後半11分、トライを決めた帝京大・高本幹也 強い。強すぎる。ラグビー全国大学選手権決勝で、帝京大が"異次元"の強さを発揮し、早大に73-20で圧勝、2季連続11度目の優勝を遂げた。決勝での最多得点、最大点差。『常勝時代』…



後半11分、トライを決めた帝京大・高本幹也

 強い。強すぎる。ラグビー全国大学選手権決勝で、帝京大が"異次元"の強さを発揮し、早大に73-20で圧勝、2季連続11度目の優勝を遂げた。決勝での最多得点、最大点差。『常勝時代』の到来を予感させた。

 1月8日の国立競技場。観客2万1400人のなか、帝京大の歓喜の胴上げが始まった。45歳の相馬朋和監督の大きなからだが宙を舞う。1回、2回、...、11回。どんな気分でしたか、と問えば、監督就任1年目の元日本代表PR(プロップ)は「不思議な感覚でした」と笑顔で漏らした。実直、正直、謙虚な人だ。

「学生たちの毎日の努力の積み重ねを思い出しながら、監督として自分は一体何をしたんだろう、そういうことを振り返っているような時間だったと思います」

 これが帝京の歴史なのだろう。選手たちの深紅のジャージの背には黒い喪章がつけられていた。準決勝の翌日1月3日、1970年創部のラグビー部の草創期に監督を務めた増村昭策・名誉顧問が天国に召されたからだった。88歳だった。1978年に関東大学・対抗戦グループに加盟できたのは、増村さんの情熱と仁徳によるものだった。早大など伝統校の支援を得た。

 決勝前日の練習前、相馬監督は部員ミーティングで増村さんの功績を学生に伝えた。試合後、記者と交わるミックスゾーン。司令塔のSO(スタンドオフ)高本幹也は増村さんにこう、感謝した。試合前半に負った顔面の裂傷跡からは赤い鮮血がにじみ出していた。

「対抗戦に僕らが入っていなければ、ここまでのレベルには達していなかったと思います。対抗戦に入れたのは増村さんのお陰。すごく感謝しています。だから、増村さんのためにも優勝したいという気持ちがありました」

【ハードワークとコンタクト、スクラムで圧倒】

 キックオフ。深紅の帝京大のジャージがいきなり、はじけた。こぼれ球を拾うと、右に左に連続攻撃を仕掛け、12フェーズ(局面)目、SO高本が右中間に飛び込んだ。ノーホイッスルトライで先制した。

 この日の帝京大のゲームテーマが『ハードワークとフィジカル・コンタクト』だった。つまり、自分たちの持ち味を出すことだった。序盤、早大の準備されたサインプレーから2トライを許しても、帝京大は慌てなかった。

 SO高本は冷静にゲームの組み立てを修正した。タッチキックを増やし、ゲームを切ることにした。これまた強みのラインアウト、スクラムを起点とし、接点でフィジカルを生かし、自分たちのリズムを取り戻すためだった。

 からだをどんと当てていく。スクラムからのキックのカウンターからいいテンポでつなぎ、前半22分、FL(フランカー)青木恵斗が同点トライ。ゴールを加えて逆転すると、その3分後、スクラムをぐいと押し込んでコラプシング(故意に崩す行為)の反則を得て、タッチキック。そのラインアウトからのサインプレーでナンバー8の延原秀飛がトライを重ねた。

 スクラムを見れば、前半序盤は互角に見えたが、徐々に優勢に転じた。ここでも修正力だった。間合い、立つ位置を微妙に変えた。相手と当たるヒットを意識した。PR髙井翔太の述懐。

「最初、自分が少し受けていました。だから、チーム内でコミュニケーションをとって、まずは8人でまとまってヒットを鋭くするようにしたのです。ヒット勝負でした」

 当たり勝てば、スクラムは押せる。特にバック5(ロックとFL、ナンバー8)も真面目に押した。この試合、帝京大はスクラムで5本のコラプシングの反則をもぎ取った。

 ゲームの流れでいえば、前半終了間際のこぼれ球をつなぎ、ウイング(WTB)高本とむが快走を飛ばしたトライは大きかった。ゴールも決まり、28-12。2トライ(ゴール)以上の大量リードで折り返した。

【優れたヒト、モノ、コト】

 帝京大はなぜ、こうも強いのか? 

