早稲田大・駅伝監督花田勝彦氏インタビュー後編前編を読む>>6位躍進の裏にあった冷静な分析「全区間、ほぼ設定どおりのタイムで走ってくれた」 第99回箱根駅伝、早稲田大は往路5位、復路7位、総合6位という成績を収めた。戦前の順位予想では、シード…

早稲田大・駅伝監督
花田勝彦氏インタビュー
後編
前編を読む>>6位躍進の裏にあった冷静な分析「全区間、ほぼ設定どおりのタイムで走ってくれた」

 第99回箱根駅伝、早稲田大は往路5位、復路7位、総合6位という成績を収めた。戦前の順位予想では、シード権を争う10位前後という声が多かったが、その予想を大幅に覆したことになる。花田勝彦が監督に就任して、わずか1年。この結果を生むことができたのは、いくつかの要因があった。

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新主将の菖蒲敦司は今回9区を走り、区間9位の成績だった

──総合6位という結果に結びついた要因は、どういうところにあるでしょうか。

「一番は、故障者なく、エントリーした16名とサポートしてくれたメンバーが万全で当日に臨めたということでしょう。うちは、選手層が薄いので、他のチームのように仲間で競い合って強くなっていくことができない。チーム内でつぶし合うのではなく、まずは全員が走れる状況を作ろうという点で意思統一ができたのは大きかったですね」

──故障者を出さないのは花田監督がシーズン当初から重視していたところですね。

「故障者が多く出なかったのはよかったですが、その分、練習に関しては70%ぐらいしかできていないので、本当の意味で、箱根で勝負するというところにはまだ至っていないです。今回の結果につながったのも私の力というよりも前任者の相楽(豊・現チーム戦略アドバイザー)君が昨年、一昨年とスピード強化をしてきて、そのベースができていたからです。そのうえに、私がスタミナという足りない部分を強化しただけ。相楽君がやってきた蓄積があったなかでの成果ですので、本当の意味での私の指導力、成果が問われるのは来年、再来年だと思っています」

 花田監督が運営管理車(監督車)に乗るのは、上武大監督時代の2016年以来、7年ぶりだった。高速化する難しいレースのなか、今回は早稲田大という名門強豪校を率いて監督車に乗り込んだ。

──7年ぶりの監督車、上武大時代との違いを感じましたか。

「上武大の時は、2区まででシード争いから脱落していることが多かったので、乗っている時間がすごく長く感じられたんです。でも、今回はレースに動きがあるなか、非常にワクワクして選手のうしろ姿を見ていたので、11時間がアッという間でしたね(笑)。ただ、声かけについては、適切な感じでできなかったので、来年は少し考えないといけないと思いました」

──声かけは、難しいのでしょうか。

「他大学の監督は、選手に鞭打つような声かけをされていましたけど、私はそういうのが得意じゃない。それに私の声によってペースが上がるというのはチームにとってはプラスですけど、選手の育成を考えた時、プラスにならないと思っているんです。私の大学時代は、自分でレースの状況を判断して、20キロをしっかりとまとめていきなさいという指示を受けていたのですが、それが実業団に入ってからすごく活きました。実際、マラソンでは監督車はつかないですからね」

──タイム差も伝える必要がない、と。

「そういう情報も助力だとは思っています。理想は、監督はうしろで黙って見ているだけ。特にアドバイス的なことではなく、夏合宿の思い出話とか、『この夏よく頑張ったな。その自信を持っていこうよ』ぐらいでいいかなと。箱根は声かけのルールが特別に認められているので、まったく使わないというのもないかなと思いますので、『あと何秒で区間賞』とか、競っているなかで他大学の監督さんの檄に感化されて言った時もありましたけど、やっぱり早稲田大では自分で考えたなかで走れるような選手に育成したいですね」

 早稲田大の総合タイムは、10時間55分21秒で花田監督の想定タイムとほぼ同じだった。シード権を獲得し、次につながるレースになった。選手たちも「ここで満足してはいけない」と語り、花田監督と同じ気持ちを共有することができたことは非常に大きかった。ただ、現実には、トップの駒澤大とのタイム差は大きく、厳しい現実として突きつけられた。

