16年ぶりにインターハイで優勝したテニスの名門・柳川高校の強さの秘密に迫る今夏、インターハイ(令和4年度全国高等学校総合体育大会テニス競技[高知インターハイ])で25回目の団体戦優勝を達成した柳川高…

16年ぶりにインターハイで優勝した
テニスの名門・柳川高校の強さの秘密に迫る

今夏、インターハイ(令和4年度全国高等学校総合体育大会テニス競技[高知インターハイ])で25回目の団体戦優勝を達成した柳川高等学校(福岡)。テニス部員は基本的に全寮制で、かつては1階に洗濯場や風呂、監督室、ミーティングルームがあり2~4階が部屋となっている橘蔭寮で生活し、その寮の目の前にあるコートでテニスに打ち込んでいた。現在、外部コーチとして後輩を指導するOBの本村剛一が高校時代に練習をしていると、ボールを打つ音が他の選手に比べ圧倒的に重くて響くものだったため、窓からのぞかなくても本村が練習しているのが分かるくらいだったという。

【画像】テニス名門校・柳川高校のセンターコート完成予想図や新生・橘蔭寮の内装などはこちらをチェック

しかしその橘蔭寮は、老朽化のため2009年から寮としての機能を停止。1階のミーティングルーム以外は使用せず、選手たちはコートから徒歩約2分のところにある啓明寮で生活していた。だが今年、その橘蔭寮を改修し再び寮として使用を開始。以前の橘蔭寮にはなかったクーラーも各部屋についているため選手たちは快適に過ごせるようになった(啓明寮にはクーラーがあった)。

蛇足だが、以前インターハイで柳川高校の選手たちに取材した時に「優勝したいのはもちろん、途中で負けるとクーラーのない寮に帰って練習しなければならないので、できるだけ勝ち残りたい」というコメントを聞いて、そういうハングリーさも勝利の大きな要因になっているんだなと驚かされたことがある。

新生・橘蔭寮は内装だけでなく外装も変わり、かつてはえんじ色だったものが、明るいグレーに塗り変えられた。これはコートを全豪オープンと同じグリーンセットに変更したのに合わせて、コートの色と寮の外観の色を合わせたもの。確かにコートから臨む橘蔭寮は景色にマッチしている。

そしてハード面の変化は、寮の改修だけに留まらない。現在、柳川高校ではセンターコートとインドアコートの新設が進められている(インドアコートは来年2023年3月完成予定、センターコートは来年2023年5月の完成予定)。センターコートは客席だけでなく上から見下ろせるテラスも付いたもので、まるでリゾート地のようなおしゃれな設計になる予定だ。インドアコートのほうはドーム型で2面。高校テニス部にセンターコート、インドアコートができるのは全国でも異例。将来的には国際大会(フューチャーズ)を誘致する構想も視野に入れているという。

センターコートは陸運業を行う博運社の寄付によって作られるのだが、代表取締役社長の眞鍋和弘氏は柳川高校のOB。そしてインドアコートの建設、そして橘蔭寮の改修に携わっているのが、テニス日本リーグにおいて日本一を4回(男子1回、女子3回)達成している橋本総業ホールディングス。橋本政昭代表取締役社長は男女チームの部長を務めるほど大のテニス好きで、男子の監督を務めるのは柳川高校OBで現役時代はキャプテンとしてインターハイ団体戦優勝も経験した杉山記一(早稲田大卒業後プロ転向)。OBがこうしたかたちでつながっているのは、母校に貢献できるOB自身がうれしいのはもちろん、現役テニス部員にとっては頼もしく映るだろう。

脳科学の知見に基づいたトレーニングを取り入れるなど
進化への歩みを止めない柳川高校

またソフトの面では、今年から「スポーツブレイン」という最新の脳科学の知見に基づいたトレーニングを取り入れている。もともと柳川高校では東京大学教養学部・一般社団法人ブレインアナリスト協会と連携し、脳科学の知見から対象にアプローチする「スマートブレイン・プログラム」をカリキュラムに取り入れているが、「スポーツブレイン」はそれをテニスに落とし込んだもの。

【画像】テニス名門校・柳川高校のセンターコート完成予想図や新生・橘蔭寮の内装などはこちらをチェック

「メンタル」は目に見えないものだが、「心技体」と言われるようにショットの精度やフィジカルの強化と同じようにメンタル面も向上させることが競技力アップには不可欠。特にメンタルという広い領域の中でも「集中力」にスポットを当て、選手それぞれのプレーやパーソナリティを考慮したうえで、それに見合ったアドバイスをすることが可能に。その成果が16年ぶりのインターハイ優勝、過去全国大会の決勝で3度敗れていた森田皐介の全国選抜大会個人戦優勝につながったのは間違いない。

こうして柳川高校テニス部が伝統、そして実績にあぐらをかくことなく、時代に合わせた変革をできているのは、理事長・校長である古賀賢氏の存在も大きい(ケン・ローズウォール/オーストラリア、が名前の由来、GS8冠のレジェンド)。高校、大学(ロンドン大学卒業)とイギリス留学の経歴を持つ古賀氏は、グローバルな視点を持ちつつポジティブ&エネルギッシュで、自らを“絶校長”と名乗るほど(実際、校長室の表札も“絶校長室”となっている[※上記リンクより写真参照])。

柳川高等学校附属タイ中学校を開校し、中国、韓国、台湾、インドネシア、ベトナム、タイからの留学生を受け入れて今では全校生徒の10人に1人は留学生となったグローバル学園構想、教育とデジタルを融合させたスマート学園構想を推進しているほか、2030年には宇宙修学旅行を行うと発表。現在、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、ソニー、日本旅行と一緒に宇宙教育の推進、宇宙ワークショップを開催している。

そうした古賀氏の行動力・実行力にも支えられて、変化を恐れず、進化への歩みを止めない名門・柳川高校。これからどんなワクワクをテニス界にもたらしてくれるのか楽しみだ。

取材・文/高木希武(元テニスクラシック編集長)