今年11月、世界のトップ選手を集め「J:COM presents 2022ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」が、3年ぶりにさいたま市の新都心エリアで開催された。世界最高峰のレースである「ツール・ド・フランス」で個人総合優勝をした選手…

今年11月、世界のトップ選手を集め「J:COM presents 2022ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」が、3年ぶりにさいたま市の新都心エリアで開催された。

世界最高峰のレースである「ツール・ド・フランス」で個人総合優勝をした選手には、黄色いリーダージャージ「マイヨ・ジョーヌ(フランス語で黄色いジャージの意味)」が贈られる。サイクルロードレース界では、間違いなく最高の栄誉である。さいたまクリテリウムでは、マイヨ・ジョーヌや、各賞リーダージャージを獲得した選手らを含め、ツール・ド・フランス本大会で活躍した選手を中心にトップ選手が来日し、日本の選手とともにレースを走る。
ツール・ド・フランス本大会を運営するA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)が主催し、今回で8回目の開催となる。過去の大会は、毎回10万人以上の観客を集めてきた。2019年大会を最後に、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、2年間中止されてきたのだが、今年は感染対策を講じた上で、海外選手を招聘し、開催されることになった。

今年は、海外からはUCI(世界自転車競技連合)のカテゴリーで最上位に位置するワールドチームから6チームと、「ツール・ド・フランス クリテリウムレジェンズ」としてチームの来日がない3名の人気選手で構成するチームが参加する。国内からも、同じく6チームと、チームが参戦しない選手が走るスペシャルチームが参戦した。
この大会では、本戦のクリテリウム以外に、メンバーが先頭交代をしながらスピードをキープし、タイムを競う「チームタイムトライアル」や、女子、男子ジュニア選手、パラサイクリング選手が参加する個人競技の「個人タイムトライアル」も開催された。
さらに、さいたま新都心を中心にさいたま市全体で、10月から「さいたまクリテリウムWEEK」として、さまざまな取り組みも実施。商業施設「コクーンシティ」で行われた写真展などの企画には、来日した選手も足を運んだという。



「コクーンシティ」の写真パネル展示を鑑賞した今年のツール・ド・フランス覇者ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)

会場を設営して開くイベントとしては2日間開催され、レース以外にも、地域の名店が出店する「さいたまるしぇ」、出展ブースが並び、キッズレースなども開催される「サイクルフェスタ」も併催された。年齢性別、趣向を問わず、あらゆる層の方々が終日楽しむことができるイベントであることも、人気の由縁と言えるだろう。



「さいたまるしぇ」を訪問する大会アンバサダーのマルセル・キッテル、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナカザフスタン)



記念撮影に笑顔で応じるキッテル。日本での人気が非常に高く、アンバサダーに就任した。ツール・ド・フランスでステージ14勝をおさめたトップスプリンターだった

レースを控えた海外選手へのおもてなしイベントが開催されるのも、このイベントの見所の一つ。今年は前夜祭が開催され、人気ロードレースマンガ「弱虫ペダル」の作者渡辺航氏と選手とのトークショーや、夏祭りを彷彿とさせる浴衣姿で登場した選手が、早押しクイズに挑戦すしたり、わたあめ作りをするなど、選手、観客を楽しませる企画が用意され、大いに盛り上がった。




選手は浴衣姿で前夜祭に参加した

クリテリウム当日。11月にしては暖かい日差しに恵まれたさいたま新都心の特設会場に、ウェア姿の選手が、にこやかに会場に集結した。
オープニングのパレード走行を経て、まずはタイムトライアルが始まった。タイムトライアルは、新都心に設営された特設コース内の3.1kmを用いて競われる。エリート男子のチームタイムトライアルでは、参戦する3~4名の選手が隊列を組んで走る。国内外のトップ選手の隙のないチームワークと美しい走り姿に歓声が上がっていた。



