5月に熊本で行なわれた、キリンチャレンジカップ2017のコスタリカ戦から1カ月、なでしこジャパンはオランダ・ベルギー遠征に臨んでいる。これは実戦の中でチームを積み上げていきたいという高倉麻子監督の意向が反映されたもの。今回はチーム力を…

 5月に熊本で行なわれた、キリンチャレンジカップ2017のコスタリカ戦から1カ月、なでしこジャパンはオランダ・ベルギー遠征に臨んでいる。これは実戦の中でチームを積み上げていきたいという高倉麻子監督の意向が反映されたもの。今回はチーム力を構築するためにも、コスタリカ戦のメンバーを大筋でスライドさせ、3月のアルガルベカップをケガで離脱した菅澤優依香(浦和レッズL)を招集した。


鮫島彩(左)と中島依美(右)の左の連係がハマり、オランダを封じた

 6月9日、遠征第1戦となるオランダとの対戦で、日本は1-0で勝利を手にした。オランダといえば、思い出すのはアルガルベカップの最終戦。前半に早々と2失点を喫し、同点に追いついたものの、退場者を出した相手に終了間際の失点で敗北(2-3)した苦々しさは記憶に新しい。さまざまな課題が浮き彫りになった試合だっただけに、間を置かずしての再戦を完封で逃げ切れたことは意義深い。

 実際、この日の日本は3カ月前とは異なる戦い方を見せた。まず徹底していたのは、前回の対戦で壊滅的に破られていた左サイドの対応だった。ターゲットはもちろん天敵・7番のファンデサンデン。左サイドバックの鮫島彩(INAC神戸)がチェックに入ると、すかさず左サイドハーフの中島依美(INAC神戸)がプレスバック。この2人がかりのファンデサンデン封じがハマった。ボランチの阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)やトップのポジションも、ややサイドへ寄り気味で、縦ライン全員が連係することで、弱点だと思われていた日本の左サイドが強固なものとなった。しびれを切らした7番はついに逆サイドへ流れていった。

 中島が退いた直後の71分、この日ファンデサンデンに許した唯一のクロスは中でマルテンスにピタリと合ってしまったが、ここは守護神・山下杏也加(日テレ・ベレーザ)のセーブに助けられた。

「1歩でもポジショニングをミスしたらああなる」と鮫島は反省しきりだったが、ここまで修正できたことで、ひとつの指標となったことは間違いない。

 この2人が存在感を示したのは守備面だけではない。鮫島は相手の右サイドを封じるべく自陣深くポジションを取っていても、反撃に出れば前線に顔を出す。グラウンダーのパスをつなぐ日本の攻撃の中で、時折鮫島から出るダイレクトパスはスパイスになった。そのタイミングに籾木結花(日テレ・ベレーザ)は反応し始めている。

「今はまだチームメイト同士のタイミングからチャンスを作ろうとしている感じ。ここからもっと新しい攻撃パターンが必要」(鮫島)になってくる。

 その攻撃パターンのカギを握りそうなのが中島だ。アルガルベカップでは、自分自身のプレーに自信を失いかけていた。自由に動く若い選手たちに、のまれていたところもあった。しかし、今の中島は完全に吹っ切れている。何よりの変化はそのプレー範囲。アップダウンだけでなく、最前線の中央、時には逆サイドにも顔をのぞかせるようになった。後半には中寄りにポジションを取り、別のアプローチを試みるなど、中堅らしい厚みも見せた。中島から新たな形が生まれる日もそう遠くはないだろう。

 一方で、若い力も負けてはいない。右サイドバックに抜擢された大矢歩(愛媛FC)は開始早々に右サイドを駆け上がり、阪口からボールを引き出すと、その2分後には、逆サイド奥へ得意のロングフィード。そのボールは中島の足元にピタリとおさまった。後半の攻め込まれる時間帯では、シュートブロックでピンチを救うなど、守備でも貢献していた。

 すでに対戦した相手であるため、改善策が立てやすかったこともあるが、守備に練習量が割けないなかでも、「(相手の動きを)読めずにやられるということはなかった」(高倉監督)というレベルに修正できたことはひとつの収穫。選手間で有効なコミュニケーションが成されていることも証明している。

 やはり課題は攻撃面だ。この日の決勝ゴールは、横山久美(AC長野パルセイロL)の1発のみ。ピッチに登場してわずか3分で仕留めてみせた。こだわりのファーストタッチはまずかったものの、得意のターンで持ち直し、一気に右足を振り抜いた。彼女らしいゴールだったが、横山が前を向いてボールを持てたのはこの1度きり。両チームともに選手を入れ替えた後半はバタついた展開で、日本は主導権を握ることができず、オランダの攻撃を浴び続ける時間帯が続いた。苦しい時間帯だからこそ、攻撃でその流れを切ることも必要だ。選手それぞれアイデアを持っていることは確かだが、それをバイタルで脅威となる攻撃に育て上げていかなければ、ゴールに結びつく形は生まれないだろう。

 この日のオランダは球際も甘く、パスの精度も欠いていた。そんな相手に対し、1ゴールというのは何とも物足りない。”うまさ”を駆使して”強さ”を得る――。その真っただ中にいる、なでしこ。次なるベルギー戦は中3日と猶予はないが、突破口となるプレーをひとつでも多く見出したい。