「現実主義者」の2連勝である。前戦のホームグランプリで優勝を飾った際には「チャンピオン争いをするのは難しいと思う」と述べていたアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)だが、今回の勝利で25点を加算したことにより、ランキング首位…

「現実主義者」の2連勝である。前戦のホームグランプリで優勝を飾った際には「チャンピオン争いをするのは難しいと思う」と述べていたアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)だが、今回の勝利で25点を加算したことにより、ランキング首位のマーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)に対して7ポイント差に迫った。


実に安定した走りで2連勝を飾ったアンドレア・ドヴィツィオーゾ(左)

 第7戦・カタルーニャGPが開催されたバルセロナ・カタルーニャ・サーキットは、前戦のムジェロ・サーキット同様にシーズン屈指の盛り上がりを見せる会場で、今も長く語り継がれる名勝負もこの舞台で繰り広げられてきた。ただし、ここの路面は古いためにグリップが低くてタイヤの摩耗が大きく、さらにバンプ(路面の凹凸)も多い。しかも、季節的に初夏へ向かうこの時期は路面温度が上昇し、ただでさえタイヤに厳しいコンディションの悪化にさらに拍車をかける。

 つまり今回のレースは、ライダーたちが限界ギリギリまで攻めて速さを競う、というよりもむしろ、タイヤをうまく温存しながら可能なかぎり高い安定性を最後まで維持することができるかどうかが勝負の決め手になった。そこをもっともうまくマネジメントして勝利を収めたのが、「理」のライダー、ドヴィツィオーゾだった、というわけだ。

 ドヴィツィオーゾは金曜のフリープラクティスから、何度もこの条件の「異様さ」を強調していた。土曜日の予選では7番手タイム。決勝に向けて3列目スタートになったが、「ソフト側のタイヤではうまくタイムを出せなかったが、1ヵ月前にここでプライベートテストを実施したときもソフトタイヤはうまく作動しなかった」と、一発タイムで速さを発揮できなかったことは認めながらも、「レースでは表彰台争いをする自信がある」とも話した。

「明日の決勝は、タイヤがフレッシュな状態では誰も攻めることができないだろう。消耗も早くグリップもよくないので、この状況をうまくコントロールしなければならないが、自分たちのラップタイムは安定している」

 日曜午後2時、レース開始時の路面温度は54度。序盤からトップグループにつけたドヴィツィオーゾは、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)を早い周回でオーバーテイクし、今回の優勝を本命視されていたポールポジションスタートのダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)の背後にピタリとつけた。そして、レース後半でペドロサの前に出てトップに立つと、終盤で一気に差を開いた。

 先頭でチェッカーフラッグを受けたドヴィツィオーゾは「100パーセントの力で走ったわけじゃないのに勝ったのは、すごく奇妙な感じ。自分がそんな勝ち方をしたことは、今までに一度もなかった」と笑みを見せた。

 レース展開については、このように振り返った。

「序盤からタイヤをかなり温存しなければいけない状況で、誰も全力でプッシュしなかったので、1周目からとてもいい状況だった。何人か抜いてダニの後ろにつけて、そこで様子を見たときに、ダニはとてもうまく乗っていて、自分と同じようにタイヤを温存していることがわかった。でも、僕の場合は加速がよかったので、ブレーキングをハードにする必要がなく、フロントも温存できた。

 ラスト10周までは完璧な展開だったけど、背後がどうなっているのかわからなかったし、自分たちのペースが飛び抜けて速いわけでもなかったので、誰かが追いついてくるかもしれないとも思った。サインボードで「G3」(グループ内3名)の表示を見たときは、ホッとした。

 ラスト10周でスパートをかけて前に出たとき、リアが終わっていると感じたけど、ダニも同様だったので、ペースを維持しながら差を開いていくことができた」

 この結果、冒頭で述べたようにランキング2番手に浮上したわけだが、その事実に関して「今日はあくまで異様なレースだったので、残念ながらこれは『本来の姿(リアリティ)』を反映しているわけじゃない」と留保をつけるあたりは、やはり現実主義者のドヴィツィオーゾだ。

「旋回性を改善しなければならないのは4戦前と同じだし、限界のあるコースではまだ損をしているところがある」

 そして、こうも話す。

「チャンピオンシップは特に意識せず、自分たちの長所と短所をしっかり把握しているので、バイクの力を発揮させることができる。改善すべきところを改善して、毎戦高い水準で戦えるようにしたい」

 だが、無欲の人ほど、実はもっとも成功に近い場所にいる場合も多いものである。