Sportiva注目若手アスリート「2023年の顏」第10回:ディラン・ライリー(ラグビー) 2023年にさらなる飛躍が期待される若手アスリートたち。どんなプレーで魅了してくれるのか。スポルティーバが注目する選手として紹介する。   ※  …

Sportiva注目若手アスリート「2023年の顏」
第10回:ディラン・ライリー(ラグビー)

 2023年にさらなる飛躍が期待される若手アスリートたち。どんなプレーで魅了してくれるのか。スポルティーバが注目する選手として紹介する。

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ディラン・ライリー(25歳/埼玉ワイルドナイツ)オーストラリア出身

 ラグビー日本代表に必要不可欠な存在になりつつある、25歳のイケメンBKがいる。

 2023年9月にフランスで開催されるラグビーワールドカップで、日本代表が掲げる目標は「ベスト4」以上。前回大会ベスト8の壁を乗り越えるべく、BKの要として活躍が期待されている選手がCTB(センター)ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)だ。

 身長187cm、体重102kgの恵まれた体躯を誇り、世界で戦えるスピードとスキルを合わせ持つ。端正な顔立ちで女性ファンも多く、「ディル」の愛称で親しまれている。

 昨年10月、日本代表はホームで「オールブラックス」ニュージーランド代表と激突し、勝てなかったものの31-38と善戦した。「アタックでもディフェンスでもオールラウンダーな選手になりたい」と常々話していたライリーは、その試合で強豪相手に成長の跡を見せた。

 前半37分にSO(スタンドオフ)山沢拓也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)が奪ったトライではキックで起点を作り、前半40分のアタックでも大外からすばらしいゲイン&オフロードパスで3人を引きつけ、SH(スクラムハーフ)流大(東京サントリーサンゴリアス)のトライをお膳立てした。

 ワールドカップへの思いを聞くと、ライリーはいたって謙虚な姿勢だ。

「ラグビー選手なら誰しもが目指す、大きな目標です。もちろん出られるなら出たいです。でも、今は目の前にある目標に対して、自分の最大限の努力をするだけです」

【運命を変えた名将との出会い】

 ライリーはなぜ、オーストラリア代表「ワラビーズ」のグリーン&ゴールドではなく、日本代表の"桜のジャージー"に袖を通すようになったのか。

 1997年、ライリーは南アフリカのダーバンで生まれた。その後、10歳の時に家族でオーストラリアに移住してオーストラリア国籍を取得。クリケットや水泳など多彩なスポーツに興味を示すなか、11歳からラグビーもプレーするようになった。その頃から「プロラグビー選手になることを考えていた」という。

 その後、U20オーストラリア代表に選出にされるなどユース年代で活躍するも、プロクラブから声はかからずボンド大学に進学。卒業後はブリスベンシティでプレーするが、トップカテゴリーであるスーパーラグビーチームと契約することは叶わなかった。

 そんな時、転機が訪れる。

 2018年の2月、ブリスベンで10人制の国際大会が開かれて日本からワイルドナイツが参加したのだが、その大会でケガを負った日本代表WTB(ウィング)福岡堅樹に替わってメンバー入りしたのが、当時まだ練習生だったライリーだった。

 彼のプレーを見て、ワイルドナイツを率いていた名将ロビー・ディーンズはライリーのポテンシャルに気づき、プロ契約にいたったというわけだ。

「オーストラリアのプロチームからオファーを受けたことはありませんでした。だから、ワイルドナイツから誘われて日本でプレーする機会をもらい、本当に感謝しています」

 ワイルドナイツには世界的な選手や日本代表選手も多く在籍している。コーチングスタッフも充実している環境のなか、ライリーは雌伏の時を待った。

 2019-20シーズンはケガの影響もあって試合に出られなかったが、コロナ禍で中断された2020年シーズンは「ワイルドナイツの13番」として大きなブレイクを果たす。トップリーグのラストシーズンでは11試合すべてに先発出場。プレーオフ決勝戦での1トライを含む7トライを記録し、自身初の「ベスト15」にも選ばれた。

【日本で秘めていた才能が開花】

 ライリーはコロナ禍でも日本代表を目指すべく、オーストラリアに帰国することはなかった。その努力を知る日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、まだ代表資格のなかったライリーを2021年6月の日本代表合宿に練習生として招集。「サイズも大きいですし、ランニングゲームにもキッキングゲームにも対応できる」と高く評価しての抜擢だった。

 初めて日本代表合宿に参加したライリーは、その感想をこう述べた。

「日本代表は、想像とはかなり違っていました。自己責任に重きを置いているので、自分もハードワークをしないとやっていけないなと感じました。常に学び続けないといけないですが、トニー・ブラウンコーチからいろんな指導を受けて、さらにアタックでいい判断ができるように伸ばしていきたい」

 2021年10月、日本代表になれる3年居住(現在は5年居住)の条件をクリアし、晴れて桜のジャージーに袖を通せることになった。そして、母国であるオーストラリア代表戦で途中出場して初キャップを獲得。その喜びをライリーはこう語っていた。

「日本代表のラグビースタイル、ハードワークの姿勢などあらゆることを本当に気に入っています。だから、この日本代表の一員になることは本当に心から光栄に思うことですし、このチームのために自分ができる最善の努力をしたい」

 2022年に誕生したリーグワンの初年度。ライリーは15試合に先発してワイルドナイツの優勝に大きく貢献。11トライを挙げて初めてトライ王に輝き、2年連続「ベスト15」にも選出された。紛れもなくリーグを代表するCTBである。

 日本で才能を大きく開花させたライリーについて、ワイルドナイツのディーンズ監督もその活躍ぶりに目を細める。

「日本代表での経験をチームに持ち帰ってくれた。オフロードパスの成功率も高くなっているし、キッキングゲームも上達している。ランニングも常に相手の脅威になっている。成長は著しいし、チームにいい影響を与えている」

【座右の銘はシナトラの言葉】

 最大限の褒め言葉を受けても、ライリーはいつも謙虚だ。

「ラグビーはチームスポーツです。自分は15人のうちのひとりで、トライは14人がつないでくれたもので、みんなの力があってこそ。試合のなかで自分の仕事が終われば、次の仕事、つまり試合にどう貢献できるかを常に探しています」

 ライリーの座右の銘は『The best revenge is massive success(最高の復讐とは、大きな成功を収めること』。映画俳優のフランク・シナトラの言葉だ。

 オーストラリアの地で栄光を掴むことはできなかったが、ワイルドナイツ、そして日本代表での経験を経て、世界的なCTBへと成長しつつある。今年のワールドカップで日本代表の勝利に貢献してこそ、ライリーの"復讐"が成し遂げられる。