卓球は2024年パリ五輪でも日本のメダル獲得が有力な競技だ。 特に女子は世界最強の中国を除けば、ほぼ敵なし。まだ記憶に新しい2021年夏の東京五輪でも、伊藤美誠が水谷隼とのペアで中国を破って混合ダブルスで金メダル、女子シングルスでも銅メダ…

 卓球は2024年パリ五輪でも日本のメダル獲得が有力な競技だ。

 特に女子は世界最強の中国を除けば、ほぼ敵なし。まだ記憶に新しい2021年夏の東京五輪でも、伊藤美誠が水谷隼とのペアで中国を破って混合ダブルスで金メダル、女子シングルスでも銅メダルを手にした。さらに伊藤、石川佳純、平野美宇で臨んだ団体戦は銀メダルに輝いた。



Tリーグや国際大会の過密日程のなか、パリ五輪代表を争う選手たち。女子は早田(右から2番目)が首位を独走中

 だが、五輪本番以上に厳しいのが国内の代表争いである。高いレベルで実力が拮抗する日本の女子は選手層が厚く、2022年3月に始まったパリ五輪の代表争いもすでに激しさを増している。

 1月23日に全日本選手権が開幕したが、代表争いの加熱ぶりは2023年に入ってさらに加速することになる。

【日本独自の選考基準が生んだひずみ】

 日本卓球協会(JTTA)が打ち出したパリ五輪の代表選考基準はこれまでになく複雑だ。代表争いの本格化を前に、そのシステムと経緯を今一度、整理しておきたい。

 卓球のパリ五輪代表選考基準は、東京五輪で採用された世界ランキング重視型から、計6回の国内選考会と主要な国際大会、さらに国内卓球リーグのTリーグの成績をポイント制にする新たな方式に変更された。

 選考期間は2022年3月の第1回選考会から、2024年1月に開催が予定されている全日本選手権大会までの約1年10カ月。選考対象となるのはシングルスの2枠で、団体戦要員の3人目はシングルス代表2人とのダブルスのペアリングや、団体戦に貢献できるシングルスの実力を鑑みて選出される。

 JTTAが選考基準を変えた理由には、コロナ禍による国際大会の相次ぐ延期や中止と、国際卓球連盟(ITTF)が主催するワールドツアーの大幅なシステム変更がある。

 代表選考基準の考え方が発表された2021年9月当時は、世界的にコロナ禍のまっただ中で、日本卓球協会としてはやむにやまれない判断でもあった。

 また、ITTFが2021年に立ち上げた新シリーズWTT(ワールド・テーブルテニス)は、以前のワールドツアーではどの選手も協会から参加申し込みが可能だったのに対し、大会のグレード別にWTT側が指名する世界ランキング上位選手しか出場できなくなったため、公平性の観点から疑義を唱えたJTTAが、国内重視のパリ五輪代表選考に踏みきったという背景もある。

 ところが、2022年になりコロナ禍が落ち着いてくると国際大会の開催も徐々に正常化し、日本の選手たちは国内選考会とTリーグ、国際大会の出場に追われて心身の負担を訴え始めた。

 世界選手権大会の代表選考も世界ランキングは度外視され、国内選考会での一発勝負で決まり、戸惑う選手も現れた。さらに、Tリーグに参戦していない実業団の社会人選手や学生は代表選考ポイントを得る機会が少なく「不利だ」という声もあがった。

 これらを受けて、「JTTAは選考基準を見直す必要があるのではないか」という空気が濃くなっていったが、大きなうねりになるには至らず。昨年末、現行の選考基準を踏襲することを協会が明言した。

【選考ポイントで首位独走の早田。国際大会での実績が自信に】

 異例のパリ五輪代表選考レースで、現在女子のトップを走るのは早田ひなだ。

 早田は2022年3月の第1回選考会「LION CUP TOP32」で優勝したのち、パリ五輪選考ポイント対象のTリーグ個人戦・ノジマカップでも優勝。さらに第2回選考会の「全農CUP TOP32福岡大会」で3位、第3回選考会の「全農CUP TOP32船橋大会」で2位という安定感でポイントを重ね、Tリーグの勝利点を合わせた選考ポイントを164に伸ばした。

 これを追う2位の伊藤美誠は、117.5ポイントで早田と46.5ポイント差。さらに3位の平野美宇は109ポイントで早田と55ポイント離れている。

●パリ五輪シングルス選考ポイント 上位8人の状況

1位 早田ひな 164p

2位 伊藤美誠 117.5p

3位 平野美宇 109p

4位 木原美悠 106p

5位 芝田沙季 102p

6位 長﨑美柚 97p

7位 石川佳純 87p

8位 佐藤瞳 69p

(※2023年1月9日現在)

