フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコーと)は大会14日目、女子シングルスの決勝が行われた。ノーシードの20歳エレナ・オスタペンコ(ラトビア)が第3シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)を4-6 6…

 フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコーと)は大会14日目、女子シングルスの決勝が行われた。ノーシードの20歳エレナ・オスタペンコ(ラトビア)が第3シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)を4-6 6-4 6-3の逆転で下し、グランドスラム初優勝を果たした。男女を通じてラトビア人のグランドスラム優勝は史上初。20歳での全仏オープン優勝は、1997年のイバ・マヨーリ(クロアチア)以来最年少となる。◇      ◇     ◇

 これは新しい時代の幕開けなのだろうか。パワー化した女子テニスにすっかり目が慣れたファンも、まだ「女の子」という感じの幼いプレーヤーのテニスに、2時間釘付けになった。

 1万5000人が入るセンターコートのスタジアムは満員。3年ぶりの全仏決勝で初優勝を狙う25歳ハレプと、これまでグランドスラムの3回戦を突破したことのない20歳という思いがけない決勝のカードを、興奮を抑えられずに見つめていた。

 しかし、そんな状況にも、舞い上がるとか、浮き足立つとか、初めてのグランドスラムの決勝に付き物の精神状態は、オスタペンコには無縁のものだった。

「とても楽しむことができた。シモナはプレッシャーが大きくて緊張しているように見えたわ。私には助かったけど」

 そんな余裕で、1回戦から準決勝までの6試合でずっとそうしてきたように、強打、強打のオンパレード。正確なショットと頭脳的な組み立てでポイントを〈メイク〉していくハレプは、自分らしく、いつものように相手をコートの外に追い出し、オープンコートをつくってそこに決定打を叩き込もうとしていた。

 しかし、オスタペンコを追い込んだと思った瞬間、矢のようなショットがラインぎりぎりの信じられないコースに突き刺さるのだ。ウィナーは54本。同時に、アンフォーストエラーの数も同じ54本だった。例えば10本ミスが続いても崩れず、次の10本をウィナーにするのがオスタペンコのテニスだった。

 ちなみにハレプのウィナーは8本、アンフォーストエラーは10本だった。試合を動かしていたのはオスタペンコである。

「特に私のプレーが悪かったとは思わない。とにかく向こうのほうが私よりいいプレーをした」とハレプが言ったのはもっともだったが、唯一悔やむとしたら、第2セット第4ゲームだろう。第1セットを6-4で奪ったハレプは、第2セットも第2ゲームをブレークして3-0でリード。第4ゲームでもブレークポイントを2度握った。しかし結局、4度のデュースの末にオスタペンコがキープ。ここで畳み掛けておけなかったことで若いオスタペンコは生還した。第2セットを6-4で奪い返し、最終セットは1-3から5ゲームを連取した。

 オスタペンコが放ったリターンエースは計12本あったが、最終セットの5本はすべてハレプのファーストサービスに対してである。ハレプのサービスは武器ではない。ファーストサービスのスピードは平均で時速140km。決めた5本は、待ってましたとばかりにすべて平均より遅かった。そのうち3本はラストゲーム。強気そのものの締めくくりだった。

 オスタペンコはこの優勝で世界ランク12位まで上昇する。スター不在、見どころ不足と言われた今大会で、思わぬ"掘り出し物"が出てきたことは確かだ。ただ、せっかくのセンセーショナルな優勝にケチをつけるようだが、今回のオスタペンコの対戦相手たちを見る限り、これが世代交代とはいいがたい。元女王(カロライン・ウォズニアッキ)やグランドスラム・チャンピオン(サマンサ・ストーサー)を倒しはしたが、現在のトップ10プレーヤーは最後のハレプ一人だけだった。 妊娠中のセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)の復帰は早くとも来年の全豪オープンと言われ、ウィンブルドンの予選から出場する予定のマリア・シャラポワ(ロシア)は本戦への出場の可能性は十分ある。ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)も芝のシーズンで戻って来る予定。役者が揃って、初めてオスタペンコの真価も問われることになるのだろう。(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

※写真は「全仏オープン」決勝で第3シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)を破り、ツアー初優勝をグランドスラムで飾ったエレナ・オスタペンコ(ラトビア)(撮影◎毛受亮介/テニスマガジン)