インディ500に優勝した佐藤琢磨(アンドレッティ・オートスポート)への注目度は高いままに保たれている。翌週のデトロイトのダブルヘッダーでは2レースともにトップ争いに加わり、ポイントランキング3位をキープしているからだ。インディ500勝…

 インディ500に優勝した佐藤琢磨(アンドレッティ・オートスポート)への注目度は高いままに保たれている。翌週のデトロイトのダブルヘッダーでは2レースともにトップ争いに加わり、ポイントランキング3位をキープしているからだ。


インディ500勝者として存在感も大幅アップの佐藤琢磨

  続いて6月11日に行なわれたシーズンの折り返し点となる第9戦テキサスは、全長1.5マイルの超高速オーバルコースを使ったナイトレース。インディ500で速かったアンドレッティ・オートスポートは、ここでも速いだろうと大きな期待がかかった。

 ところが、新たに舗装されバンクの角度が緩やかになったコースに、アンドレッティ勢はマシンセッティングをピタッと合わせることができなかった。同じホンダのエアロキットを使うチップ・ガナッシ・レーシングの4台が予選1位、2位、4位、6位と優位を見せつけたのに対し、アンドレッティ勢はアレクサンダー・ロッシが3位に食い込んだものの、それ以外の3人は、琢磨が8位、ライアン・ハンター-レイとマルコ・アンドレッティはトップ10圏外の13位、15位と苦戦した。

 レースではシボレー陣営のエース、チーム・ペンスキーがマシンセッティングを最もコンディションにマッチさせてきた。予選では9位、10位、12位、17位と振るわなかった彼らだが、「決勝用マシンをハイレベルに仕上げれば勝機あり」というアプローチで、それが見事に当たった。

 ペンスキー勢は、1回目のピットストップを終えたところでレースのイニシアチブを握った。予選9位だったウィル・パワーが先頭を走り、予選12位だったシモン・パジェノーが2番手につけると、彼らはチームメイト同士によるポジション争いを行なわず、縦に一列に並んで淡々と周回を重ねていく。予選1位だったスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)のマシンも、僚友トニー・カナーン(同)のマシンも決して悪い仕上がりではなかったが、ペンスキーの2台を抜くことができないまま、レースはハイペースで進んでいった。

 琢磨はレース前、「スタートで順位を上げ、上位にポジションを保ったまま終盤戦の勝負に備えたい」と語っていたが、スタートしてしばらくするとポジションを落としていった。気温や路面温度の高いレース序盤、マシンは安定感を欠いていた。そこへ思わぬ不運も襲いかかる。

 琢磨はデトロイトのレース2でポールポジションだったことから、今回のレースでは真っすぐピットアウトできるメリットを持つ先頭のピットがあてがわれていたが、これが逆に仇となった。41周目に行なった1回目のピットストップで、ジェームズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)がピットアウトで焦ってスピン。エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)を巻き込み、2台が絡み合ったまま琢磨のマシンに突っ込んできたのだ。

 2台を犠牲にしたヒンチクリフは、何事もなかったかのようにコースに戻った(後にペナルティを課せられる)。一方、カストロネベスはエンジン・ストールするも、ギリギリでリードラップにとどまった。ただ1人、壊されたフロント・ウィングの交換作業が必要となった琢磨だけが周回遅れとなってしまう。

 これで琢磨の上位入賞のチャンスは消滅したかに見えた。97周目に出たイエローコーションの間にリードラップには復活したが、後方集団は激しい乱気流の中での走行となるため、なかなか順位を上げていくのは難しいからだ。だが、248周のレースが150周を過ぎたとき、中段グループで多重クラッシュが発生。琢磨はこれをうまく潜り抜け、一気に7番手までポジションを戻すことに成功した。

 この頃になると太陽は完全に沈み、気温も路面温度も下がっていた。琢磨たちのマシンセッティングは、レース終盤のコンディションに合わせることを目指しており、その狙い通りに力を発揮できる環境が整ってきた。

 残り約80周で琢磨は5番手に浮上。もうトップは完全に射程圏内に入っていた。ここからは壮絶な接近戦が繰り広げられ、琢磨は誰も成功させていなかったアウトサイド・パスをターン1からターン2でやってのける。先行する2台を外側から豪快にパスした彼の走りに、大歓声が上がり、インディ500ウィナーがテキサスも制す! そう思われた。

 しかし残り5周、琢磨は接近戦でポジションを取り合う中、左タイヤを芝生に落としてスピン。並走していたディクソンともどもアウト側の壁に激突した。レースはそのままイエローで終了。優勝はパワーが手にし、カナーンが2位、パジェノーが3位となった。4位はデトロイトで2連勝したグレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。完走はわずかに6台だけだった。

「最後にアウトからパスして勝ちたかった」と琢磨は悔しがる。アクシデントで終わったが、チームオーナーのマイケル・アンドレッティやエンジニアも勝ちにいった琢磨のファイトを讃えていた。

 リタイアはしたが、レースのリザルトで琢磨は10位に入り、ポイント・スタンディングは3番手をキープ。トップのディクソンとの差は14点と小さい。次戦は6月25日、ウィスコンシン州の高速ロードコース、ロード・アメリカだ。