F1フォトグラファー 新春対談 前編スポルティーバで恒例となったF1フォトグラファー対談。今回も約30年間にわたってF1を撮影し続けている熱田護氏と桜井淳雄氏を招いて2022年シーズンを振り返ってもらった。新型コロナウイルスの規制が世界的に…

F1フォトグラファー 新春対談 前編

スポルティーバで恒例となったF1フォトグラファー対談。今回も約30年間にわたってF1を撮影し続けている熱田護氏と桜井淳雄氏を招いて2022年シーズンを振り返ってもらった。新型コロナウイルスの規制が世界的に緩和され、3年ぶりに日本GPも開催されたが、2022年は円安や物価高騰で海外取材は苦労の連続だったという。前編では、2年連続王者に輝いたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の素顔をはじめ印象的なドライバーについて語り合った。


F1カメラマンの熱田護氏(左)と桜井淳雄氏 photo by Igarashi Kazuhiro

【フェルスタッペンは

「学生みたい」】

ーー史上最多の全22戦が行なわれた2022年は、レッドブルのマックス・フェルスタッペンの圧勝というシーズンでした。2年連続チャンピンに輝いたフェルスタッペンを撮影していてどんな印象を持っていますか?

熱田護(以下、熱田) フェルスタッペンは、サーキットではレースのことしか考えていないように感じます。自分をこういうふうに見せたいというアピールがほとんどない。

 たとえば、シャルル・ルクレール(フェラーリ)は、自分が今カメラマンにこういうふうに撮られているから、こんなイメージが出せるだろうなと考えていると思います。

 ルイス・ハミルトン(メルセデス)の場合はサーキットに来る時にわざわざオシャレをしてきて、撮ってくださいね、と言わんばかりに猛アピールしてくる(笑)。そういうところは、正直あまり好きじゃないですが、プロフェッショナルとして自己プロデュースをしっかりしています。

 フェルスタッペンはいつもデニムとレッドブルのチームウェアにデイバック。学生みたいな感じですが、そういう無骨なところはむしろ好きです。

桜井淳雄(以下、桜井) フェルスタッペンは、ファンサービスもあんまりしないですよね。F1ではレース前にドライバーズパレードがあって、ご当地ドライバーの簡単なインタビューが行なわれたあとにTシャツなどのグッズをエアー式のバズーカのようなもので観客席に打ち上げたりします。

 普通のドライバーだったら何回もやるんですが、フェルスタッペンはオランダGPで母国のファンがたくさんいるのに一回やって終わり。あれにはビックリしました(笑)。

熱田 でもレースに関しては文句がつけようがないですね。速いだけでなく、本当にミスが少ないし、タイヤマネジメントも完璧。これぞ超一流ドライバーだという走りを見せつけて、2年連続でチャンピオンを獲った。もう今のフェルスタッペンには誰もかなわないですよ。

桜井 同意ですね。フェルスタッペンに唯一、対抗できるドライバーがルクレールだと思います。同じレベルのマシンに乗ったら、かつてのマクラーレンのアイルトン・セナとアラン・プロストのようなライバル関係になるような気がします。

 本来はそうならなければならなかったのに、フェルスタッペンのひとり勝ち。レッドブルというパッケージングとフェルスタッペンというドライバーがうまくかみ合って、誰も太刀打ちできない状態でした。



鈴鹿サーキットで開催された日本GPでポール・トゥ・ウインを達成し、2年連続のドライバーズチャンピオンを決めたマックス・フェルスタッペン photo by Sakurai Atsuo

【ホンダの活躍に感激】

ーー2022年シーズンで最も心に残っている出来事を教えてください。

熱田 僕が一番感動したのは、やっぱりホンダの活躍です。ホンダが開発したパワーユニットを搭載するレッドブルがコンストラクターズチャンピオンを獲得しました。アメリカGPのレース後にホンダのスタッフみんなが喜んでいる顔を見て、感激。それが僕にとってシーズンのハイライトですね。

 ホンダの現場スタッフは前年に比べると少数精鋭という形でしたが、ホンダは31年ぶりのコンストラクターズチャンピオンになります。2021年のフェルスタッペンのドライバーズチャンピオン獲得は、ホンダのスタッフにとってはもちろんうれしかったと思います。

 でも一番獲りたいのはコンストラクターのタイトルだと、スタッフ全員が話していましたから。ベルギーGPではホンダのエンジニアである吉野(誠)さんが表彰台に上がりました。レッドブルにもすごく評価されています。


