Sportiva注目若手アスリート「2023年の顏」第11回:岩佐歩夢(レーシングドライバー) 2023年にさらなる飛躍が期待される若手アスリートたち。どんなパフォーマンスで魅了してくれるのか。スポルティーバが注目する選手として紹介する。 …

Sportiva注目若手アスリート「2023年の顏」
第11回:岩佐歩夢(レーシングドライバー)

 2023年にさらなる飛躍が期待される若手アスリートたち。どんなパフォーマンスで魅了してくれるのか。スポルティーバが注目する選手として紹介する。

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岩佐歩夢(21歳/FIA F2・DAMS)大阪府出身

 モータースポーツの取材をしていて、ワクワクする感覚は久々だ。岩佐歩夢は、見る者をワクワクさせてくれる。

 突出したドライバーが驚くようなドライビングや圧倒的な結果で、我々を興奮させてくれるのはよくあることだ。しかし、岩佐はなぜそんなプレーをしたのか、なぜそれが可能だったのか、理路整然と説明できる。だから、こちらはその技術に納得できる。そして、その技術を手に入れるために、努力を努力とも思わないような純粋さでレースにのめり込んでいる姿に感心させられる。

 取材をしていて「面白い」と喜びを感じるのは、本当に久しぶりのことだ。

「正直言って、フォーミュラはあまり好きじゃないんです」

 FIA F2に参戦してトップを争い、F1昇格を目指しているドライバーからそんな言葉を聞くとは思わなかった。しかし、岩佐は言う。

「驚くような空力性能で高速コーナーをドーンと攻めるより、クルマの荷重移動やメカニカル性能を駆使してマシンをコントロールするほうが楽しくて、だから僕はハコ車のほうが好きなんです」

 その言葉どおり、低速のモナコでは市街地サーキット初体験にもかかわらず予選でグループ2位に入り、いかにマシンをコントロールしたかの説明がスラスラと出てくる。

 2022年、F2に昇格した岩佐が所属することになったDAMSは、決してポテンシャルの高いチームではなかった。名門ではあるものの、18インチタイヤが導入された2020年以降はセッティングが見いだせずに低迷を続けていた。事実、オフのテストでは「このままではかなりマズい」というレベルだった。

 しかし、理論派の岩佐はイギリスの自宅からル・マンにあるファクトリーへと足しげく通い、エンジニアたちとディスカッションを重ねた。パワーポイントでプレゼン資料を作り、自分が感じていることをグラフ化したり、自分にできること、チームに求めたいことなどを伝えたり、データを見たりシミュレーターを駆使したりして、セッティングを煮詰めていった。

【F2初年度でランキング5位】

 周りのドライバーからは「そんなの、やりすぎでしょ」と驚かれたというが、岩佐にとっては当たり前のことで、特別な努力だとも思っていない。チームのエンジニアたちも、またそこに喜びを見出すと同時に、岩佐に対する全幅の信頼が感じられるとてもいい雰囲気が端々から伝わってきた。

「いろいろと取り組んだことが結果に結びつくのが、これだけうれしいことなんだというのに気づけて、だからこそエンジニアも僕も『もっともっと頑張ろう』っていうスタンスになりました。どんなに細かいことでもとにかくやってトライしてみて、結果を見るのが大事だなということに気づけた1年でした。自分の今後のレース人生にとっても大きかったと思います。

 レースをやっていれば絶対に限界はないと思いますし、ドライビングにしても完璧に近いところまではいったとしても『完璧なラップ』というのはほとんどないはずなので、それをどこまで完璧に近いところまで詰められるのか。そういうのがすごく勉強になったシーズンでした」

 2022シーズンの前半戦は、セッティングの熟成やチームのピットストップや戦略のミス、岩佐自身のミスなどで、なかなか結果につながらないレースが続いた。しかし7月のフランスで初優勝を挙げ、次のハンガリーではポールポジションを獲得。後半戦は常にトップ争いを繰り広げるようになった。

 最終戦アブダビではポールトゥウィンで勝ち、イタリアでの不運な失格(車両規定違反)で3位表彰台を失っていなければランキング3位でシーズンを終えて、F1のスーパーライセンスも手にしていたほどの走りを見せた(最終結果はランキング5位)。

 理論だけの頭でっかちでなく、理論をコース上で走りに結びつける腕もしっかりとある。背後からのプレッシャーに負けず、勝利をもぎ取る精神的な強さもある。

 それでも岩佐は「十分ではない」と自分に厳しい。ポールを獲った時でも優勝した時でも、結果に満足するのではなく課題に目を向ける。これはF1のトップドライバーたちに共通するスタンスで、だからこそ彼らは成長し続けていけるのだ。

【渡欧すぐフランスF4王者に】

 岩佐は初年度をこう振り返る。

「自分としては70点〜75点くらいかなと思います。クルマはずっと速かったので、残り3割はまだまだ改善できたところがあったんじゃないかと。シーズンはじめの時点ではランキング5位になれるなんて思っていませんでしたけど、今考えれば、自分が持っていたスピードとチームの持っていたポテンシャルからすれば間違いなくこの結果は十分ではないと思っています。