 素朴な疑問。記者会見でそう質問すれば、相馬監督は「何かひとつではありません」と言い、ゆっくり話し続けた。

「たくさんのことが積み重なっているんです。岩出先生がつくったクラブの文化。そして、努力するすばらしさを知っている学生たちが、毎日毎日、厳しい練習に耐え、学生としての勉強にも励み、そういうことの繰り返しを、多くの献身的なスタッフがサポートしているのが、このチームの強さだと感じています」

 岩出先生とは、1996年から26年間も監督を務めた名将、岩出雅之顧問のことである。部員の不祥事など苦難を乗り越え、人作りに邁進し、チームを10度の大学日本一に導いた。

 では、クラブの文化とは何か。ミックスゾーンで岩出さんに聞けば、前監督は笑って短く、こう漏らした。

「心の教育じゃないですか」

 帝京大には「ヒト・モノ・コト」がそろっている。全国各地からラグビー能力の高い人材が集い、優れたコーチ、トレーナー、スタッフたちのもと、医科学面のサポートなど、大学も支援する充実した施設、環境下で日々精進する。そしてコト、ふだんの練習だ。監督の情熱、学生の努力なのだ。

 そこには学生たちの自己管理、意識の高さがある。部員140人が日々、切磋琢磨する。からだ作りでいえば、週に2日は専属トレーナーの指導のもと、アジリティ(敏しょう性)、筋力トレーニングアップを図り、食事は補食、夜食を含めれば、日に5度となる。もちろん栄養士の助言のもと、だ。

 自由と規律を尊ぶ。練習をのぞくと、時には基本プレーをゆっくり、丁寧に反復している。考える。SO高本によると、常に試合を想定し、自分のラグビーナレッジ(知識)をどう高めるか、プレッシャー下の視野をどう広げるか、を意識しているそうだ。

 後半11分のSO高本のトライは圧巻だった。自陣から左足で小さいキックを相手ディフェンスラインのうしろに蹴り、自ら捕球して、タックルをハンドオフで外し、鋭いステップを踏んで、ポスト下に飛び込んだ。SO高本が淡々とした口調で振り返る。

「ふだんから、ボールを持った時は、いろいろなところを見ようと思っているので。今日はボールを持った瞬間に(自分が)ランするスペースが結構、見えました」

 ノーサイド直前、SO高本の絶妙な左足のキックパスで11個目のトライを演出した。

【仲間が見ているぞ!】

 後半、窮地を迎えると、ピッチ上の帝京大選手から、こんな大声が飛んだ。

「仲間が見ているぞ!」

 仲間とは、試合に出られないスタンドの部員たちのことである。学生スポーツは貴い、とつくづく思う。スクラム、フィールドプレーで活躍したHO(フッカー)、江良颯(はやて)にも、強さの秘密を聞いた。こう、応えた。

「みんな、仲間のためにからだを張り続けるからです。出ているメンバー全員が、やるべきことを理解しているからです」

 そういえば、SO高本も同じようなことを口にした。今季の目標はまず、優勝した昨季のチームを越えることだった。昨季は細木康太郎主将(現東京サントリーサンゴリアス)の強烈なキャプテンシーで大学王者となった。

「今年のチームは、去年より、チームワークがいいのかなと思います。細木さんの代が残してくれたものを土台として、今年1年、さらに積み上げられました。だから、こんな大量点差になったんだと思います」

 これが、よきクラブ文化の継承なのだろう。よく見れば、SO高本の左手甲には黒マジックの文字が消えかけていた。スタッフから試合直前、こう書かれたそうだ。<ミキヤなら大丈夫。自信を持って楽しんで>

 司令塔は笑った。顔面の傷跡が痛々しいが。

「今日もゲームを楽しめました」

【最高のバトンタッチ】

 SO高本ら4年生は、リーグワンのチームに進む。SO高本と一緒に入学した李承信(1年で退学)は既にコベルコ神戸スティーラーズで活躍し、日本代表入りを果たしている。

 SO高本は、「そこは意識しています」と言った。「将来、自分を成長させるため、海外でもプレーしたい。もちろん、日本代表でもプレーしたいです」

 決勝戦の先発15人中10人は3年生以下だった。HO江良、FL奥井章仁、ナンバー8延原らが3年生、FL青木はまだ2年生。このままだと、帝京時代が続くことになる。

大学ラグビー界の盛り上がりを考えると、早大など他大学の奮起を期待したいところだ。創意工夫、強化プラン、フィジカル強化策、環境改善、そして練習での向上心、意識の徹底......。




就任1年目で日本一を達成した帝京大・相馬朋和監督

 そういえば、相馬監督のあと、岩出さんも11回、胴上げで続けて宙に舞った。ミックスゾーンでの別れ際、岩出さんに"監督のよきバトンタッチと表現していいですか?"、と声を掛ければ、64歳は冗談口調で言った。

「もちろん、最高です。サイズ以外は」

 常勝・帝京時代の到来か。その強い歴史の糸が紡がれていく。