桜井

 僕はフェラーリに期待していたんですけどね。開幕前テストへ取材に行った時に、マシンがものすごく速かった。しかもドライバーはフェルスタッペンに匹敵する実力を持つルクレール。

 最高のマシンと最高のドライバーがいるので、チャンピオンは確実だと思っていたのですが、あの体たらくです......。チャンピオンになるためにはチーム力が大事だということを再認識させられたシーズンだったと思います。


熱田

 ドライバーの重要さもわかった年だったと思います。ハースから2年ぶりに復帰したケビン・マグヌッセンが頑張って、チームをコンストラクターズ選手権で最下位から8位に躍進させました。

 ハースは前年、ミック・シューマッハとニキータ・マゼピンという若いコンビで臨みましたが、まったくダメだった。ところがドライバーひとりが入れ替わっただけで、劇的にチームの成績で変わりました。

 コンストラクターズランキングがひとつ上がればF1を運営するリバティ・メディアから配られる賞金額が増え、開発予算も大きく変わってきます。

 中団グループはその順位を上げることがすごく大事。ドライバーが持ってくるスポンサーマネーをあてにするのか、いいドライバーを雇って賞金で稼いでいくのか。どっちがいいのかというのが、よくわかった一年だったと思います。

【ラッセルはハミルトンをやっつける】

ーーコンストラクターズ選手権の連覇が8でストップしたメルセデスの戦いぶりはどう見ましたか?

熱田 ジョージ・ラッセルは正直、ちょっと期待外れでした。37歳のハミルトンはスピードの面では確実に落ちています。引退間近のキミ・ライコネンもそうでしたが、年齢とともにスピードが衰えてくると、戦い方がちょっとずつ変化してきます。

 ハミルトンもマクラーレン時代(2007〜2012年)に、当時のチームメイトだったフェルナンド・アロンソをやっつけたような圧倒的な速さは見られなくなっています。逆にタイヤをうまく使って、300キロのレースをどうやって組み立てるかという戦い方になっています。

 確実に終わりが近づきつつあるハミルトンに対して、ラッセルは予選での一発の速さではもっと大差をつけるような天才なのかなと思っていました。最終的にハミルトンよりは多くのポイントも稼いだこと(ラッセル275点、ハミルトン240点)はすごいですが、そこまでのものではなかったかな。


桜井

 ラッセルは、レーサーとして優しすぎるんじゃないかな。イギリスGPではスタート直後、ラッセルと周冠宇(アルファロメオ)が接触して、周のマシンがひっくり返った場面がありました。ラッセルはすぐに自分のマシンを止めて助けにいきましたが、あの時にラッセルのマシンは左リアホイールを壊れていただけでした。

 あのままピットに入って修理すれば、再スタートがきれました。でも助けに行ったことで、結局、ラッセルはリタイアに終わってしまった。おそらくハミルトンやフェルスタッペンはレースに出られる可能性が少しでもあるのであれば、絶対に助けには行かないと思います。ラッセルは速いですが、優しすぎます。

熱田 それについては、僕はちょっと違うと思います。意外とラッセルは腹黒いヤツですよ(笑)。2021年のエミリア・ロマーニャGPでバルテリ・ボッタス(当時メルセデス、現アルファロメオ)とクラッシュした時、ボッタスのところに向かっていって文句を言っていました。

 あれは明らかにラッセルのミスだと思いますが、このままでいけば自分が悪くなると察知して、アピールしていたと思います。そういうしたたかなところや野心を隠し持っています。

 2022年の前半はマシンが不調だったこともあったので、ハミルトンを倒すチャンスを虎視眈々とうかがっていた。2023年はガンガン行って、ハミルトンをやっつける最初のシーズンになると僕は予想しています。

対談 後編<「角田裕毅はすごく変わった」「岩佐歩夢は佐藤琢磨みたい」。F1カメラマンふたりが語る日本人ドライバーへの期待>につづく

【プロフィール】
熱田 護 あつた・まもる 
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。2022年シーズン終了時点で取材557戦の、日本を代表するF1カメラマン。2023年1月28日まで写真展『0.2sec』が「M16 Gallery」(東京都江東区冬木22-32 森芳ビル1階)で開催中。1月7日、14日、22日にはトークイベントも実施。

桜井淳雄 さくらい・あつお 
1968年、三重県津市生まれ。1991年の日本GPよりF1の撮影を開始。これまでに400戦以上を取材し、F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。YouTubeでは『ヒゲおじ』としてチャンネルを開設し、GPウィークは『ヒゲおじ F1日記』を配信中。鈴鹿サーキット公式HP内の特設ページ『写真で振り返る2022年シーズン』で作品を掲載。