栗原恵インタビュー 後編「眞鍋ジャパン」1年目の振り返り(前編:春高バレーに出場した大友愛の娘を見て「末恐ろしい」。準優勝した母校のエース、世界基準の留学生についても語った>>)――昨年度から眞鍋政義監督が指揮を執っていますが、あらためて、…

栗原恵インタビュー 後編

「眞鍋ジャパン」1年目の振り返り

(前編:春高バレーに出場した大友愛の娘を見て「末恐ろしい」。準優勝した母校のエース、世界基準の留学生についても語った>>)

――昨年度から眞鍋政義監督が指揮を執っていますが、あらためて、新チームの昨年の戦いをどう見ていましたか?

栗原:監督就任時に9位だった世界ランキングを、世界バレー後に6位に上げたことはさすがですね。スローガンに"ブレイクスルー"を掲げ、「こういうバレーをする」ということを選手たちに意識づけして、専門のスタッフを集めた。人の長所をうまく生かす方なので、昨年はそれが顕著に出たと思います。



世界バレーの第1次ラウンドで、強豪ブラジルに勝利した女子バレー日本代表

――栗原さん自身も、一度目の眞鍋監督体制時(2008~2016年)に指導を受けた経験がありますが、指導や采配の特徴は?

栗原:それまで経験したことがなかった指導法でした。レシーブ担当、ブロック担当、サーブ担当と、それぞれ専門のコーチが指導をして、気づいたことは眞鍋さんとピンポイントで話をしていくので効率的でしたね。練習メニューも最初に全部書き出してくれて、「ズルズルと長く練習すると力の配分をしてしまう。そうじゃなくて、今日はこの練習しかしないから全部の力を出しきろう」という感じでした。

 以前は、特に高校などでは「練習をどれだけ長くやるか」という傾向がありましたから、「あとの練習のために力を残しておこう」と計算してしまうこともありました。でも、眞鍋監督の指導にはそれがない。目標を持って練習して、成果を数字に出す。それを自分たちでもシェアして、みんなで話し合いながらチーム力を高めていく。「"大人のチーム"だな」と感じました。今はより緻密にやっているでしょうし、だからこそ1年目であそこまでチームを作り上げられたんだと思います。

――ちなみに、練習以外の時はコミュニケーションを取るんですか?

栗原:これも私の経験ですが、ヒザのケガから復帰したばかりでコンディションが悪く、落ち込んでいる時に体育館に入ったら、私が好きな音楽をかけていてくれたことがありました。最初は気づかなかったんですが、眞鍋監督がニヤリとして「メグが好きな曲やぞ」と(笑)。そういう細かい心配りができる方でしたね。当時、中心選手だった竹下佳江さんなどを中心に、選手とのコミュニケーションも密に取っている印象でした。

――昨年の6、7月に行なわれたネーションズリーグ(VNL)は、8連勝から最後は連敗。全体を通してどんな印象でしたか?

栗原:大会の前半は、眞鍋監督が目標として掲げていた真ん中からの速いバックアタックがすごく決まっていました。ピンチの時にもそこで乗りきるシーンがありましたね。サーブレシーブが安定していたので、短い時間で組み立てたとは思えない質の高いコンビのバレーができていました。

 サーブもよかったです。相手国のサーブで狙う選手がハッキリしていて、選手たちのサーブの球質もすごくよかった。ただ、VNLは長期間でデータが揃っていく分、その対応などが難しい大会。予選は4試合ずつ、世界各国を転戦するスケジュールもかなりハードですから、後半はその疲れもあったんだと思います。

――9、10月の世界バレーでは、3戦目の中国戦でキャプテンの古賀紗理那選手がケガを負って離脱。ただ、次戦のブラジルに勝つなど、その後は奮闘しました。
 
栗原:すばらしかったですね。以前は古賀選手が絶対的なポイントゲッターで、「いないと厳しい」という時期もありました。古賀選手が離脱したことは残念ですが、結果として、「ファイナルまで勝ち上がって、また古賀選手とプレーしよう」という形でチームがまとまったように感じます。

 代わりに出た石川真佑選手をはじめ、井上愛里沙選手、林琴奈選手など、技術力が高い選手がうまくかみ合って、また違う雰囲気のチームができた。対戦相手からしたら、古賀選手中心のチームとして分析していたでしょうから、「すごく嫌だろうな」と思って見ていました。

――2大会を通して、栗原さんが注目した選手はいますか?

栗原:まずは林選手。私がJTマーヴェラスで現役最後のシーズンを過ごした時(2018-19シーズン)に1年目の選手でした。当時から攻守に安定感があって、「本当に若手?」というベテラン選手のようなプレーをしていましたね。バレーをよく知っていて、"勝ちどころ"も知っている選手。昨年度の日本代表でも、彼女が日本の要になっていると感じました。他の選手に安心感をもたらす存在ではないでしょうか。

 でも、ふだんはすごく性格がよくて、よく独り言を言っているようなお茶目でかわいい子です(笑)。試合とのギャップが魅力なので、今後は、あのキャラをもっと出してほしいですね。

――先ほど名前が挙がった、井上選手、石川選手はいかがでしたか?

