タイム(64分12秒)できました。

「前半の3、4キロですでに余裕がなくて、うしろから見ていてもちょっと心配な感じがしました。後半の途中には國學院大に追いつかれて、しばらく並走したんですが、それが結果的にはそれほど落とさずに走れることにつながったのでよかったです」

──8区、9区は我慢の駅伝になりました。

「伊福(陽太・2年)は、下りが得意でチームで一番練習量が多く、力が安定していたので8区に起用し、順位を維持する走りをしてくれました。9区の菖蒲(敦司・3年)は全日本の結果(6区15位)がよくなくて、長い距離への不安がありました。想定タイムは69分15秒だったのですが、集団でいけたせいか、69分12秒で3秒ほど早く、チームにプラスの走りをしてくれました」

──10区は、当日変更で菅野選手になりました。

「辻の調子がよかったので、どっちにするのかというところで迷いはありましたが、菅野に任せました。最後、順天堂大があんなにくるとは思っていなかったですね(苦笑)。欲をいえば5位を獲りたかったですけど、菅野は想定タイムよりも20秒以上早かったのでよく粘って走ってくれたと思います」
 

 限りなく5位に近い6位となり、チームとしての目標を達成できた。各選手がほぼ想定タイムで走り、内容的にもいい流れで全10区間を戦い、強い早稲田復活の足掛かりとなるレースになった。
 

後編に続く>>「そのうち早稲田がくるな」、青学大・原晋監督や駒澤大・大八木弘明監督からの激励