今冬も恒例、「大学日本一」を決めるラグビー大学選手権が本格的に始まった。 12月11日、3回戦の計4試合が東京・秩父宮ラグビー場と大阪・花園ラグビー場で開催。秩父宮の第1試合では、出場(56回)・優勝(16回)ともに最多を誇る早稲田大(関…

 今冬も恒例、「大学日本一」を決めるラグビー大学選手権が本格的に始まった。

 12月11日、3回戦の計4試合が東京・秩父宮ラグビー場と大阪・花園ラグビー場で開催。秩父宮の第1試合では、出場(56回)・優勝(16回)ともに最多を誇る早稲田大(関東対抗戦3位)と、「台風の目」と評される初出場の東洋大(関東リーグ戦3位)が顔を合わせた。



早稲田大WTB松下怜央のトライで東洋大を撃破

 昨季準々決勝で敗退した早稲田大としては、何としても東洋大に勝利し、今季対抗戦で敗れた明治大が待つ12月25日の準々決勝に駒を進めたいところ。しかし、フィジカルの強いFWを擁する東洋大にセットプレーで主導権を握られ、後半5分までに3トライを献上。早稲田大は7-19とリードを許してしまう。

 だが、早稲田大はパニックに陥ることなく、その後に見事な修正力を見せる。結果、自慢のBK陣が一気に3トライを重ねて、34-19の逆転勝利を収めた。

 早稲田大はどうやって劣勢からチームを建て直したのか──。その要因を紐解いていこう。

 今季の東洋大の強さを、早稲田陣営はこう表現している。

 大田尾竜彦監督が「ボールキャリーのできる外国人留学生が多く、自分たちのやるべきことをしっかりとできる。規律が高くて非常に強敵。手強い相手」と語り、ゲームキャプテンを務めたCTB(センター)吉村紘(4年)は「相当、怖かった」と正直な気持ちを吐露した。

 対抗戦で惜敗した「早明戦」の反省を踏まえ、早稲田大は東洋大戦のテーマを「ファースト10&フィニッシュ10」と掲げた。つまり、試合の入りの10分・最後の10分で集中し、そこで相手を上回ろうという狙いだ。実際に試合でも、前半10分までは失点せず、その5分後に先制トライを挙げたという点では、出だしの課題はクリアしたと言えるだろう。

 ただ、東洋大のメンツは個性ぞろい。キャプテンLO(ロック)齋藤良明慈縁(4年)、FL(フランカー)ダニエラ・ヴェア(4年)、SH(スクラムハーフ)神田悠作(4年)は関東リーグ戦「ベスト15」の3人。さらに日本ラグビー史上最高身長211cmのLOジュアン・ウーストハイゼン(1年)もいる。平均身長で6.5cm、平均体重で9kgも上回る東洋大FWに、前半はスクラムやラインアウトのセットプレー、接点で優位に立たれた。

【ハーフタイムで下した決断】

 前半29分の早稲田大の失トライは、マイボールのラインアウトをスティールされたことが要因だった。さらに「強み(であるラインアウト)をぶつけよう」(東洋大LO齋藤)の言葉どおり、東洋大は後半5分まで5度あったPG(ペナルティゴール)のチャンスをすべて狙わずタッチに蹴り、ラインアウトからモールを形成して2本のトライを奪った。

 ハーフタイム。先に動いたのは、早稲田大のほうだった。

 ケガの影響もあって控えに回っていたHO(フッカー)佐藤健次(2年)とLO前田知暉(4年)を、大田尾監督は後半開始から投入。「(スクラムでペナルティを取られたので)佐藤を出すしかないと思った。前田のラインアウトのコンテストスキルにかけてみよう」(大田尾監督)。

 また、ゲームキャプテンの吉村も冷静だった。「焦りはありましたが、チームとして乱れなかった。無理しすぎない時にハイボールを蹴って敵陣に入ろう、消極的なプレーをするのではなく目の前のタックルやキックチェイスにこだわっていこう、と声をかけた」。

 実は東洋大戦の1週間から、早稲田大はラインアウトと相手のハイボールやロングキックの処理に対して準備を進めていたという。大田尾監督は「ほとんどの局面で精度の高いキック処理ができた。マイボールラインアウトは1本スティールされましたが、早明戦で苦しんだところを立て直すことができたのは大きかった」と満足そうに振り返る。

 スクラムも前半こそ苦しんだが、後半は相手から反則を取るなど優勢な場面も出てきた。後半から出場してチームに勢いをもたらした佐藤は「ラインアウトは副将のLO鏡(鈴之介)さんが相手の分析をやってくれたから。スクラムは(前半に出ていたHO)安恒(直人/2年)に感覚を掴ませてもらった。彼の前半の頑張りが僕の後半のプレーに活きた」と仲間の献身を称えた。

 スクラムとラインアウトが安定すると、反則数は前半8つから後半3つまで減少。相手陣でのプレー時間が増えていき、試合の流れは早稲田大へと傾いていった。

【人生で一番悔しかった敗戦】

 そして、決め手はBK陣の連係だ。吉村が「最初の攻撃からフェイズアタックは通用すると思っていた」と胸を張ったように、安定したセットプレーからボールを継続。早稲田大が武器とするボールを端から端まで動かすワイドアタックで、後半26分・33分に槇瑛人(4年)と松下怜央(4年)の両WTB(ウィング)がトライを挙げて、勝負を決した。

 勝因はやはり、短い準備期間ながら東洋大の強みを紐解いた分析力と、試合が始まって劣勢になっても冷静に対処した修正力に尽きるだろう。FWがセットプレーを安定させて、ディフェンスで規律を保って相手陣で戦い、高速BKが実力を発揮する──。すべてが噛み合い、それが勝利に結びついた。

「(試合に出ている)僕たちだけでなく、いろんな部員が協力して力を出し合っての結果です。『15人だけでなく150人いる』と試合中にも言っていて、いい形でワンチームになれている。次の試合も150人で、いい形で準備したい」(佐藤)

 早稲田大は12月25日、昨季と同様に準々決勝で明治大と対戦することになった。昨季は15-20でシーズンを終えた。大田尾監督は「昨季と同じタイミングで対戦ですが(今季は)何が何でも勝ちたい」語気を強める。

 佐藤も鼻息は荒い。

「去年、同じ時に明治大に負けた。人生で一番悔しくて、あの負けはずっと残っている。(明治大は)超えなければいけない壁。ターニングポイントになる一戦。この壁を超えたら、早稲田が強くなれるチャンス」

 早稲田大はFWの強い東洋大に勝利したことで、大きな自信になったはずだ。12月25日、今季2度目の「早明戦」でリベンジに挑む。