女子ジャンプW杯札幌大会が3年ぶりに開催された。7日の初日、高梨沙羅(クラレ)は11位という結果に終わったものの、明るい表情だった。明るい表情でW杯札幌大会を終えた高梨沙羅 北京五輪から約1年が経ち、スキーの形状が先まで平らなものから、先…

 女子ジャンプW杯札幌大会が3年ぶりに開催された。7日の初日、高梨沙羅(クラレ)は11位という結果に終わったものの、明るい表情だった。



明るい表情でW杯札幌大会を終えた高梨沙羅

 北京五輪から約1年が経ち、スキーの形状が先まで平らなものから、先端が上がるものに変わり、ジャンプスーツのルールも変わった。高梨は夏のGPシリーズに出場しなかったため、この冬のシーズンに入ってから道具をいろいろと試していた。それもあって、11月上旬の開幕戦では6位と5位になったものの、12月の第3戦以降は10位台後半と低迷していた。

 それでも12月下旬に入ると予選を含めた3本のうち1本は、表彰台圏内に入れるジャンプを飛び始めていた。

 札幌の初戦1本目は、強めの追い風のなかでも118mを飛び、4位と僅差の7位につけた。ゲートが上がった2本目はK点オーバーの124mを飛んだが、空中で左側に寄ってしまい、まだ新雪が残っているところに着地して飛型点は伸びずに順位を落とした。

「道具に関しては今シーズン、新しいルールのなかでいろいろ試したけど、『これで』というものが決まったので、今は自分のジャンプに集中しています。これまではアプローチの滑りを重視していましたが、だいぶよくなってきてスピードも出るようになってきているので、今はテイクオフに取り組んでいます。まだ1本1本試しながらやっているので、迷いもありますが、そのなかで少しでも改善につながるポイントが出てきた時には、それが強みになると思うので、しっかり手放さないでつかんでいきたいと思います」

 その課題としているテイクオフについて、日本チームの横川朝治ヘッドコーチはこう説明する。

「今の沙羅は踏み切ったあと、空中に行くのが早すぎるかなという感じです。テイクオフして空中に出るとき、スキーは一度しなってから元に戻ってくるのですが、今の彼女はスキーが持ち上がる前に空中姿勢を作るために突っ込んでしまっている。予選などでトップ3に入るときは、試合モードではないのできれいに立てるのですが、試合になるとだんだんイケイケモードになってしまい、今シーズンは特に早くなりすぎている。スキーの形状が変わったし、スーツのルールも変わったので手探り状態というか。空中ではまだ浮力を感じられないようになっているので、立ち上がる時に前に行き過ぎているのだと思います」

 この日は逆に試合前の予選で、前に突っ込み過ぎた踏み切りになっていたが、それを1本目では少し修正できていた。

「試合になると、どうしても気持ちが入ってしまい、グーッと行ってしまうんです。その辺をしっかり押さえ込んで待たなければいけないのはわかっていました。今日を踏まえて明日はどうしていくかというのを考えていくのは、そんなに辛い作業ではないなと思っています。今は1本飛ぶたびに『次のジャンプはどうしていこうか』と考えていけているので、冷静に一歩引いて考えられるようになったのかなと思います」

 新ルールのなかで、まだ低迷している状況。それでも冷静でいられる彼女に「大人の競技者になれたか」と聞くと、「大人になりたいですね」と答えた。そして「もう年齢的には大人なんですけど、ちょっと気持ちが入り過ぎて突っ込んじゃうところは、まだ子供っぽいですね」と言って爽やかな笑顔を見せる。

 翌日の第2戦は向かい風の条件で、予選は120.5mを飛んで5位といい位置につけていた。だが1本目はそれまでの向かい風が急に弱まり、全選手中、高梨だけがわずかな追い風になる不運で118.5mを飛んで13位。向かい風になった2本目はK点超えの123.5m。9位のジャンプで、順位を10位に上げて試合を終えた。

「1本目は、飛び出してから中盤までは追い風だったけど、最後のところでいきなり爆風のような向かい風が吹いたのでうしろに跳ね返される感じになり、着地ではテレマークを意識できませんでした。でも昨日のような突っ込みをしていたら、追い風のなかでもっと手前で落ちていたと思うので、そこはテイクオフをしてから少し待つことが改善できたと思います。

 空中での姿勢コントロールは、ある程度はできて飛べるようになっているという感じはあるけど、勝つためにはどんな風でもある程度まで飛べなくてはいけない。調子がいい時は追い風のなかでも、マキシマム(落下をし始める地点)までまったく追い風を感じないくらいのスピード感になりますが、今はまだそれがないのが一番苦しい部分です。それをどうやって取り返していくかを考えていかなければいけないと思います」

 この日の2本目も、できることはやって、それ以上でも以下でもないと話す高梨。

「飛距離に関してはトップ争いに食い込めるものも出ていたり、出ないときもあったりという感じだけど、それを試合で揃えるというのが大変。やっぱりコンスタントに10本中10本をいいジャンプで飛ばなければいけないので、まだいろいろ試しているなかでは同じジャンプは飛べていないです。試合に向けての作り上げ方と、今自分のジャンプを作っている作り上げ方との誤差が出てしまう部分はまだあると思います」

 ただ、今季は女子に対してのジャッジの飛型点のつけ方が厳しくなり、小柄な高梨は動きも小さく見えて不利な状態だ。今回の2試合を見てもジャッジが出す得点は16~17点(20点満点)がほとんどで、18~19点を出す選手とはトータル4~5点の差がある現状だ。横川ヘッドコーチは今後の改善点について、こう説明する。

「立ち上がってから早く突っ込んでしまう分、その瞬間にスキーがうしろにスリップしてしまう感じになってジャンプ台に上手く力が伝わらなくなっている。いつもの沙羅のようにしっかり踏めるようになれば、下に行ってからの飛距離は、もう10mくらいは簡単に伸びる。本人ももどかしいだろうけど、もっと簡単に飛ぶみたいなほうがいいと思います。着地のテレマーク姿勢も、今はしっかり踏めていなくてスピードが出ない分、最後は伸びないで高いところからストンと落ちる着地になっていて怖いと思います。でもジャンプ台をしっかり踏んで後半も伸びるようなジャンプをすれば、着地への入射角も緩やかになり自然とテレマークを入れられるようになると思います」

 北京五輪シーズンへ向かう前も、高梨は一からジャンプを作り直そうと、アプローチの姿勢から取り組み、テイクオフ、空中姿勢という順番で自分のジャンプを作ってきた。その作業を道具が変わった今季は、また最初からやらなければいけなくなった。それでも2月末からの世界選手権へ向け「早く自分のジャンプを作るためにも、いろんなことを試していかなければいけないと思っています」と前を向く。

「3年ぶりの札幌開催のW杯で、自分のジャンプでお客さんを沸かせられなかったのは正直悔しいところではあるし、もどかしい気持ちもあります。ただ、他の選手がビッグジャンプを飛んで観客が喜んでいる様子を見ていたら、『やっぱり試合っていいな』と思いました。スキージャンプをみんなで楽しんで、盛り上げられてというのが一番だと思うので、それを見に見えて感じることができた、すごくいい大会だったと思います」

 北京五輪のあとから再び登り始めた山。「目指すのは世界だから、当然登りたいのは世界一の山です」と話す高梨は、その頂点を次の五輪までには極めたいと、一歩ずつ進もうとしている。

 次戦、12日からの蔵王大会は、彼女が2012年3月にW杯初勝利をあげたジャンプ台。そこで観客をどこまで沸かせてくれるかを楽しみにしたい。