2022フィギュアスケートISUグランプリファイナルは8日から11日の4日間にわたりイタリアのトリノで開催された。女子シングルで初出場の三浦舞依がショート2位から逆転し初優勝、男子シングルでは宇野昌磨、ペアでは三浦璃来・木原龍一組がそれぞれ…

2022フィギュアスケートISUグランプリファイナルは8日から11日の4日間にわたりイタリアのトリノで開催された。

女子シングルで初出場の三浦舞依がショート2位から逆転し初優勝、男子シングルでは宇野昌磨、ペアでは三浦璃来・木原龍一組がそれぞれ初優勝を飾り、フィギュアスケート界での日本勢の存在感を再び強く打ち出す結果となった。

◆三原舞依が初優勝、宇野昌磨・ペアに続き日本勢が3種目制覇 グランプリ・ファイナル

■日本フィギュアの歴史でも出色の出来事

女子シングル優勝の三原は過去、病気でスケートが出来ない時期があったことが知られているが、その困難を乗り超え、今大会では滑る喜びを強く湛えたような、伸びやかで幸せな心持ちを感じさせる魅力的な演技で観る者の心を掴んだ。

また、この数年で身体がさらに引き締まり、大人の雰囲気を纏い始めた宇野は、手から指にかけての美しいあしらいを始め、演技に色気と風合いが増し、ジャンプの技術のみならず、“魅せる”という意味でも、その存在感を充分に香らせながら、首位を飾るに相応しい演技を届けてくれた。

病魔を克服し初出場初湯賞を果たした三原舞依 (C) Getty Images

ところで、このGPシリーズの成績上位6組(人)で争うGPファイナルは、五輪や世界選手権に次ぐ主要な国際大会であり、次のオリンピックを占う上でも非常に注目すべき戦いでもあるのだが、その主たる3種目で日本勢が優勝を飾ったという事実はオリンピックへの確かな布石にもなると思われる。その中でも特に、今回“りくりゅう”ペアが果たしたペア部門での優勝は、実はこれまで日本勢が手にすることが出来なかった勝利であり、意義深き初の快挙となった。

ご存知の通り、日本フィギュアの歴史の中で、羽生結弦や荒川静香を始め、首位を飾ったスケーターはほとんどがシングル部門であり、ペア部門はどうにもこれまでの日本人には超えられない何かがあったのか、十分な結果が伴わなかった。

それだけに、長年の日本フィギュアスケートの歴史の中でも出色の出来事ともいえ、今回の“りくりゅう”ペアの優勝は日本フィギュア界において実に喜ばしい出来事であり、試合後、表彰台から戻った木原も「あたらしい扉が開いたのは、すごくうれしい」と語っていた。2019年にペアを結成したこのフレッシュな二人が切り開いた“新たな扉”から始まる、日本フィギュアのさらなる躍進に今後も期待できそうだ。

また、フィギュアスケートファンにとっても、ペア部門にまで日本勢が食い込んでゆくことで、さらに見応えが増し、シングルの観戦とはまた違う愉しみ方ができるようになるに違いない。そしてまた、ひいてはそれが、大袈裟なようだが、日本の男女の在り方にまで、微妙に良い影響を及ぼしてくれるような気がする、と感じたのは私だけであろうか。そう考えてしまう程の美しき関係性を感じさせる“りくりゅう”ペアの存在感。それは、リフトで空中3回転を繰り広げる大技を始め、目の覚めるような難易度の高い技の連続による、信頼というものを具現化したような氷上の妙技そのものだけでなく、SNS等でも話題となっている表彰台での二人のやりとりまで、とにかく心温まり、引き締まり、洗われるような素敵なペアぶりが結果として披露されたのだ。

“りくりゅう”ペアが日本フィギュア界の新たな扉を開いた (C) Getty Images

■フィギュアスケートに感じるマジカルな要素

競技を観るという行為を通して、人々にとって根源的で大切な何かを感じとるということは、スポーツ観戦の醍醐味でもあるが、フィギュアスケートはそれをさらにドラマティックに見せるマジカルな要素を内包している。そういう意味でも、このGPファイナルの最初に届けられたオープニングアクトは、氷上の妖精達が繰り広げる素敵なストーリーで仕上げられていた。見逃した方はぜひそこからご覧いただきたい。その後、人間の限界にまで挑戦したジャンプを始めとする妙技までを観ることで、フィギュアの魅力と奥深さの真髄を何度でも堪能することができるだろう。

今大会の興奮はいまだ冷めやらぬままだが、素晴らしい結果を残してくれた日本勢のさらなる躍進を期待しながら、ますます華麗な見応えを湛えて繰り広げられるに違いない、次なる戦いを待ち受けたい。

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著者プロフィール

Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター 『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー。