みなさんはこれまでスポーツを習得する際、周囲の「真似事」や「見よう見まね」から始めたという経験をしたことのある方もいるのではないでしょうか?実はこの体験は「社会的学習理論(モデリング)」というある有名な考え方に則って説明することができます…

 みなさんはこれまでスポーツを習得する際、周囲の「真似事」や「見よう見まね」から始めたという経験をしたことのある方もいるのではないでしょうか?実はこの体験は「社会的学習理論(モデリング)」というある有名な考え方に則って説明することができます。

 この考え方はあらゆる技術や物事の習得に関与します。そのため、社会的学習理論を理解することで、スポーツ選手やアスリートの飛躍的な成長を実現することも可能になります。この「真似事」「見よう見まね」による学習は成長の可能性に大きく結びついています。そこでこの記事では、そんな成長に欠かせない考え方である社会的学習理論(モデリング)について脳科学の視点からアプローチした論文も交えながら詳しく解説します。アスリートやスポーツ選手だけでなく、指導に当たる立場の方にも有益な情報です。ぜひ参考にしてみてください。

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あらゆる”学習・習得”の鍵、社会的学習理論(モデリング)とは

あらゆる学習の基本は周囲の真似をすることによって成り立っているとされます。

みなさんも似たような経験をしたことや実際に指導をしていて実感することもあると思います。

この考え方は心理学では社会的学習理論によって説明されます。

社会的学習理論とは、自分の直接した体験でなくても、代表者の行動を観察し模倣する「見よう見まね」で大多数が学習することができるとした理論です。

観察・模倣を行う過程から「モデリング」とも呼ばれます。

バンデューラによる提唱から現代に至るまで社会的学習理論は教育学や社会学にも大きな影響を与えることとなりました。

社会的学習理論は「自己効力感」を提唱したことで著名な著名なアルバート・バンデューラによって1970年代に提唱されました。

バンデューラの提唱した「自己効力感」についてさらに詳しく知りたい方はこちらSelf-efficacy(自己効力感)は怪我の回復に関係する?もご覧下さい。

社会的学習理論(モデリング)は4つのプロセスに分かれる
社会的学習理論は「ボボ人形実験」という実験によって大きく注目されることとなりました。

この実験では他社の言動を観察するだけでも学習に寄与するという考え方が広まりました。

学びの可能性を大きく広げることとなった社会的学習理論(モデリング)ですが、他者の観察、模倣にる学習が可能であることがわかったことで学習へのアプローチも大きく変革することとなります。

バンデューラは社会的学習理論について、4つのプロセスによって成立するという仮説を立てました。

・観察対象に注意を向ける、注意過程
・対象の行動内容を記憶に保持する、保持過程
・対象の行動を模倣する、運動再生過程
・行動に対するモチベーションが高まる、強化と動機付け過程

このように他者の行動の観察によって自身の学習や変容につながると考えられています。

そのため、観察によって生じたイメージの強化が重要であるとも言えます。

社会的学習理論(モデリング)の活用には、環境づくりが重要
バンデューラによる社会的学習理論の4プロセスによれば、イメージによってもたらされる強化が大きな役割を担うということがわかりました。

イメージによる強化には以下の3種類の形態が存在するとされます。

・報酬を得られる予期だけでも強化される、外的強化
・観察する対象である他者の得る報酬が強化に結びつく、代理強化
・自分の行動がある基準に達した時に自己が与える報酬が強化する、自己強化

例えば、代理強化は観察対象としているアスリートやスポーツ選手の成功によって得やすい強化であると言えるでしょう。

ただし、報酬の認識によって大きく強化が変化することからこの選定は重要な役割を担います。

そのため、「もし自分が指導される側だったら」と相手の立場に基づいて考えることが重要であると言えます。

また、たとえ仮想の環境であっても報酬となるような役割を設定することで、効率的なイメージの強化につながると言えます。

社会的学習理論(モデリング)は脳科学からのアプローチが進んでいる

Nature Reviews Neuroscienceに掲載された論文The neural and computational systems of social learning(2020)では、社会的学習理論を神経系と計算システムを対象とするアプローチで説明することを試みました。

この論文は社会的学習理論に対するこれまでの脳科学的なアプローチをまとめたレビュー論文です。

社会的学習理論は一般的に、予測誤差を含む自己の経験した価値感の学習によって活性化される脳回路によって生じるそうです。この事実は光遺伝学などの神経生物学的手法の発展と共に少しずつわかってきたため、今後の更なる解明が期待されるとしています。

また、社会的学習理論は不安障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖や不安の伝達にも密接な役割を有しており、新たな治療法の確立も期待されます。

社会的学習理論による複雑な行動変化を理解することで、神経モデルと計算モデルを橋渡しする従来にはみられなかったようなユニークなアプローチも可能になると結論付けています。

成長には周囲からの刺激が重要
社会的学習理論は他者の影響を受けて成長につながる学習であり、学習は子供だけでなく成長後も行われます。

バンデューラの仮説立てた社会的学習理論(モデリング)の4プロセスより、模倣に至るまでには能動的な取り組みが重要です。

人間は年齢にかかわらず常に学び続けることができる、という性質を理解した上で「環境が人を形成する」ことを念頭に置くと飛躍的な成長につながるでしょう。

特に指導者が選手やアスリートの成長を促すためには、まずは周囲の疑似体験が可能な環境作りから始めてみましょう。

参考論文:Andreas Olsson, Ewelina Knapska & Bjorn Lindstrom:The neural and computational systems of social learning,Nature Reviews Neuroscience volume 21, 197?212 (2020)

https://www.nature.com/articles/s41583-020-0276-4

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。