GPファイナルを制した宇野昌磨 宇野昌磨(24歳、トヨタ自動車)にとって5回目の出場となった今季のグランプリ(GP)ファイナル。宇野は、これまで羽生結弦とネイサン・チェンにはばまれ続けていた頂点の座を、昨季の世界選手権に続いて獲得。新勢力に…



GPファイナルを制した宇野昌磨

 宇野昌磨(24歳、トヨタ自動車)にとって5回目の出場となった今季のグランプリ(GP)ファイナル。宇野は、これまで羽生結弦とネイサン・チェンにはばまれ続けていた頂点の座を、昨季の世界選手権に続いて獲得。新勢力に囲まれた大会で、実力どおりと言える結果を見せた。

 前戦のNHK杯前には、スケート靴のエッジの位置を試行錯誤し落ち着いて練習を積めていなかった宇野。そんななかだが、GPファイナルに向けてはいい準備ができたという。

「(振付師の)宮本賢二先生と会った時にスケート靴の話をしたら、『エッジをずらすだけでは自分にとっていい位置にはならない。履いて滑り込み、だんだん慣らしていくのがいい』と言われて。自分もそうだなと思ったので、NHK杯のフリーから変えずに(練習を)やっていました。それがいい方向に向いたと思います」

【完璧を求めすぎない演技】

 12月8日のショートプログラム(SP)は、落ち着いた滑りだった。力みもなく、いつものように曲に身を任せたような、「熟成」という雰囲気も感じさせる動き。

 最初の4回転フリップは不安なく決める。2本目の4回転トーループはやや尻が下がった着氷になってしまい、セカンドは2回転トーループにとどめる連続ジャンプにした。演技後半のトリプルアクセルでは2.06点の加点をもらうも、ステップシークエンスと最後のシットスピンはレベル3になった。

 得点は、今シーズン世界最高の99.99点。演技構成点の3項目では、他の選手は7点台から8点台前半だったところを、宇野はすべてを9点台に乗せた。強力なライバルと目されていた最終滑走のイリア・マリニン(アメリカ)はミスを連発して80.10点の5位発進となり、宇野のGPファイナル初制覇はグッと近づいた。

 それでも宇野は冷静な表情でSPの演技を振り返った。

「今日はまったく緊張してなかったです。全力でやろうと思っていたけど、正直、ジャンプ以外ショートは練習してこなかったので、どんな表現になるかも想像できなかった。今できるのはジャンプのあとに感情を込めることしかないと思っていましたが、終わってみればスピンやステップのエッジの浅さに気がついたので改善すべきところだと思います」

「イライラした気持ちがそのまま出てしまった」と話していたNHK杯前日の公式練習のあと、宇野はステファン・ランビエルコーチから「完璧を求め過ぎないように」と言われた。その言葉が宇野の心にストンと収まった、そんなSPの演技だった。

【今季世界最高得点でGPファイナル制覇】

 中1日置いた12月10日のフリーはSP以上の落ち着きで、丁寧さも見えてくる滑りだった。

「フリーをたくさん練習してきました。ジャンプもそうですが、プログラム全体としてフリーのほうが自信を持って滑れているので、練習してきたことをちゃんと出せるかというのを見るフリーになると思います」

 宇野が演技前にそう話していたとおり、自分がやるべきことを明確に理解し、それを実行するだけだった。

 今季一番うまく跳べているという最初の4回転ループを3.75点の高い加点のジャンプにすると、続く4回転サルコウと4回転フリップも不安なく決める。

 そのあとのトリプルアクセルは少し前のめりの着氷になって3連続ジャンプにはできなかったが、焦る様子はいっさいなく、落ち着いた流れも途切れない宇野らしい滑り。後半の連続ジャンプも余裕を持って4回転トーループ+2回転トーループで跳んだ。

 単発の4回転トーループはオーバーターン気味で耐える着氷になって1.36点減点されたが、そのあとは安定感を見せた。演技終了後は軽く苦笑を浮かべると、しばらく氷上に座り込んだ。

 そのフリーの得点は、コンビネーションジャンプが1本少なかったにもかかわらず、昨季優勝した世界選手権を1.62点上回る204.47点の自己最高。合計も今季世界最高の304.46点と、実力を示す結果になった。

「昨シーズン後半からいろんな選手の練習の仕方や取り組み方を見て、時間が限られているなかでどうやったらたくさん練習できるか、自分のためになるかというのがわかってきたので、試合でのいい結果につながっていると思います」

【自分がやらなければいけないこと】

 充実した練習ができているという宇野は、これまでずっと超えたいと思って目標にしてきた羽生やチェンが、競技会からいなくなったことに寂しさを感じるとも言う。だが、同時に自分の年齢も実感し、自分がやらなければいけないことも考えるようになった。それで自分自身と真摯に向き合おうとしているのだ。

「今大会も成績を残したいという気持ちで取り組んできたけど、結果は今日までの練習がしっかりつながるものだと思っている。昨シーズンから練習がどんどんいいものになっていっているなか、GPシリーズの2戦(スケートカナダ、NHK杯)は納得のいかないものになりました。でも、そのなかでもやってきたものは出せた。GPファイナルは4回転+3回転はできなかったけど、これから順を追ってやっていけばいいことだと思っています」

 まだ跳んでいない4回転ジャンプの挑戦を含め、さらなる伸びしろを存分に残している宇野。今季、フィギュアスケーターとして、そしてアスリートとして、「熟成」への道を歩み出している。そんなことを感じさせる、GPファイナルの戦いだった。