全日本選手権女子フリーの中井亜美 12月22〜24日に開かれた全日本選手権女子シングルは、200点台に乗せたジュニア勢が3〜5位を占めるなど、上位10人中5人がジュニア。下剋上とも言える結果になった。 そんななかでジュニアグランプリ(GP)…



全日本選手権女子フリーの中井亜美

 12月22〜24日に開かれた全日本選手権女子シングルは、200点台に乗せたジュニア勢が3〜5位を占めるなど、上位10人中5人がジュニア。下剋上とも言える結果になった。

 そんななかでジュニアグランプリ(GP)ファイナル優勝の実力を示した3位の島田麻央(木下アカデミー)とともに、明るい演技で実力を見せたのが、島田と同じく14歳の中井亜美(MFアカデミー)だった。

【トリプルアクセル2本を成功「うれしすぎて...」】

 ショートプログラム(SP)では、ジュニアGPファイナルの疲労を考慮した島田がトリプルアクセルを回避したのに対し、中井は果敢に挑戦。しかし転倒し、次の3回転ルッツ+3回転トーループもノット・クリア・エッジの判定で加点を伸ばせなかった。

 それでも後半の3回転ループはしっかり決め、スピンとステップもすべてレベル4にして64.07点でSPを8位発進した。

 フリーでは、冒頭のトリプルアクセル+3回転トーループで1.94点の加点をとると、次の3回転ルッツも決めて再びトリプルアクセルに挑戦。着氷は少し安定感がなく加点は0.11点にとどまったが、トリプルアクセルを2本とも成功させた。

 そのあとのジャンプも着実に決めたが、最後の3回転ルッツは単発になった。中井は理由をこう語る。

「フリーの最初のトリプルアクセルを跳んだ時はショートの失敗があってすごく不安でしたが、成功できて2本跳べたことがうれしすぎて、最後のルッツに2回転トーループをつけるのを忘れてしまいました」

 連続ジャンプの失敗と見なされて基礎点は3回転ルッツの単発より1.95点低い4.54点になったが、スピンとステップはすべてレベル4で、ISU非公認ながら自己最高を上回る137.42点を獲得。

 フリーはジュニア最高の4位。SP、フリーの合計は201.49点で、3位の島田に1.30点差の総合4位に食い込んだ。

「練習でもトリプルアクセル+3回転トーループは自信を持っているので、本番で降りられたのはよかった。でも2本目は練習で全然降りられていなくて不安もあって。ファイナルでも跳んだ3回転ループ+ダブルアクセルのほうが(単発のトリプルアクセルより)点数が高いので迷ったけど、ここ(全日本)で(トリプルアクセル)2本に挑戦したいという気持ちが強かった」

 昨年は全日本ジュニア7位で全日本選手権には推薦で初出場したが、SPのトリプルアクセルのミスもあって27位にとどまり、上位24名が進出するフリーは滑れなかった。

「前回は世界の試合にも出ていませんでしたが、今年はジュニアGPシリーズに出場してファイナルまでいけたし、全日本ジュニアでも3位になって表彰台に上がれたので、頑張ったと思います」

【ジュニア移行初年で大躍進】

 新潟市出身で5歳からフィギュアスケートを始めた中井は、2回目の出場だった2018年全日本ノービス選手権Bクラスで優勝。そして2020年にはノービスAクラスで3位になり、推薦で初出場した全日本ジュニアは6位になった。

 中学進学を機会に拠点を千葉県に移し、MFアカデミーで中庭健介コーチの指導を受けるようになった。

 初の国際大会だった2022年3月のプランタン杯(ルクセンブルク)はISU非公認大会ながらも、フリーで初めてトリプルアクセルに成功してジュニアクラスで優勝。

 そして、ジュニアに移行した今季は、ジュニアGPシリーズに初参戦。9月のリガ杯(ラトビア)はSPをノーミスの滑りで3位につける。フリーは最初のトリプルアクセルや3回転ループなどのミスはあったが、185.62点で3位になって初表彰台をゲット。

 さらに10月のバルティック杯(ポーランド)ではSPで自己最高の69.00点をとって滑り出す。フリーは、後半の3連続ジャンプの3回転フリップで減点になったが、それ以外はGOE(出来ばえ点)加点も稼ぐ完璧な滑りをし、136.90点を獲得。合計を自己最高の205.90点にして優勝。ジュニアGPファイナル進出を確定した。

 初出場のジュニアGPファイナルは、SPで4位発進をすると、フリーではトリプルアクセルが4分の1回転不足になった他にも惜しいミスが出て、合計は189.23点で4位と力を出しきれなかった。

 その悔しさを持って今回の全日本は、SPにトリプルアクセルを入れるとともに、フリーで初めてになる、トリプルアクセル2本に挑戦したいと強く思うようになったのだ。

【憧れは浅田真央。夢は五輪金メダル】

 トリプルアクセルを練習し始めたのは、小学5年の頃から。「最初はヘッドスライディングのような転倒もして怖かった」と振り返る中井。

 目標は憧れの浅田真央のように、トリプルアクセルをSPとフリーで合計3本跳び、そして五輪で金メダル獲得だ。今は4回転ジャンプもトーループとルッツを、けん引用のハーネスをつけながら練習をしているという。

「全日本はもったいないミスもありましたが、よかったところも悪かったところも経験できたので、来シーズンはもっと頑張ろうと思いました。フリーも自分のなかでは『楽しむ』という気持ちが強かったし、(トリプルアクセル2本に)挑戦することは決めていたので緊張することもなかった」

 同じリンクで練習する渡辺倫果(法政大)もトリプルアクセルを武器にし、GPシリーズ初参戦となった今季、GPファイナルに進出。世界選手権代表の座まで手にしている。渡辺との練習ではトリプルアクセル対決をしているという。跳べなかったほうが何かをおごるという勝負だそう。中井がスターバックスコーヒーのドリンクを渡辺におごったこともあるとか。

 明るく話す中井は、試合でも笑顔をそのままに、楽しくて仕方がないという気持ちが伝わってくる、スムーズで伸び伸びとした演技を見せてくれた。

 トリプルアクセルと4回転トーループを武器にする島田と競い合える環境のなかで、中井は力を伸ばしていくだろうという期待感は高まる。ふたりの勝負は、2023年2月末に開幕する世界ジュニアだ。