栗原:井上選手は、さすがVリーグの2021-22シーズンMVPで、すごく上手でした。これまで日本代表にいなかったのが不思議なくらい安定した活躍をしていて、コートにいるだけで心強かったです。今シーズンはフランスリーグにチャレンジしているので、どんな選手に成長して帰ってくるのかすごく楽しみですね。

 石川選手は、初めは少し苦しい印象もありましたが、古賀選手がケガをして途中から起用された世界バレーの中国戦で表情が変わりました。プレーに吹っ切れた感じがあり、「行ける」という顔になっていたように見えました。持ち前の、ブロックをうまく利用したパワフルなスパイクも出ていましたね。特に、決して高くない身長ながらハイセットをしっかり打ちきれるのが最大の武器だと思います。成徳高校で身に着けた技術なのかなと思うのですが、早くからVリーグでも中心選手として活躍できている真髄を見せてくれました。

――この先、より成長が期待できる選手、代表に新しく入ってきそうな選手はいますか?

栗原:昨年度は関菜々巳選手が主にセッターを務めていましたが、東京五輪後に右手を骨折していた籾井あき選手にも期待したいですね。昨年5月に手術をした影響で、VNLは代表メンバーに入らなかった。リハビリを終えて世界バレーのメンバーに召集される前にJTに顔を出した際には、「練習期間も短いけど頑張ります」と話していて、実際に出場機会は少なくてもいいプレーを見せていました。

 今年はまたチャンスがあると思いますし、彼女が代表にフルでいる場合にどういうチーム構成になるのかも注目しています。眞鍋監督も世界バレー後、「籾井選手も使ってみたい。期待している」という発言をしていました。彼女はいいアタッカーが揃うJTで育てられ、優勝を2回経験し、東京五輪に出場と、22歳ながら経験豊富なセッター。それを存分に代表で発揮できることを期待しています。

――東京五輪は、籾井さんも奮闘していましたが、日本代表は25年ぶりに予選敗退と苦しみました。

栗原:籾井選手だけでなく、みんな苦しかったと思います。オリンピックはすごく難しい大会で、ひとつでも歯車がかみ合わなくなると、大会中に修正することが難しい。その苦しさを若い段階で知っていることは彼女の強みだと思います。

 セッターはコミュニケーションの部分も含め、チームを作る上で中心となるポジション。これから、さらに若い選手が入ってきた時に苦しかった経験を伝えられるし、実際にそういう場面になったら助ける側に回ることができるはずです。性格的にはすごくオープンな選手なので、彼女のよさをいい方向で伸ばしていけたら、チームにすごく明るい風が吹くんじゃないかと思っています。

――続いて、課題として指摘されることが多いミドルブロッカーについて。世界バレーでは、本来アウトサイドヒッターだった宮部藍梨選手が担う試合もありました。

栗原:ミドルは、長く荒木絵里香さんという絶対的な強い選手がいたので、そんな選手が抜けたあとに少し見劣りしてしまうことは避けられないものです。でも、世界バレーでは山田二千華選手がいい活躍をして、ミドルにもかかわらず15点以上挙げる試合もありました。最後、準々決勝のブラジル戦では19得点。試合は負けましたが、いい形で次につながるでしょう。

 宮部選手も、ミドルで代表に入れるかもしれないということが、いい意味で刺激になっているんじゃないでしょうか。なので、ミドルブロッカーについてもネガティブな見方はしなくていいと思います。

――栗原さんが日本代表でプレーしていた時よりも、チーム全体の「高さ」は少し低くなっていると思いますが、その点についてはいかがですか?

栗原:選手個々の技術はすごくしっかりしていますし、サーブレシーブからの展開の速さは世界に通用している部分がたくさん見られました。身長のハンデは、そこまでウィークポイントには感じなかったです。

 ハイセットの打ち合いになって、相手の高いブロックが2枚揃ってしまうと厳しい部分はあります。ただ、それは代表戦にはつきもので、これまでも「高さ」「パワー」については差があると言われてきた部分ですから。そうさせないような展開に持っていって、日本がやりたいバレーができれば十分に戦えるはずです。それをやることが、一番難しいんですけどね(笑)。

――各選手が現在プレーしているVリーグは、1月22日現在でJTが首位ですが、NECレッドロケッツが迫ってきていますね。

栗原:JTは大崩れしないチームですが、NECは状態がいいですね。開幕当初は、世界バレーに出ていた古賀選手や島村春世選手が出場していませんでしたが、やはり2人が出ると強い。昨年12月に決勝が行なわれた皇后杯もNECが優勝しましたし、Vリーグもさらにこれから面白くなりそうです。あとは、東レアローズなどがどこまで追い上げられるかですね。

――東レはリーグのレギュラーシーズンはよくても、ファイナルの最後でトップは獲れないということが続いていますね。

栗原:そうですね。でも、黒後愛選手もチームに戻ってきて、また面白くなっています。なかなか勝ちきれない経験がある選手が多ければ多いほど、土壇場でチーム全体が力を出しやすくなることもありますからね。籾井選手の話題の際にも話しましたが、苦しい経験はのちに、形になってプラスに働くものです。そういう意味でも、他のチームにとって東レは怖い存在だと思います。

 ここで話すことができなかったチームや選手も、今年はパリ五輪の予選がある大事な年ですから、存分に力を発揮してリーグを盛り上げてほしいです。

【プロフィール】

栗原恵(くりはら・めぐみ)

1984年7月31日生まれ、広島県出身。小学4年からバレーボールを始め、三田尻女子高校(現・誠英高校)では1年時のインターハイ・国体・春高バレー、2年時のインターハイ優勝に貢献。高校1年時に日本代表に初選出され、翌2002年に代表デビュー。2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪に出場した。2010年の世界バレーでは、32年ぶりに銅メダルを獲得した。その後、ロシアリーグに挑戦したのち、岡山シーガルズ、日立リヴァーレ、JTマーヴェラスでプレー。2019年6月に現役引退を発表した。引退後はバレーの試合での解説をはじめ、タレント活動など幅広く活躍している。