 自分がF2で2年目だとか経験のあるドライバーであれば、このパッケージがあればチャンピオン争いができたと思います。前半戦にミスで落としたレースだったりモンツァの失格だったり、すべてを考えれば余裕でスーパーライセンスポイントは獲得できていたはずだと」

 驚くべきは、岩佐がカートを卒業してSRS(鈴鹿レーシングスクール/現ホンダレーシングスクール鈴鹿)で首席を勝ち取り、本格的なレース活動を始めてから、まだ3年しか経っていないということだ。

 2020年に渡欧してフランスF4で圧勝してチャンピオンとなり、FIA F3を経て2022年にはFIA F2に昇格し、ポールポジション2回とメインレース2勝を挙げた。そしてその結果以上に、前述どおりの成熟ぶりに驚かされる。

 岩佐曰く、その基礎はSRSで学んでいる頃に形づくられたものだという。

「正直なところ一番成長できたのは、スーパーFJをやりながらスクールに行っていた2019年で、あの年が成長の伸び幅は一番あったと思います。ただ練習走行をするだけでは意味がなくて、SRSで学んだことをスーパーFJでトライしてみたり、毎セッション組み立てながらやっていくことで発見があり、成長できたんです。

 あそこでしっかりとした基礎ができていたので、そこから今に至るまで(ヨーロッパに来てから)そこに積み重ねをしてきたような感じ。それがうまくいっているのが、昨年のF2の結果だったんじゃないかと思っています」

 2022年からはレッドブルのファクトリーにも足しげく通い、シミュレーター作業のみならず、F1を学ぶためのさらに複雑なプログラムをこなしているという。F2のレースがない時にはファクトリーのミッションルームで無線やインターコムのやりとりを聞きながら、F1のセッションをリアルタイムで見て学んでいる。すでにレッドブルの英才教育が施されている状態だ。

【先輩・角田裕毅について】

 同じくホンダの育成出身であり、レッドブルジュニアとしてF1に昇格した角田裕毅は、先輩でありライバルでもある。しかし、岩佐は角田のことをそれほど強く意識している様子はない。

「レッドブル(のファクトリー)で時々会うことはありますし、会えばお互い挨拶して『最近何してるの?』みたいな話はしますけど、本当に少ししゃべるくらいで長話はあんまりしないですね。角田選手もF1ドライバーなんで忙しいと思いますし、僕もレッドブルにいる時はだいたい何か用事があって時間がなかったりしますしね」

 その角田のことも岩佐は冷静に評価し、自分にないものを持っているところは素直に参考にしているという。

「ドライバーとしてのキャラクターが全然違うので、初めてのクルマや初めてのサーキットに対するアプローチの仕方も絶対に違いますし、一発の速さをポンと出す能力は角田選手のほうがあると思います。そこはすごく参考にさせてもらっています。

 そこは感覚がモノを言うところだと思うんですけど、その感覚を磨くことはできると思います。どういうアプローチでいくべきなのか、自分の改善点としてF3の時から参考にさせてもらっているので、すごく勉強になっています。

 あとはレースでのアグレッシブさも参考にしています。F1で戦っているドライバーは全員がベンチマークにできると思うので、角田選手も『いいベンチマーク』という存在です」

 シーズン最終戦の直後には、すでに来季に向けた3日間のテストをこなしている。

 チームメイトにはシャルル・ルクレールの弟アルトゥールを迎え、初テストから速さを見せた。その速さはまだ伸びしろが残っていることを教えてくれるものであり、ルクレールの存在は自分のプラスになると岩佐は歓迎する。

 レッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコは「来季はアユムにF2でチャンピオンを獲らせる」と明言しており、岩佐自身も2023年の目標はもちろんF2のタイトルを獲ることだと断言する。

【F1昇格だけが目標ではない】

「2年目をやるからにはもちろんチャンピオンを狙いますし、狙えないとは思っていません。全力でプッシュしつつ、初年度に得た経験を生かしたレースをしたいと思います。

 今シーズン後半戦に見せることができた強さというのを武器にしつつ、まだまだそこから伸びしろはあると思っています。ルクレールの走りを見ても、自分が積み上げてきたところからさらに行ける部分があるというのは見えました。さらに強くなって、自分のポテンシャルを結果に結びつけられるようなシーズンにしたいと思っています」

 その先にあるF1については「昇格」が目標ではない。昇格して「初年度から速さを見せること」が目標であり、そのための準備を着実にやるのが2023年のもうひとつの目標だと岩佐は言う。この成熟ぶりこそ、岩佐の圧倒的な強さであり、ワクワクさせてくれるところだ。

「それともうひとつの目標は、自分自身の成長ですね。F2を戦いながらF1に向けてしっかりと準備をしていきたいと思っています。

 一番大事な目標は(F1ドライバーになるだけではなく)F1に昇格してすぐにパフォーマンスを出せるドライバーになるということ。F1で勝つことが目標なので、F1に上がった瞬間からしっかり戦えるドライバーになるために、もっと成長できるよう努力することが大切だと考えています。

 そこに集中し、自分の目の前のレースを全力で戦い、またさらに改善して......というのをひとつずつ積み重ねて、F1にステップアップし、ワールドチャンピオンになることを目標に準備を進めていきたいと思います」

 2022年に理論を行動に移し、現実にした岩佐が、2023年はもっと我々をワクワクさせてくれるはずだ。