1カ月ぶりにゲームに復帰した早大・相良昌彦主将 これが結束の力か。ラグビーの全国大学選手権の準々決勝で、早大が明大に27―21で競り勝ち、3週間前の対抗戦の雪辱を果たした。2年ぶりの年越しで、来年1月2日の準決勝(国立)で関西王者の京産大と…



1カ月ぶりにゲームに復帰した早大・相良昌彦主将

 これが結束の力か。ラグビーの全国大学選手権の準々決勝で、早大が明大に27―21で競り勝ち、3週間前の対抗戦の雪辱を果たした。2年ぶりの年越しで、来年1月2日の準決勝(国立)で関西王者の京産大と対戦することになった。

 昨年は、この準々決勝で明大に敗退した早大。試合後、1カ月ぶりにケガから試合に復帰したフランカー(FL)相良昌彦主将は「やっと、去年の借りを返せた」と漏らした。言葉に実感がこもる。

「普通に正月にラグビーができることがうれしい。サイコーの気分です。気持ちでメイジを上回ることができた。チームにまとまりができてきたのかなと感じます」

 12月25日、晴天下の東京・秩父宮ラグビー場。観客は1万3874人。試合終了直前、逆転トライ(ゴール)を狙う明大の猛攻にスタンドが沸いた。点差は6点。東京五輪代表の明大主将、ウイング(WTB)石田吉平が得意のステップで切れ込んだ。タックルで止める。

 刹那、狙っていた相良主将がボールに遮二無二食らいつく。奪い取った。値千金のジャッカルだ。そのボールをタッチに蹴り出し、試合終了。相良の述懐。

「相手はキッペイ(石田)、あいつは右足のステップが得意なので、自分のところにくるだろうと待ち構えていたんです。ほんとうに、ドンピシャでした」

 喜び爆発。

「ノーサイドの瞬間、去年の先輩たちの顔とか、(試合メンバー外の)4年生の顔とかが目に浮かびました」

【ワン・ビジョン、ワン・チーム】

 今年の早大のスタートは、昨年の明大との敗戦からだった。スクラムで負けた。接点で負けた。プレーが雑だった。だから、今年のテーマは『タフチョイス』『1000分の1のこだわり』となった。相良が説明する。

「誰もが、できることを全力でやろうということです。相手に抜かれそうになったら、全員で必死に戻ろう。誰かが抜け出たら、全員でサポートしよう。そういうことなんですけど、自分が最後、ライン際まで戻って、ジャッカルできたのはそれを体現できたのかなと思います」

 そして、この試合のテーマが、『ワン・ビジョン、ワン・チーム』だった。今度は大田尾竜彦監督が説明する。

「相手がメイジさんだから、80分間、必ず苦しい、いろんなことが起こる。その都度、ひとつのことをみんなで描いて、ひとつのチームになってやっていく。これが今回は大事だぞと言ったんです。"最初の50分間、しっかり我慢して、そこでギアを上げよう"とも」

 狙いどおりの展開となった。前半11分、大ケガから復帰し、今季初先発のスタンドオフ(SO)伊藤大祐がカウンター攻撃から、するどいランでラインスピードを上げ、つないで、最後はWTB松下怜央が先制トライ。

 明大にトライを返されたあと、センター(CTB)吉村紘が長い距離のペナルティーゴール(PG)を連続で蹴り込んだ。前半終了間際、モールを押し込まれてトライを許すも、総じて、早大は前半、よく我慢した。13―14で折り返し。

【早大がコラプシングの反則奪う】

 あえて勝負のアヤを言えば、早大が、後半中盤、明大得意のスクラムでのコラプシング(故意に崩す行為)の反則を連続で奪ったことだろう。後半、交代で入ったプロップ(PR)井元正大、フッカー(HO)佐藤健次の頑張りだった。

 とくに相手ボールのスクラムでコラプシングの反則をもぎ取ったのは大きい。バックス(BK)から、「フォワード(FW)、サンキュー!」の掛け声が何度も飛んだ。チームが勢いづいた。

 数本だけながらも、早大は劣勢だったスクラムでなぜ、優位に立てたのか。佐藤は胸を張る。

「プライドを持って、全員がやるべきことを果たした結果です。自分たちの間合いや位置で組めたからです。しっかりアジャスト(調整)できました」

 後半17分。自信を得た早大はフリーキックでスクラムを選択。そこから準備したサインプレーで、WTB松下がトライを加えた。さらに2分後、スクラムハーフ(SH)宮尾昌典がインターセプトで約75メートルの独走トライを奪った。ゴールも決まり、27―14とリードした。

 だが、後半28分、奮起した明大にスクラムで度重なるコラプシングを奪われて認定トライを献上した。6点差とされ、早大はその後、防戦一方となった。

 だが、粘った。我慢した。最後は気持ちだった。雪辱に懸ける15人の結束だった。

【ノンメンバー4年生の早明戦の熱量】

 大田尾監督は「よく頑張った」と言った。安堵の言葉が続く。

「試合に登録された23人だけじゃなく、部員150人が、対抗戦が終わったあとから成長したことが、今日の試合につながったんだと思います。うれしい勝利ですね」

 実は、1週間前の日曜日(12 月18日)、明大の八幡山のグラウンドで明大とノンメンバーの4年生同士の練習試合が行なわれた。スコアでは敗れたけれど、4年生の明大に挑みかかる気概は胸を打つものだった。みな、からだを張った。

 4年生の吉村は「見ていて、ワセダの文化を思い出しました」と述懐する。

「最近薄れてきたワセダらしさです。大きい相手に向かっていくとか、こぼれ球に懸命に反応するとか。ひたむきに自分のできることをやり続ける大事さを教えてもらいました」

 3年生のSO伊藤はこうだ。

「去年の負けからのリベンジ精神と、ワセダのプライドが見てとれたんです」

 大学ラグビーでは、冬場の大学選手権に入って、各チームが成長の度合いを増す。負けたら終わりだ。その成長を促すのが、4年生を中心とした全部員の熱量だろう。

 早大にとっては、2年ぶりの年越しとなる。昨年はラグビーで越せなかった年を越せる、その感想は、と聞かれると、大田尾監督は「うれしいというのが率直なところです」と漏らし、しみじみと続けた。

「この時期になると、チームがぐんぐん成長してきて、いまのチームでもう1週、もう1週やりたいという欲がものすごく出てきます。でも、去年は志半ば、ここで負けて......。今年はチームワークという意味ですごく伸びています。少なくともあと1週間は見られますね」

 さあ、次の準決勝の相手は関西の雄、京産大である。明大と同じく、FWは強力だ。どこまで我慢できるか。結束できるか。

【相良親子の願い】

 相良主将は言った。

「相手がどうのこうのではなく、自分たちとして何にこだわるか、もう一度、原点を見つめ直したい」

 原点とは?

「去年負けて、学んだことなんですけど、スキルとかじゃなく、気持ちというか......。『タフチョイス』『1000分の1のこだわり』です」

 相良主将は早大の105代目の主将となる。父の前早大監督の相良南海夫氏が74代目(1991年度)の主将だった。ラグビー部のノンメンバー、そして父の思いも背負って国立に挑む。

 記者と交わるミックスゾーンでの別れ際、「おやじさんも喜んでいるでしょう」と声を掛ければ、相良主将は顔をくしゃくしゃにして言った。

「はい。"一緒に初詣に行こう"って言われていたんです」

 元旦。東京・上井草のラグビーグラウンドそばの井草八幡宮。相良親子の祈願は「必勝」に決まっている。