 早田はなぜ2位の伊藤以下を大きく引き離すことができたのか。その理由は東京五輪直後のスタートダッシュにある。

 東京五輪を戦った伊藤、石川、平野は大仕事を終えてひと息ついたが、リザーブ(控え選手)として3人を支えた早田は東京五輪に刺激を受け、大会が終わるとすぐさまパリ五輪代表選考に向けた強化に着手。実戦における対応力の幅を広げる練習を始めた。

 当時の早田は、伊藤、石川、平野に比べて国際大会の実績に乏しかったが、2カ月弱の強化の甲斐あって、東京五輪の翌月のアジア選手権ドーハ大会(2021年9月28日〜10月5日)で女子シングルス、混合ダブルス、女子団体で金メダルを獲得。3冠達成の快挙を成し遂げた。

 さらに11月の世界選手権ヒューストン大会(個人戦)でも女子シングルスおよびダブルス、混合ダブルスに出場。ダブルス2種目で銀メダルに輝き自信をつけた。この時期の成長が、2022年の早田の飛躍につながったことは間違いない。

【女子日本のエース伊藤の復調は? 平野も猛追】

 早田がギアを上げる一方で、苦しんでいたのは伊藤だ。

 女子日本のエースとして東京五輪に全身全霊を傾け、燃え尽きた。1大会で金・銀・銅3個の五輪メダル獲得という偉業に日本中が沸き、周囲はすぐにパリ五輪への期待を口にしたが、伊藤本人はその気になれず卓球から離れる選択さえも頭をよぎった。

 結局は、シングルスで金メダルを獲れなかったことが心残りで、パリ五輪を目指すことを決意。しかし、代表選考レースが始まった昨年3月時点ではまだ完全に気持ちが定まらず、第1回選考会で5位、続くパリ五輪選考ポイント対象のTリーグ個人戦もベスト8で敗退と精彩を欠き、この2大会で優勝した早田と40ポイントの差が開いた。

 そんな伊藤も第2回選考会では本領を発揮して優勝。ところがその後、国際大会と国内選考会のスケジュールが過密になり心身ともに疲弊した。

 とりわけ、世界選手権成都大会団体戦(2022年9月30日〜10月9日)は消耗が激しく、帰国直後に出場したパリ五輪の第3回選考会で6位に沈み、「精神的にも身体的にも疲労がたまりすぎて、頭も働きづらいしボロボロ」と涙ながらに訴えた。

 過密スケジュールの影響は早田にも及んだ。世界選手権成都大会の途中で利き腕の左上腕三頭筋を痛めてプレーできない状態になり、約1カ月間の休養を強いられたのだ。「競技を始めてから、全くラケットを握れなかったのは初めて」と明かした早田にも、やはり疲労が蓄積していた。

 一方で調子を上げたのが平野だった。パリ五輪選考レース序盤で出遅れた平野は、世界選手権成都大会出場を逃したが、2022年4月に日本生命から木下グループに所属先を変え、練習環境が変わったことでプレーにもいい変化が起きた。選考レースでは目下、2位の伊藤に8.5ポイント差に迫る勢いだ。
 
 そんなパリ五輪代表選考レースは、全日本選手権から激しさを増す。今年から全日本選手権が選考ポイントの対象になるからだ。さらに選考会やTリーグのポイントは2倍になる。たとえば、1位にに与えられるポイントは昨年の50ポイントから100ポイントに倍増。形勢逆転も十分にある女子のパリ五輪代表選考の行方はいかに。

●2023年のパリ五輪シングルス選考対象大会

・全日本選手権大会:1月23〜29日/東京体育館

・第4回選考会:5月6〜7日/トッケイセキュリティ平塚総合体育館

・世界選手権ダーバン大会(個人戦):5月20〜28日/南アフリカ

・Tリーグ個人戦:調整中

・第5回選考会:調整中

・アジア競技大会:9月23日〜10月8日/中国・杭州

・アジア選手権大会:調整中

・第6回選考会:12月6〜17日/北九州市立総合体育館

・2023-2024シーズンTリーグ:2023年12月末まで

・中国トップ3(世界ランキング上位3人以内)の選手に勝利した国際大会

●2024年のパリ五輪シングルス選考対象大会

・全日本選手権大会:調整中