「重戦車」を支える熱血漢が、"国立"で何度も吠えた──。 12月4日、関東大学ラグビー対抗戦・伝統の一戦、早稲田大対明治大の「早明戦」が行なわれた。98回目の早明戦は9シーズンぶりに東京・国立競技場での開催となり、35000人を超えるファン…

「重戦車」を支える熱血漢が、"国立"で何度も吠えた──。

 12月4日、関東大学ラグビー対抗戦・伝統の一戦、早稲田大対明治大の「早明戦」が行なわれた。98回目の早明戦は9シーズンぶりに東京・国立競技場での開催となり、35000人を超えるファンが集った。すでに対抗戦の優勝は帝京大が決めており、勝利したチームが2位で大学選手権に進めることになるが、それ以上にこの試合は両校のプライドをかけた一戦だ。



明治大の強力FW陣を牽引する巨漢LO武内慎

 試合は序盤から明治大がペースを掴み、前半25分までに「大学生唯一のオリンピアン」主将WTB(ウィング)石田吉平(4年)を擁するBK陣が3トライを挙げて21-0と主導権を握る。その後、早稲田大が反撃に転じるも及ばず、後半さらに2トライを重ねた明治大が35-21で勝利。通算成績は明治大の41勝55敗2分となった。

 明治大と言えば「重戦車」と称される強力FW陣がウリだ。この試合でもFW陣の活躍が主たる勝因と言えるだろう。

「(13-29で敗れた)帝京大戦では自分たちのやりたいことがなかなかさせてもらえなかったが、スクラムやラインアウトのセットプレーで早稲田大にプレッシャーをかけられたのは、自分たちが思い描いている『セットプレーの明治』という姿に一歩ずつ近づいているかな」

 自身もかつて明治大FWの一員として活躍した神鳥裕之監督は、そう語って目を細めた。

 セットプレーで優勢となれば、当然ながら日本一のタレントが揃うBK陣は躍動できる。前半2分のトライはラインアウトを起点にしたアタックから奪い、前半25分も自陣の相手ボールスクラムから反則を誘ってのトライ。試合を決めた後半34分のトライもスクラムが起点となっていた。

 司令塔SO(スタンドオフ)伊藤耕太郎(3年)は「FWがすごく前に出てくれたので、BKもアタックしやすかった」とチームメイトを称えた。

【毎日練習したスクラムの成果】

 明治大FWの中核を担っているのは、身長191cm、体重110kgの巨漢LO(ロック)武内慎(4年)だ。副将PR(プロップ)大賀宗志(4年)がケガで不在のなかでも、PR中村公星(4年)とともにセットプレーをリードし続けてきた。

 今季、対抗戦7試合すべてに「5番」として先発した武内は、自身2度目の早明戦に向けて「自分が引っ張っていきたい。チームを鼓舞したい」との言葉どおり、スクラム後や相手キックをチャージしたあとには「よっしゃー!」と何度も吠えて、仲間に気合いを入れ続けた。

 武内は大阪府出身。阿倍野ラグビースクールで小学校2年時から競技を始め、高校は島根・石見智翠館に進学する。高校時代はLOだけでなくNo.8(ナンバーエイト)としても活躍。高校2年・3年には高校日本代表に選出され、ニュージーランド留学も経験するなど華々しい経歴を積み重ねたのち、大学は「紫紺のジャージー」を選んだ。

 明治大ではLOに専念し、2年時からチームの中軸となっている。武内はキャプテン候補のひとりとして名前も挙がっていた。「一番ストイックに練習していた(石田)吉平をみんなで選びました。キャプテンは吉平に託して、支える人間になろうとやってきました」(武内)

 早明戦への思いも強い。「小さい頃から『明早戦は国立でできるんだ』と思っていたので、憧れの舞台でできてうれしかった!」 と破顔した。

 武内の存在によって、セットプレーの安定感は大きく増した。マイボールラインアウトの成功は「12分の11」とミスは1本だけ。十分に合格点に達する出来だった。

 一方、優勝がかかった大一番で帝京大に圧倒されたスクラムも、この試合では力強かった。1週間のうち2日間だったスクラム練習を、帝京戦後の2週間は毎日のように練習したという。

「前節で(帝京大に)とことんやられてしまった。いいところを見つめ直してもう1回、明治のスクラムを作り直そうとやってきました。早稲田大にスクラムで受けているようじゃ、ここから先はない。だから仕掛けていきました!」(武内)

【帝京大にリベンジしたい】

 明治大は攻守にわたって「前に」出続ける意識が高かった。武内は「一人ひとりが『前に出る強い明治』を体現できた。ディフェンスでも、ゲインラインを切られると次がしんどくなるので、前に出て止めようとした」と胸を張った。

 この勝利によって明治大は対抗戦2位となり、シード校として大学選手権に臨む。準々決勝からの参戦となり、12月25日に東京・秩父宮ラグビー場で早稲田大(対抗戦3位)対東洋大(リーグ戦3位)の勝者と対戦する。早稲田大と再戦する可能性も十二分にある。

 日本一奪還に向けて、武内は語気を強めた。

「(負けた)帝京大戦はスクラムの時間が長く、プレータイムが20分くらいしかなかった。昨季からFWは走ってフィットネスを鍛えてきているので(もっとプレータイムを増やして)前半10分、後半20分の『明治タイム』を使えるようにしたい。明治の土俵で戦い続けることが大事」

 対抗戦で完敗した帝京大と再戦するためには、大学選手権の決勝に進出するしかない。「日本一をかけてもう1回、帝京大と対戦したい。昨季の大学選手権決勝、そして今年の対抗戦の分も含めてリベンジしたい」と、武内は先を見据えた。

 好きな言葉は「一瞬懸命」。明治で一番熱い男が、プレーでも声でも先頭に立ってチームを引っ張り続ける。