──優勝した駒澤大とは、総合成績で約8分の差がありました。この差はどう見ていますか。

「私のなかで優勝タイムは10時間45分前後、うちは10時間53分から56分を考えていたので、ほぼどちらも想定どおりでした。それでもこの差は大きいです。うちが圧倒的に足りないと感じたのは、スピードです。エントリーのタイムを見てもうちの選手は5000mとか1万mのタイムが他のチームよりも劣っています。やっぱり競り合いになった時、相手が1万m27分台で自分が29分台だと勝てないという気持ちになるので、そうならずに戦うためには春からはタイムを狙う選手は結果を出していかないといけないと思っています」

──春はスピード強化としてトラックに力を入れていくということですか。

「そうですね。優勝を狙えるチームにするためには、10人の内、5名は1万m27分台とかインカレで優勝争いをする選手が出てこないと難しい。また、自分のスピードが上がっていけば、総体的な力も上がっていきます。チームにとって箱根駅伝は大事ですけど、早稲田としては学生トップ、日本のトップを目指すという話をよくしているので、次の1年に関しては、そこにもしっかりとフォーカスしていきたいなと思っています」

──チーム強化として、何か特別なプランを考えているのでしょうか。

「海外遠征を考えています。中央大の藤原(正和)監督の計画で吉居(大和・3年)君をアメリカに行かせていますが、これはすごく重要かなと思っています。私も海外遠征が成長を後押ししてくれたからです。大学4年の時、チームメイトの渡辺(康幸)君がユニバーシアード出場になり、私は次点になって落ち込んでいたんです。その時、監督の瀬古(利彦)さんから『渡辺の練習パートナーとして来い』と言われて、1か月半ほど欧州遠征に帯同させていただきました。そこで5000mと1万mで当時の学生歴代2位の記録を出すことができて、一気に強くなりました。そういう機会を早稲田で作っていきたいと思っていて、2月にはその資金を集めるためのクラウドファンディングをやります」

 春には八千代松陰の工藤慎作、佐久長聖の長屋匡起、学法石川の山崎一吹らポテンシャルの高い選手たちが入学してくる。一方で、強さを見せた主将の鈴木創士、ゲームチェンジャーの井川龍人が卒業するが、新しいチームからはそういう存在が見えてこない。

──優勝するチームには、必ずゲームチェンジャーと呼ばれる選手が存在します。

「井川が卒業した後、早稲田の顔って誰?と言われたら、たぶん今は名前が出てこないと思うんです。次の箱根までに早稲田のエースは誰々だよねっていう状況を作らないと今年以上の結果は望めない。その可能性があるのが、1区を走った間瀬田(純平・1年)、今回は出なかった山口(智規・1年)とか、須山(向陽・1年)あたりですね。あと、都道府県駅伝で長野代表として優勝した伊藤(大志・2年)、石塚(陽士・2年)がエースに育ってほしいというのがあります。今の3年生は、菖蒲(敦司・3年)が新たに駅伝主将になりますし、下りが得意な北村(光・3年)もいますが、この1年で井川のようになるのは時間的に難しいですし、来年以降のことも考えると新入生も含めた新3年生までの世代に期待したいですね」

──次回は、100回の記念大会になります。今回以上のインパクトを残せるでしょうか。

「100回大会も今回同様、早稲田はまだ優勝を狙いますと言えるチームではないと思います。これから地道に練習を積み重ねて、来年の箱根を迎えた時、今年以上の想定タイムが立てられ、なおかつ今回の青学大が山でブレーキしたり、國學院大のエースが出られなかったり、上位校にそういうミスやアクシデントが起きたら往路のどこかではトップに立てるかもしれない。その可能性が見えるチームを作っていかないといけないと思っています」

──他校の力を、どう見ていますか。

「駒澤大は数名の主力を抜いたなかで優勝していますし、中央大も今回箱根を走った選手が揃っているので非常に強い。優勝経験のある青学大、國學院大もチーム状況がいい、順天堂大には三浦(龍司・3年)君がいます。この5強の構図は、次回も変わらない。ただ、今回については、どこの大学も早稲田をライバルと思っていなかったと思うんです。でも、来年の箱根駅伝を迎えた時、自分たちが優勝や3位以内とか言うのではなく、周囲が早稲田はひょっとしたら3位以内にくるかもねって言われるような状況を作っていきたいですね」

──今年の6位で他校が早稲田を見る目が変わったと思います。

「都道府県駅伝で、青学大の原(晋)監督や駒澤大の大八木(弘明)総監督にお会いした時、『そのうち早稲田がくるな』と冗談めいた感じで声をかけていただいたんです。今は、2校とも背中が遠くに見えている感じですが、もう少し本気になってもらえるようにチームを強くしていきたいと思っています」