【ミスにも冷静な自己分析】 全日本選手権で宇野昌磨(トヨタ自動車)には何の揺らぎもなかった。前に滑った選手たちがミスをして得点を伸ばせないなか、自分の演技だけに集中していた。「今できることを」。練習どおりの演技を頭のなかで冷静に思い描くだけ…

【ミスにも冷静な自己分析】

 全日本選手権で宇野昌磨(トヨタ自動車)には何の揺らぎもなかった。前に滑った選手たちがミスをして得点を伸ばせないなか、自分の演技だけに集中していた。「今できることを」。練習どおりの演技を頭のなかで冷静に思い描くだけだった。



全日本選手権男子フリーの宇野昌磨

 フリーは、「今季はどんなにダメでもやり続ける」と宣言した、4回転ジャンプ5本とトリプルアクセル2本の、宇野にとってマックスの構成。

 安定度を増してきた最初の4回転ループは3.75点の高い加点のジャンプにした。次の4回転サルコウはパンクして2回転になり、続く4回転フリップは4分の1回転不足で転倒とミスが続いた。だが、動揺はなかった。

「試合では、時間があれば前の選手たちの演技を見ていますが、今回、たくさんの選手たちのスタイルや氷の感触を見ていると、4回転サルコウは失敗の確率が高いだろうなと思っていた。

 フリップは氷の影響ではなく実力の失敗だったけど、前半にミスが続いた分、後半は頑張ろうという意識になり、しっかり滑ることができて、冷静に今の自分の状況を体現できたかなと思います」

【点数は「僕以上に周りにこだわり」】

 宇野は演技のなかで戦略を組み立て直した。4本目のトリプルアクセルは、グランプリ(GP)ファイナルでは3連続にするなどコンビネーションジャンプにしていたが、「一回落ち着いてから、後半に向かいたい」という意図で単発に。2.29点の加点のジャンプにした。

 そのあと、後半最初の4回転トーループに予定どおりに3回転トーループをつけると、次の4回転トーループには2回転トーループをつける連続ジャンプに。そして最後のトリプルアクセルは予定していたよりダブルアクセルが1本多い、トリプルアクセル+ダブルアクセル+ダブルアクセルの3連続シークエンスジャンプにした。

「最後の3連続ジャンプは練習前に、トリプルアクセル+1オイラー+3回転フリップではなくてもいいじゃん、ということに気づいて。全部アクセルにしたのは、(自分にとって)すごく簡単に跳べるジャンプなので、頭に入れていました。

 それをやったからといって順位に直結するものではなかったけど、前半で失敗した分、後半で頑張りたいなという......。失敗していたからこそ、ここでいつもはできないことをやりたいな、という気持ちがありました」

 3連続ジャンプを跳んだことで、演技時間をオーバーして1点の減点となった。だが、宇野は、それも織り込み済みだった。

「何か深いこだわりというのはなかったんですけど、それでもできるだろうなと思っていた。曲にはめちゃくちゃ遅れるのはわかっていたけど、それでも点数を追求した時に、遅れて1点減点されることより、ダブルアクセルをもうひとつつけるほうが点数は伸びるので。それは僕以上に、僕の周りの方にこだわりがあったと思うのでやりました」

 得点は4回転2本のミスで伸びきらず、191.28点だったが、初めての表彰台争いのプレッシャーで崩れた他の選手には差をつけ、2位の三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)には20点弱の差。

 宇野の合計は、SP2位から粘りきった同じステファン・ランビエル門下生の島田高志郎(木下グループ)に39.17点差をつける圧勝。3年ぶり5回目の全日本選手権制覇を果たした。

【さらに高難度のプログラムに挑戦】

「本当にいい練習が今日まで積めていたし、公式練習もすべてよかったと思います。でもまだまだ成長していきたいと思っている。

 フリーの構成も今回は失敗したけど、練習では本当に、自分のなかでは普通のものになってきているので、またひとつ難度を上げたプログラムというのも考えていきたいと思います。

 そういったところも頭に入れながら、次の大会はだいぶ先になると思うけど、いろいろ試していきたいなと」

 冷静な表情で話した宇野は、その構想も明らかにした。

「ひとつにはトリプルアクセル+トリプルアクセルを入れるとか。4回転に新しい種類を入れで増やす場合、僕のジャンプ構成ではセカンドにトリプルアクセルをつける以外に、難易度を高くするためには不可能なので。

 新しく4回転を増やす前に、セカンドにトリプルアクセルをつけることからやっていかなくてはいけないと思います。実際にそうなるとどこかに3回転を入れなければいけなくなり、その3回転のGOE加点は下がってしまう。それを合計しても2点くらいしか上がらないと思います。でも先を見据えた時には必要な構成になってくる」

 今季はすべての試合で危なげなく勝ち、GPファイナルではシーズン世界最高の304.46点を出し、他の選手たちを圧倒している。連覇がかかる、さいたま開催の世界選手権へ向けても自信を深めている。

「他の選手たちがどのようなコンディションでくるかわからないですけど、これから数カ月間で僕がもっとレベルアップしていけば十分に優勝を狙える位置にいると思います。

 でも、本当に僕自身が......。これは昔からですけど、何かの大会で成績を残したいとかいうような意志ではスケートをやっていないので。だから五輪でメダルを獲って世界選手権で優勝したあとでも、モチベーションはまったく衰えない。

 次の世界選手権は周りからも連覇を期待されるだろうし、自分も練習では連覇できるように最善を尽くしたいと思うけど、実際に試合になったら連覇というものではなく、自分がフィギュアスケートに対して何をやり残しているか。何を表現したくて、何を成し遂げたいのか、ということを追求していきたいと思います」

 唯我独尊、我が道を行く。

 追いかける存在だった羽生結弦やネイサン・チェンがいない今、自分がフィギュアスケートのために何ができるのか、宇野は考えている。その道を目指す決意を、全日本選手権の優勝でさらに強くした。