GPファイナルを制した三浦璃来と木原龍一緊張のSPで見せた安定感 イタリア・トリノ開催のフィギュアスケートグランプリ(GP)ファイナル。12月8、9両日で行なわれたペアでは、三浦璃来と木原龍一(木下グループ)が初めて頂点に立ち、日本のフィギ…



GPファイナルを制した三浦璃来と木原龍一

緊張のSPで見せた安定感

 イタリア・トリノ開催のフィギュアスケートグランプリ(GP)ファイナル。12月8、9両日で行なわれたペアでは、三浦璃来と木原龍一(木下グループ)が初めて頂点に立ち、日本のフィギュアスケート史に新たな歴史を残した。

 昨季の世界選手権で2位になり、世界での立ち位置を固めていたが、今季は7月に三浦が肩を脱臼するケガを負い、2カ月間練習ができない不安を抱えてのシーズンインだった。そんななかでも、GPシリーズのスケートカナダとNHK杯を連勝して臨んだGPファイナルだった。

 12月8日のショートプログラム(SP)では、「始まる前は緊張していた」と言いながらも、ここまでGPシリーズ2勝の自信を表すような、安定感のある滑りを見せた。

 最初のトリプルツイストは、これまで2試合とも基礎点が5.40点のレベル2だったが修正し、5.70点でレベル3とし、GOE(出来ばえ点)加点も1.87点に。後半のコンビネーションスピンとデススパイラルは、NHK杯より低いレベル3になったが、乱れることのない安定した滑り。ふたりは演技後に納得の笑顔を交わしていた。

 1組前に滑った、昨季の世界選手権優勝ペアのアレクサ・クニエリムとブランドン・フレイジャー(アメリカ)はノーミスの演技で自己最高の77.76点を獲得していたが、三浦と木原は自身2度目の78点台でセカンドベストの78.08点で1位発進。

「緊張はしていましたが、全体的にミスなく終えられたのはよかったです」(三浦)と、好スタートに表情をほころばせた。

フリー後の不安と喜びの涙

 だが、初優勝がかかった翌9日のフリーはプレッシャーに襲われた。最初のトリプルツイストはSPと同じくレベル3としたが、滑りには少し硬さも見えて前日のような伸びやかさは少し欠けていた。

 そして次の3回転トーループからの3連続ジャンプは、三浦の最初のジャンプが2回転になり、2回転トーループの3連続ジャンプとなった。

 次のリフトで勢いを取り戻したかに見えたが、続く3回転サルコウは木原が着氷で手をつくミス。さらに後半のスロー3回転ルッツでは三浦が両手をついてしまい、そのあとのスロー3回転ループも手をつくのを何とかこらえる着氷になった。

 演技終了後に舌を出して苦笑いをした木原。ふたりはそのまま氷上に片ひざをついてしばらく会話を交わしていた。そしてキス&クライに座ると、不安そうな表情になり木原は涙を流し始めた。

「今日は僕自身、8年ぶりくらいに3回転サルコウをミスしてしまったので。僕のせいで得点を出せていないのではないかと申し訳ない気持ちになって、点数が出る前は不安になってしまった」(木原)

「私もトーループやスロージャンプのミスで申し訳ないなという気持ちになっていたので。ふたりともあの時は不安がありました」(三浦)

 フリーの得点は、北京五輪で出した自己ベストに4.54点届かず、今季の3戦のなかでも最も低い136.50点だった。それでも1位の表示を見ると、木原はホッとしたような表情を見せ、涙はうれし涙に変わり、三浦やコーチらと抱き合った。

 合計はセカンドベストの214.58点。クニエリムとフレイジャーを1.30点抑え、初の世界タイトルを獲得した。

「ふたりで日本チームとして初めて優勝できたことはすごくうれしいです。ふたりとも細かいミスが出たところは反省ですが、ふたりが初めてプレッシャーと戦う試合だったので、3月の世界選手権へ向けていい練習になったというか、いい経験になったと思います」

 木原がこう言えば、三浦は「シーズン前半でよかった点は、ミスや合わないこともあったけど、最後まで笑顔で滑りきれたこと。練習の積み重ねが演技の自信につなげられた」と話した。

「今シーズンの世界選手権は日本での開催なので、私たちのいいところを存分に見せられたらなと思います」(三浦)

世界選手権、そして次の五輪へ

 ふたりでの初出場だった北京五輪では、三浦の表情が硬くなったり、練習でもふたりのタイミングが合わなかったりした。そして、SPは団体戦での演技より3.06点も低い得点で8位だった。

 その時に木原は「ショートは無意識にノーミスを狙いすぎていて、心から楽しめていなかった」と感じ、フリー当日の公式練習のあとで「もうノーミスを狙わなくていいんだよね。全ミスでもいいんだ。もう、全ミスを狙おう」と三浦に話した。それでふたりの気持ちはラクになったという。

 そして、木原にとって五輪のペア個人戦のフリーは北京大会が初めてだった。木原がフリー直前に「今回、順位は出なくていいんだ。なぜなら僕は、この舞台でフリーを初めて滑るんだから」と三浦に言った。すると三浦がすごく笑い、最後まで笑顔のままで滑れたという。その経験が今のふたりにつながっている。

 北京五輪後にふたりは、「これから先の五輪でメダルを目指したいという気持ちになってきた」と話していた。

「やっぱり金メダルを獲ったスイ・ウェンジンとハン・ツォン(中国)のような雰囲気を僕たちも出せるようになりたいし、僕たちにしかない、今までとは違う何かを表現したいなと思います。まだ自分たちは引き出しが少ないから、これからどんどん増やしていって、最終的には一番大事な4年後や8年後に一番合うものが見つかればいいなと思います」(木原)

 来年3月の世界選手権の優勝候補にもおどり出た三浦と木原。今季のタイトル獲得は、その先の4年後、8年後へ向かう足元をより強固にした。