「フェニックス」の愛称で知られる名門・東福岡が、まさしく復活を遂げた。 1月7日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で102回目となる全国高校ラグビー大会の決勝が行なわれた。最後の舞台に駒を進めたのは、6大会ぶり7度目の優勝を狙う東福岡(福岡)と…

「フェニックス」の愛称で知られる名門・東福岡が、まさしく復活を遂げた。

 1月7日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で102回目となる全国高校ラグビー大会の決勝が行なわれた。最後の舞台に駒を進めたのは、6大会ぶり7度目の優勝を狙う東福岡(福岡)と、史上4校目の高校3冠&花園初優勝に挑む報徳学園(兵庫)。Aシード同士の激突となった。



今季3度目の決勝対決で報徳学園に勝利した東福岡

 試合は開始早々、"モスグリーンジャージー"の東福岡が躍動を見せる。キャプテンのFL(フランカー)大川虎拓郎(3年)のキックチャージからチャンスを掴み、わずか36秒でCTB(センター)上嶋友也(3年)が電光石火のトライを挙げて主導権を握った。

 先制された報徳学園は、高校日本代表候補6人を擁するBKを武器に展開ラグビーを仕掛ける。しかし、東福岡は「グリーンウォール」と呼ばれる鍛え上げたディフェンスで対抗し、常に接点で前に出てプレッシャーをかけ続けた。それが後半の4トライにつながり、最終的には41-10という完勝で幕を閉じた。

 監督となってから3度目の優勝を飾った東福岡の藤田雄一郎監督は試合後、「ディフェンスが相手の脅威になった。相手を1トライ&1PGに抑えたことが集大成だった」と胸を張った。ただ、勝負がほぼ決した終盤、ベンチ前で時計を見て落ち着きのなかった様子を聞かれると、「後半20分以降が長かったですね(苦笑)」と本音を漏らした。

 過去10大会連続でベスト4に進出している「常勝軍団」東福岡だが、直近5大会は準決勝で敗退し、ベスト4が大きな壁となっていた。しかも昨季はFW、BKともにタレントが揃って春の選抜大会では圧倒的な強さで優勝したにもかかわらず、花園では準決勝でライバルの東海大大阪仰星(大阪)に22-42で屈した。

 東海大大阪仰星に負けたあと、藤田監督は「自分では優勝できない。ほかの人が指揮したほうがいいのでは......」と深く悩んだという。だが、選手や保護者らの反対もあり、今季も指揮することを決めた。

【報徳学園との決勝は今季3度目】

 東福岡は地元ラグビースクール出身のタレントが数多く在籍し、自陣からでもスペースがあればボールを大きく左右に動かす「展開ラグビー」が強みのチームだった。その高いスキルを武器に、2009年度から「花園3連覇」という偉業を成し遂げた。

 しかし、ベスト4の壁を破れない状況を打開すべく、名将・谷崎重幸監督(現・新潟食料農業大ラグビー部監督)のあとを継いで就任11年目となった藤田監督は、大きな変革を実行する。

「花園は一発勝負のトーナメント。点を取っても、取られては勝てない」

 これまで東福岡はボールをワイドに動かす特徴を活かすべく、練習の7~8割をアタック練習に割いていた。だが、一転して練習の7~8割をディフェンスに変更したのである。

 ディフェンス強化に伴い、キッキングゲームの精度を上げることも努め、アタックではターンオーバーからの攻撃に主眼を置いた。今季の3年生は入学当時から「体を当てるのが好きな選手が多かった」(藤田監督)と、その代のカラーを見極めての判断でもあった。

 しかし、春の選抜大会では決勝まで駒を進めたものの、対戦チームにコロナ陽性者が出たため辞退勧告を受けて、不戦敗で報徳学園に優勝を譲る形となった。また、夏のセブンズではランナーの揃う報徳学園に決勝で敗れた。日本一のタイトルにはあと一歩と、悔しい時期が続いた。

 優勝を手にできたのは10月。東福岡主体で臨んだ国体では18-17で大阪を下し、ようやくひとつ実を結んだ。「大きな自信になった」と藤田監督が振り返ったように、自分たちの新しいスタイルに確信を持つには十分な経験だった。

 そして1年間の集大成となる全国高校ラグビー大会。東福岡は県予選からディフェンスで反則をしないように注視し、0.1秒でも早く起き上がってスピードを上げる基本動作を徹底した。

 Aシードに選ばれた東福岡は2回戦、3回戦を難なく突破し、準々決勝では佐賀工業(佐賀)に24-18と逆転勝ち。これで勢いに乗ったチームは、準決勝の京都成章(京都)戦を45-17で快勝して"鬼門"を無事に突破。因縁の相手である報徳学園との決勝戦に駒を進めた。春(選抜)、夏(セブンズ)、冬(花園)と、3度の決勝が同カードになるのは史上初めてのことだった。

【東福岡が新スタイルで頂点】

 ディフェンスとキッキングを強化した成果は、花園決勝でも見てとれた。試合開始直後の1本目のトライと12分後の2本目のトライは、ともに相手ラインアウトをターンオーバーしたことが起点。後半10分もSO(スタンドオフ)高本とわ(3年)が相手ディフェンスラインの裏にキックしたあとにCTB西柊太郎(3年)が押さえ、報徳学園に傾きかけた流れを引き戻した。

「また準決勝で敗退するのでは......言われていたプレッシャーはありました。ラグビーを変えて最初はうまくいかなかったこともあったが、この1年間、貫いてきた自分たちのラグビーを決勝で体現できた」(大川主将)

 ちなみにこの試合、東福岡は先発メンバー15人だけで戦い抜き、誰ひとり交代せずに頂点に立った。選手交代が当たり前となった現代ラグビーにおいて珍しい。

 それは、藤田監督が「先発したメンバーを変えるつもりはなかった。足が残っていましたね」と言うとおり、データで選手のコンディションを常に把握できていたからだろう。日本代表も使用しているGPS(全世界衛星測位システム)やコンディション管理アプリ「ONE TAP SPORTS」を昨年から取り入れ、選手の"見える化"に務めていた成果とも言える。

 今大会、試合全体の総得点は223点。新記録を打ち出した6大会前の花園は311点だっただけに、藤田監督は「見ていてつまらないでしょ」と苦笑いを浮かべた。しかし、トーナメントで負けない「ディフェンスの東福岡」で頂点に輝いた復活も、実に印象深いものだった。