美しい隊列でチームタイムトライアルを走るイスラエル・プレミアテック



イスラエル・プレミアテックがトップタイムを叩き出し優勝を決めた

結果は、イスラエル・プレミアテックの優勝。4秒差で宇都宮ブリッツェンが、5秒差でツール・ド・フランス クリテリウムレジェンズが入った。

いよいよ、メインイベント、クリテリウムレースが始まる。コース沿いはすでに大量の観客で埋め尽くされていた。



スタートラインに立つ清水勇人さいたま市長とキッテル氏

スタートライン最前列には、ツール・ド・フランスで各カテゴリーのリーダー(首位者)に贈られるジャージを着た選手たちとマイヨ・ジョーヌ経験者などビッグネームが並んだ。今年、初の個人総合優勝を決め「マイヨジョーヌ」を着たのはヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)。ヴィンゲゴーは山岳賞ランキングでも首位を決めており、白地に赤の水玉の「マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ(白地に赤の水玉の意味)」も獲得している。
今回、山岳賞ジャージはランキング2位となったシモン・ゲシュケ(コフィディス)が繰り上げで着用し、スタートラインに立った。
そして、最前列には、このレースを引退レースとする2名の選手も並んだ。世界選手権の優勝経験を持つアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)、2014年にツールドフランスを制したヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナカザフスタン)だ。レース終了後には二人の引退セレモニーも予定されている。



左から、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)、新城幸也(バーレーン・メリダ)、ニバリ、バルベルデ、マイヨ・ジョーヌを着るヴィンゲゴー、マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニール)、山岳賞ジャージ姿のシモン・ゲシュケ(コフィディス)。ため息がつくようなビッグネームだ

他、レジェンズチームのメンバーとして走るメンバーも最前列にラインナップ。ツール・ド・フランスステージ34勝という大会史上最多記録を有するスプリンター マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニール)は今年のイギリス国内選手権で優勝し、イギリスチャンピオンジャージで登場。
今年のツール・ド・フランスでステージ2勝を上げ、シャンゼリゼを走る最終ステージの勝者になったスプリンターのヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)、今年の日本チャンピオンである新城幸也(バーレーン・メリダ)もレジェンズのメンバーだ。
何層にも重なる観客の拍手と声援を受け、14チーム、計67名が参加する1周3.5kmのコースを17周する59.5kmのレースが始まった。ファーストアタックは過去にツール・ド・フランスで個人総合4位になった経験を持つフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)。



現在は国内チームで走るフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)が存在を誇示するかのようにアタックを決めた。

ここに新城や、今季で現役を引退する中島康晴(キナンレーシングチーム)らが加わり、先頭集団を形成した。日本勢の活躍に、会場は沸く。



集団はアンダーパスを抜ける。パスを抜けた地点に山岳賞が設定されている

この逃げはほどなく吸収されたが、このレースを待ちわびたファンで埋め尽くされた会場は一気にヒートアップした。新しい動きが生まれては、吸収されて行く。



さいたま新都心のビル街。山岳賞ポイントを抜ける



マイヨ・ジョーヌを先頭に走る

このクリテリウムにもスプリントポイントが設定されており、カヴェンディッシュらが、ポイント賞争いを繰り広げた。昨年カヴェンディッシュは、しばらく遠ざかっていたツール・ド・フランスにカムバックを遂げ、ドラマチックにスプリント勝利を量産したのだが、その記憶が呼び起こされ、思わず感動してしまう。
そして今季のツール・ド・フランスでは、ヴィンゲゴーに破れ、山岳賞2位となったゲシュケが、この大会では雪辱を果たし山岳賞を獲得。大きな拍手に包まれた。

終盤に入り、そろそろフィニッシュが意識され始めるころ、このレースで引退するニバリとバルベルデ(スペイン、モビスター)がアタック。この二人の飛び出しを、集団も敬意を払って容認し、このビッグネーム2名がさいたまのサーキットを走り抜けた。今季のブエルタ・ア・エスパーニャで最後のグランツール(世界最高峰の3つのステージレース)を走り終えた2人が寄り添って走る。これが、日本のさいたまで起きているとは! ファンの垣根を越え、大きな拍手と声援が贈られた。



