F1フォトグラファー 新春対談 後編約30年にわたってF1を撮影し続けている熱田護氏と桜井淳雄氏による恒例のF1フォトグラファー対談。後編では、参戦2年目の日本人ドライバーの角田裕毅とのエピソード、2023年シーズンの見どころについて語って…

F1フォトグラファー 新春対談 後編

約30年にわたってF1を撮影し続けている熱田護氏と桜井淳雄氏による恒例のF1フォトグラファー対談。後編では、参戦2年目の日本人ドライバーの角田裕毅とのエピソード、2023年シーズンの見どころについて語ってもらった。



F1カメラマンの熱田護氏(左)と桜井淳雄氏 photo by Igarashi Kazuhiro

【角田裕毅は雰囲気が変わった?】

ーー参戦2年目の角田裕毅選手を間近で見て、どんな面に成長を感じましたか?

桜井淳雄(以下、桜井) シーズンの途中から、走りだけでなく、雰囲気がすごく変わったと思います。笑顔が多くなって、向こうから挨拶してくるようになってきました。人間的に大人になったなぁと感じました。

熱田護(以下、熱田) 僕はそんなに変わっていないと思うけどなあ(笑)。前から気さくに接してくれていました。でも2021年から生活拠点をイギリスからアルファタウリのファクトリーがあるイタリアに移して、生活を満喫してプライベートも充実していると話していました。メンタル面での成長を感じます。

桜井 ドライビングに関しては、クラッシュが減ったし安定感が出てきたと思います。でも2022年はアルファタウリのマシンがダメでしたし、チーム力もね......。どこのレースか忘れましたが、ピットで誰も仕事しないで、メカニックたちが壁にへばりついてずっと談笑していました。

 他のチームではあまり見られない光景です。もうクルマの準備ができ上がっているんだなと思っていたところに角田選手がやってきてマシンに乗り込みました。で、エンジンをかけてピットアウトしたら、いきなりオイル漏れで止まっちゃった(笑)。そのあたりがレッドブルとアルファタウリの差なのかなと感じました。

熱田 そこは前身のミナルディからの歴史ですよね(笑)。ドライビングに関して言えば、ちょっとずつ成長していると思います。最終戦のアブダビGPのあとで本人と少し話せて、角田選手は「チームメイトのピエール・ガスリーに教えてもらった部分もあるし、自分なりにいろいろ考えたこともあるけど、クルマのセットアップやレースのアプローチの仕方はだいぶ進歩したと思う」と話していました。



第13戦ハンガリーGPの角田裕毅。2022年はアルファタウリの競争力不足に悩んだ photo by Atsuta Mamoru

【岩佐歩夢は佐藤琢磨みたい】

ーー2023年シーズンはF2やフォーミュラEでチャンピオンになった実力派のニック・デ・フリースと新コンビを組みます。どっちがエースになるのかと注目されています。

熱田 それはシーズン序盤で決まるんじゃないですか。デ・フリースは遅くないですから、厳しい戦いになると思いますが、やってくれるでしょう!

桜井 角田選手にとっては勝負の年になるよね。デ・フリースは手強い相手ですし、下からはF2に参戦している岩佐歩夢選手も上がってくるかもしれません。

 関係者の岩佐選手に対する評価は高いし、他にも若い育成ドライバーが何人もいます。そういう意味ではすごいプレッシャーはありますが、頑張ってもらいたいですね。


熱田

 F1はそういう世界です。結果を出して、生き残ってほしい。F1とF2は併催されることが多いので、岩佐選手とよく話す機会があるのですが、印象は(佐藤)琢磨選手みたい。

 理路整然としていて、すごくちゃんと対応してくれます。おじさんのバカな話にはバカな話として返してくれるし、真面目な話はすごく丁寧にわかりやすく話してくれます。走りもすごいですよ。

 クルマを理解しようと努力を重ね、自分の改善できるところを考えてきちっと対応しています。


桜井

 レース後にオンラインでミーティングをしているのを聞くと、「クルマが悪い」じゃなく、「自分が悪い」「自分を変えなきゃいけない」というスタンスなんですよね。

 そこはすごいと思います。2023年は角田選手もいて、下から岩佐選手も上がってきそうだから、日本のファンは楽しみが多いですね。

【Netflix番組で盛り上がるF1】

ーー3年ぶりに開催された日本GPは観客が3日間で約20万人が来場。フェルスタッペンのタイトル獲得も決まり、大いに盛り上がりました。

桜井 日本GPの1コーナーが、シーズンで一番心に残っています。あそこでタイトル争いが決まった。その前にフェルスタッペンと(シャルル・)ルクレールの間には大差がついていたので実質的には勝負はついていたのですが、鈴鹿の1コーナーはまさにタイトルが決まった瞬間でした。

