2020年から始まった新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う入国規制や渡航制限により、外国人ドライバーの参戦が激減した日本モータースポーツ界。だが、ワクチンの普及等で様々な制限も緩和傾向にあり、2023年は久しぶりに"海外からの刺客"…

 2020年から始まった新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う入国規制や渡航制限により、外国人ドライバーの参戦が激減した日本モータースポーツ界。だが、ワクチンの普及等で様々な制限も緩和傾向にあり、2023年は久しぶりに"海外からの刺客"が日本にやってくる。

 そのなかでも大きな注目を集めているのが、TEAM MUGENからスーパーフォーミュラに参戦することが決まったリアム・ローソンだ。          



レッドブルがまたF1候補生を日本に送り込んできた

 ローソンはニュージーランド出身の20歳で、現在はレッドブルジュニアチームのメンバーとしてF1を目指しているひとり。そう、今季のF1で圧倒的な強さを見せて2年連続ワールドチャンピオンに輝いたマックス・フェルスタッペンや、日本人として唯一F1で戦う角田裕毅の"後輩"にあたる、現在ピカイチのF1ドライバー候補生である。

 若干20歳ながら、ローソンのレース経験は非常に豊富だ。F1のステップアップにつながるF3やF2でのレース経験はもちろんのこと、ヨーロッパで人気のツーリングカーレース「ドイツツーリングカー選手権(DTM)」にも参戦した経歴を持つ。

 2022シーズンは、2シーズン目のFIA F2で4勝をマークしてランキング3位を獲得。さらにはF1のレッドブルとアルファタウリでリザーブドライバーの役目も務めた。今もっともF1に近いレッドブルドライバーのひとりとも言われている。

 2017年からレッドブルは、ジュニアチームのドライバーをスーパーフォーミュラに送り込んでいる。これまで何人ものドライバーが日本にやってきたが、なかでも有名なのは現在もF1で活躍するピエール・ガスリー(2022年アルファタウリ→2023年アルピーヌ)だろう。

 2016年のGP2(現FIA F2)で年間チャンピオンに輝いたガスリーだったが、トロロッソへの昇格が急遽頓挫し、2017年にTEAM MUGENからスーパーフォーミュラに参戦。初めての環境ながら2勝をマークしてランキング2位を獲得し、そのままF1への切符を掴んだ。

【新品タイヤでいきなり好タイム】

 ローソンがスーパーフォーミュラに興味を持ち始めたのは数年前。同郷の先輩であるニック・キャシディ(2019年スーパーフォーミュラ王者。現在はフォーミュラEなどで活躍)の影響で日本のレースをチェックするようになったという。

「レースを見ていくうちに、レッドブルのジュニアドライバーたちが日本のトップカテゴリーに挑戦する理由がわかった。シリーズのレベルがすごく高くて、クルマもすごく速い。たぶん、F1と比較できるくらいのものだと思う。F1へステップアップする準備段階としては、すごくいい場所だと思う」(ローソン)

 12月7日〜8日、ローソンはさっそく鈴鹿サーキットで行なわれた合同テスト&ルーキーテストに参加した。「ハイスピードだし、Gフォースもすごい。ニュータイヤのグリップにも驚いた。正直、首が筋肉痛になっているよ」と、国内最高峰のマシンが誇る高いパフォーマンスに驚いている様子だった。

 だが、すでに脳内イメージでは実戦で結果を残すことを考えている。「今日で一番重要なことは、このクルマでテストすることだ。順位とかタイムは重要視していない。ほかのチームもそれぞれのプランがあると思うし、テストというのはそういうもの」と、冷静に状況を見極めていたのが印象だった。

 スーパーフォーミュラ初テストでは丁寧かつ慎重なドライビングを見せて、2日間を通してコースアウトやクラッシュもなく順調に周回を重ねた。1日目午後のセッション2ではニュータイヤを装着してタイムアタックも行なって1分36秒510を記録。このセッションではトップから0.897秒差の9番手につける走りを見せた。

 2日目は決勝を想定したロングランのテストを中心に行なった。ひとつひとつ課題をこなしていくローソンの姿に、TEAM MUGENの田中洋克監督も感心した様子だった。

「今回持ってきたクルマの(セッティングなどの)状態はあまりよくなかったんですけど、それでも乗りこなしちゃうような感じはありました。普通だったらコースアウトしてしまうところを、きっちり乗ってくれていました。新品タイヤを履いたタイムアタックでもトップから1秒以内のタイムを出していて、すごいですね」(田中監督)

【同じ名前のコンビニに大興奮】

 ローソンの人柄もチーム内の評価は高いようだ。田中監督はテスト中のエピソードを語る。

「テスト前日には『絶対にクラッシュするなよ。走行時間をきっちり走りきることが重要だから』と伝えたところ、外国人ドライバーはだいたい言うことを聞かなかったりするんですが(苦笑)、彼はきっちりと守っていましたね。ちゃんと人の話に耳を傾けているし、素直だし......。逆にビックリしました」

 田中監督は2017年に1年間だけ在籍したガスリーとも重ね合わせ、「同じような雰囲気を感じるので、すごく期待できると思います」と語った。

 2日間の走行を終えたローソンは、満足そうな表情を浮かべながらも、貪欲な姿勢をのぞかせる。

「ニュータイヤでのアタックラップも経験できたし、レースを想定してロングランのテストもできた。走れば走るほど、クルマやタイヤのことがわかってきた。自信もついているし、周回を重ねていくごとにプッシュできる量も多くなっている。もっと走る時間がほしいな」

 チームメイトは野尻智紀。2021年と2022年のチャンピオンで来シーズン3連覇がかかっている。レース展開次第では、野尻に対抗するライバルとして、ローソンの名も上がってきそうだ。もしそのような状況になれば、ローソンのF1ステップアップもそう遠くはないだろう。

 ちなみに。来日したローソンは、同じ名前のコンビニエンスストアを見つけて大興奮したという「スポンサーになってもらえないかな?」。活躍次第では、こちらの動向も目が離せない。