大学ラグビー2022注目選手インタビュー早稲田大・相良昌彦(4年/FL)「この試合でシーズンが終わることが怖くて、後半の最初はヒヤヒヤしましたが、信じていました。後半途中から盛り返してくれて、勝ってホッとしました!」 そう正直に吐露したのは…

大学ラグビー2022注目選手インタビュー
早稲田大・相良昌彦(4年/FL)

「この試合でシーズンが終わることが怖くて、後半の最初はヒヤヒヤしましたが、信じていました。後半途中から盛り返してくれて、勝ってホッとしました!」

 そう正直に吐露したのは、早稲田大学ラグビー部の105代目キャプテン相良昌彦(4年)だ。3年前にチームを優勝に導いた前監督・相良南海夫氏は実父で、親子で早稲田大のキャプテンを務めるのはラグビー部史上、初めてのことだ。



早稲田大105代目キャプテンを務める相良昌彦

 12月11日、ライバルの明治大に21-35で負けた早稲田大は関東対抗戦3位となり、大学選手権3回戦からの出場となった。

 選手権初戦の相手は、今季関東リーグ戦で「台風の目」となった東洋大(リーグ戦3位)。南アフリカ人やトンガ人など留学生が在籍し、FWに強みを持つ勢いのあるチームだ。

 11月23日の「早慶戦」で右ひざを負傷し、楽しみにしていた「早明戦」に続いてメンバー外となった相良は、ベンチの前に立ち、大きな声でチームを鼓舞し続けた。結果、早稲田大は重圧をはねのけて34-19で逆転勝利。明治大(対抗戦2位)が待つ12月25日の準々決勝に駒を進めた。

「興奮しすぎて、天然芝に入ってしまい怒られてしまいました(苦笑)。試合に出ている23人だけでなく、チーム全体がこの一戦にかけていたので、勝てて本当によかった」

 対抗戦の帝京大戦(17-49)や明治大戦での敗因は、FWのセットプレーで劣勢となったことが大きかった。ただ、東洋大戦ではFW陣が踏ん張りを見せた。マイボールラインアウトを安定させ、序盤は押されたスクラムも後半は立て直すことに成功。チーム一丸となって相手にプレッシャーを与えられたことが勝利につながった。

「プレッシャーのなか、このゲームを越えられたので、チームとして一段階成長できた。1戦、1戦、積み上げることができている。(大学選手権の)早明戦につながる試合になった」

【父が果たせなかった夢】

 相良は父の影響で小学校2年から兄(隆太/三菱重工相模原ダイナボアーズ)とともに競技を始めた。中学校時代は主にWTB(ウィング)としてプレーし、体重も60kgほどで体型は「ガリガリだった」という。

 高校はスポーツ推薦で早稲田実業に進学。「足もそんなに速くなかった」ことを理由に、父と同じFWのバックロー(フランカーやナンバーエイトの総称)へ転向する。高校3年時はキャプテンとしてチームを引っ張り、1937年以来82年ぶりの花園出場も果たした。

 早稲田大入学後は1年生ながら大学選手権決勝でトライを挙げるなど、ルーキーイヤーで優勝に貢献。ジュニアジャパンにも選ばれ、現日本代表SO(スタンドオフ)の李承信(リ・スンシン/神戸スティーラーズ)とともに共同キャプテンも務めた。

 そして大学4年生となった今季、「覚悟はしていた」と本人が自覚していたとおり、105代目のキャプテンに任命される。昨季から指揮を執る大田尾竜彦監督は相良について「リーダーシップに長けていて、飾らない言葉で選手にストレートに伝えられる選手」と期待を寄せた。

 74代キャプテンだった父・南海夫も、チームが行き詰まっているような時などは、たまに助言をくれるという。

「試合前の気持ちの持って行き方や、残り時間が少なくなった時の過ごし方など、いろいろとアドバイスをくれます」

 父がキャプテンを務めた時、早稲田大は大学選手権ベスト4で敗退した。息子はこう語る。

「僕がキャプテンの時は優勝したいな、という思いはありますね。1年の優勝時は歌詞をあまり覚えていなかったので、やはり自分の代で『荒ぶる(※早稲田大が日本一になったあとにのみ歌える第二部歌)』を歌いたい気持ちは強い」

 大学でも随一のBK陣を誇る早稲田大だが、昨季は帝京大や明治大に負けたことを踏まえ、今年の春から「体を大きくすること」をテーマに掲げて、相良自身も体重を100kg近くまで増やした。また、今季から仲谷聖史コーチの下、スクラムを鍛えて夏はディフェンス練習も特化した。

「対抗戦から選手権に向けて、チームが伸びているという感覚があります。でも、伸びるためには一人ひとりの自覚が必要。味方に頼らず一人ひとりが戦えるチームが本当に強いし、相手も嫌だと思います。今までとは違うチームになっている」

 相良が自信を持って言うように、日本一奪還に向けて上り調子であることは間違いない。

【明治大に勝つためには?】

 大学選手権・準々決勝での「早明戦」は、奇しくも昨季と同じタイミング。現在ケガで2試合欠場している相良だが、「明治大は昨季(シーズンを)終わらせられたチーム。必ず出ます!」と出場を宣言した。

 大学日本一に輝いた3年前、当時1年生だった相良は対抗戦で明治大に負けたものの選手権の決勝でリベンジを果たした。その経験はきっとプラスに働くはず。

 明治大に勝つためには、何が必要か──。最後に聞いてみた。

「(個人としては)ボールキャリーやジャッカルでチームに勢いをもたらしたい。チームとしてはとにかく細かいところを徹底する。抜けたらみんなでフォローする、こぼれ球をセービングするなど、誰でもできることを意識することで勝利を引き寄せられる」

 この山場を乗り越えれば、大学日本一もようやく見えてくる。

「2年連続で年内敗退はありえない。失うものはないので、最高の準備をして悔いのないようにすべてを出したい。勝たないと次の日はない。プライドを見せていきたい」

 大学ラグビー生活は、最大でも残り3試合。「アカクロジャージーを着て、もう負けたくない」という相良主将が明治大との決戦に挑む。

【profile】
相良昌彦(さがら・まさひこ)
2001年2月1日生まれ。東京都出身。2019年、早稲田実業高校から早稲田大学に入学。父は前早稲田大ラグビー部監督・相良南海夫。ポジション=フランカー、ナンバーエイト。身長180cm、体重98kg。