 でも、ルクレールもあの雨のなかでかなり粘って、1コーナーに並んで入っていった。最高にシビれましたね。結果的にフェルスタッペンがバトルを制し、日本GPでタイトルを決めましたが、あのふたりだから実現できたバトルだった。

熱田 鈴鹿の観客は本当にすばらしかった。雨で2時間以上、中断がありましたが、本当に寒かったんだから。僕はスタンドにいましたが、風はビュービュー吹いてくるし、ポンチョを着ていましたが、ズボンがずぶ濡れになってしまいました。

桜井 中止じゃなくてよかったです。2022年に関しては、鈴鹿サーキットは自分たちがコントロールできるだけの枚数しかチケットを販売しなかったと聞いています。きっと2023年はもっとお客さんが増えて盛り上がると思います。

熱田 今、F1が一番盛り上がっているのはアメリカですね。どのレースもスタンドがパンパン。テキサス州のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されたアメリカGPの観客動員は44万人です。2023年はアメリカGP、マイアミGP、ラスベガスGPと3イベントが開催されますが、アメリカ人が動くと、すごいお金が動くというのが本当によくわかります。

桜井 Netflixで配信されているドキュメンタリー番組『Formula 1:栄光のグランプリ』の影響が大きいと関係者は口をそろえていますね。

熱田 それはいいんですけど、僕たちからすればNetflixのカメラマンが毎戦ぞろぞろといっぱいいて、ちょっと撮影の邪魔なんですよね(笑)。

【日本でもF1ブーム再来の兆し?】

ーー最後に2023年シーズンの期待や見どころを教えてください。

熱田 チャンピオン争いは、レッドブル、フェラーリ、メルセデスのトップ3の構図は変わらないと思います。トップ3の差が縮まってきて、6人のドライバーのなかで誰が勝つかわからないという面白いシーズンになってくれることを期待しています。あとはアルファタウリには、角田選手がちゃんと実力を発揮できるマシンをつくってほしい。

桜井 角田選手にはもちろんデ・フリースに負けないように頑張ってほしいですが、僕はデ・フリースが中団グループをかき回す面白い存在になると思います。チャンピオン争いはフェルスタッペンとルクレール、それにハミルトン。この野獣3人のなかにラッセルは入れないと思います。

熱田 いや、ラッセルは絶対に来ますって(笑)。彼が優等生を装っているのは外から見ているとよくわかりますが、したたかな部分をもっと出して、フェルスタッペン、ルクレール、ハミルトンと競い合ってほしい。

 あと個人的にはフェルナンド・アロンソがアストン・マーティンに移籍して、チームをどう引っ張っていくのか。そこは注目しています。あのチームはランス・ストロールのお父さんがオーナーですから、何だかんでストロールが一番です。そういう状況でアロンソがストロール親子とどう関わって、戦っていくのかというのは見物です。

桜井 3年ぶりに開催された日本GPで、若い人や家族連れの姿が目につきました。これまで1980年代後半から1990年代前半のF1ブーム時代のファンがずっとスライドしていた印象でしたが、新しいファンがF1に注目し始めています。

 日本人ドライバーも角田選手や岩佐選手という若い世代が育っていますので、再び日本でF1が盛り上がってほしいです。

対談 特別編<敏腕F1カメラマン2人の2022年シーズンベストショット23枚。「上空からの面白い構図」「先陣争いのシビれる瞬間」「スタート直後の大クラッシュ」>につづく

【プロフィール】
熱田 護 あつた・まもる 
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。2022年シーズン終了時点で取材557戦の、日本を代表するF1カメラマン。2023年1月28日まで写真展『0.2sec』が「M16 Gallery」(東京都江東区冬木22-32 森芳ビル1階)で開催中。1月7日、14日、22日にはトークイベントも実施。

桜井淳雄 さくらい・あつお 
1968年、三重県津市生まれ。1991年の日本GPよりF1の撮影を開始。これまでに400戦以上を取材し、F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。YouTubeでは『ヒゲおじ』としてチャンネルを開設し、GPウィークは『ヒゲおじ F1日記』を配信中。鈴鹿サーキット公式HP内の特設ページ『写真で振り返る2022年シーズン』で作品を掲載。