このレースで引退するニバリとバルベルデが先頭に立ち、サーキットを駆け抜ける

最前列からスタートしたフィリプセン、ヴィンゲゴーと過去にツール・ド・フランスを連覇しているクリス・フルーム(イスラエル・プルミエテック)、同じくツール・ド・フランス優勝経験を持つゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)らが、先頭2名の追走に入った。
ここにエンリック・マス(モビスター)が追いつき、5名の追走となる。先行する2名が捕らえられ、代わりにトーマスとマスが飛び出した。先行する2名を数秒のタイム差で5名が追う形で最終周回に入った。

マイヨジョーヌを着たヴィンゲゴーと、追走集団の先頭に立ち、積極的にペースアップを図っていたフィリプセンが先頭2名に合流。マスは遅れてしまい、この豪華な3名の先頭集団ができた。



ヴィンゲゴー、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)、ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)の3名の集団を形成。この3名のスプリント勝負に託されることになった



フィニッシュに向かう3名

ヴィンゲゴーが少し抜け出した形でラスト1kmを示す赤い旗「フラム・ルージュ」を通過。そのままフィニッシュを目指すが、残り二人も反応し、ギアを上げ、合流した。牽制し合い、距離がそれほど離れてはいない追走集団と互いの動きとを見ながらタイミングを伺う3名。

ラスト250m、最初に仕掛けたのはトーマスだった。すぐにヴィンゲゴー、フィリプセンも反応し、3名のスプリント勝負が始まった。だが、当然ながら、トップスプリンターのスピードはずば抜けており、すばらしい加速を見せたフィリプセンが二人を寄せ付けぬスピードでフィニッシュラインを通過。ガッツポーズでさいたまクリテ初優勝を手にした。



雄叫びをあげながらトップでフィニッシュするフィリプセン

ヴィンゲゴーが2位、トーマスが3位となり、この日の表彰台が確定した。



パワフルなスプリントでポイント賞を決めたカヴェンディッシュ。フィニッシュ後は笑顔で観客とタッチを交わす

レース後は、バルベルデ、ニバリの引退セレモニーが開催され、この日も勇敢な走りを見せてくれた二人の引退を惜しみながらも、大きな拍手が贈られた。



チームメイトから花束を贈られるバルベルデ。世界選手権およびグランツールのひとつであるブエルタ・ア・エスパーニャを制し、長いキャリアの中で活躍し続けた偉大な選手だった



バルベルデとニバリの引退セレモニー。これが日本で行われたという現実が、まず驚きである

3年ぶりの開催となったさいたまクリテリウムだが、フェスタが開催された2日間は、非常に多くの訪問客が会場を訪れ、完全に前回のにぎわいを取り戻したと言えよう。ツール・ド・フランス自体の開催は途絶えておらず、全国から集まったファンたちは、この3年分のツール・ド・フランスという大会への思いを今年のさいたまクリテリウムにぶつけたのではないだろうか。久しぶりに来日を果たした選手の中には、日本が好きな選手も少なくない。家族を連れて来日し、日本での滞在を満喫した選手も多かったようだ。



表彰台を勝ち取った3選手



表彰台に立った全選手。チーム総合はモビスターと愛三工業レーシングチーム、敢闘賞は新城選手だった

笑顔と感動に包まれたさいたまクリテリウム。来季のツール・ド・フランスは、スペインのバスク州からスタートする。レースの行方を見守るとともに、その先にある来年のさいたまクリテへの期待も持てる日本人は、幸運だと言えるだろう。
さいたまクリテリウムの経済効果は30億円を超える(2017年度の試算によるもの)と言われている。地域を活性化し、見るものにパワーを与えてくれる大会は、ぜひとも今後も続けていただきたい。
ツール・ド・フランス2023は、7月1日開幕だ。さいたまクリテを楽しみたい方は、本大会からチェックをお忘れなく!

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【結果】J:COM presents 2022ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
1位/ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)1:23:44
2位/ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)
3位/ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)
4位/アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)+0:04
5位/エンリク・マス(モビスター)+0:05

【ポイント賞】
マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファヴィニル)

【山岳賞】
シモン・ゲシュケ(コフィディス)

【ヤングライダー賞】
ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)

【敢闘賞】
新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)

画像提供:一般社団法人さいたまスポーツコミッション、Yuzuru SUNADA