ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で知名度を上げた選手は少なくないが、ワシントン・ナショナルズのタナー・ロアークもそのひとりだ。WBCの日本戦で好投した、ナショナルズのロアーク ロアークは今春の第4回大会にアメリカ代表として…

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で知名度を上げた選手は少なくないが、ワシントン・ナショナルズのタナー・ロアークもそのひとりだ。


WBCの日本戦で好投した、ナショナルズのロアーク

 ロアークは今春の第4回大会にアメリカ代表としてWBC初出場。リリーフ登板した第1ラウンドのドミニカ共和国戦こそ1回3分の1を投げて3失点と打ち込まれたが、準決勝の日本戦で先発した際には、4回で48球を投げて2安打無失点と好投した。「キャリア最大の先発」と意気込んだマウンドで見事なパフォーマンスを披露し、アメリカの勝利の立役者になった。

 その後、アメリカは決勝でプエルトリコを下し、WBC初優勝を果たす。ロアークもその栄冠に大きく貢献したと言っていい。

 92~95マイルのツーシームを丁寧に投げ込む30歳。WBC後に迎えたMLBのレギュラーシーズンでも疲れを見せず、ここまで6勝(2敗)を挙げて防御率は3.95。現在3連勝中と好調だ。日本の打者が苦手にするシンカーボーラーに、WBCの経験や出場への経緯、そして侍ジャパンの印象を語ってもらった。

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──WBCは、特に先発投手にとって調整の難しさが話題になりますが、ロアーク選手はどのように準備したのですか?

「例年よりも早くコンディション調整を始めなければいけなかったのは確かだ。母国のためにプレーするわけだから、中途半端な体調では出られない。ただ投げられるというだけではなく、完調な状態でなければいけない。そのことを考慮して、去年の10~11月頃からテニスボールを使って早めにトレーニングを始めていたんだ。オフの間にテニスボールを壁に向かって投げ、肩をいい状態に保つように努めた。おかげで今季開幕後もいい感じだから、今後も同じ調整方法を続けるかもしれない」

──調整方法の難しさから、アメリカには依然としてWBCの出場に積極的ではない先発投手が少なくありません。そんな中で、出場を決めた理由は? 

「実際には、他にも出場したいのに声がかからないピッチャーもたくさんいるんだ。母国のためにマウンドに立てる。過去にこんな経験を味わったことはなかったし、参加を要請されたのは名誉なことだ。僕はまだオールスターにも選ばれたことがないし、これだけスター揃いのチームに加われるのは素晴らしい経験になると考えた。チームには、メンバーが集まった初日から素晴らしい雰囲気が生まれ、仲間たちとはかけがえのない日々が過ごせた。WBCのことは今後も忘れることはないだろう」
 
──では、出場は難しい決断ではなかった? 

「悩む必要すらなかったよ。最初、(アメリカのGMを務めた)ジョー・トーリから電話をもらった時は何ごとかと思った。話してみたら、『ワールド・ベースボール・クラシックに出場しないか』という要請だった。『もちろんです! 他の何を差し置いても出ますよ』と即答したんだ(笑)」

──日本との準決勝に先発したことで、日本でもその名を広く知られることになりました。「キャリア最大の先発」と呼んだあのゲームに関して覚えていることは?  

「ロサンゼルス開催なのに、珍しく雨が降っていてとても寒かった。マウンド上では、とにかくいけるところまで投げ、自分のすべてを出し切ろうと考えたのを覚えている。事前のチームとの相談で、50球の球数制限が設けられていたから、なるべく多くのストライクを投げてバットを振らせようと思った。ただ、日本のバッターは粘り強いから、スムーズにアウトを重ねるのは簡単なことではなかった」 

──結果的には4回で48球を投げて2安打無失点と好投し、2−1の勝利に大きく貢献しました。試合後にはジム・リーランド監督も「ロアークがカギだった」と語っていました。このゲームを通じ、日本の打者に対してどんな印象を持ちましたか?

「日本の打者は足を大きく上げるのが特徴的だけど、バットに当てるのがうまく、三振を取るのは簡単ではない。引っ張りにかからず、フィールド全体に打球を飛ばそうとする。個人的には知らない選手ばかりで、それも投球する上での難しさのひとつになった。スカウティングレポートと呼べるようなものはほとんどなかったからね。2−1というスコアが示す通り、日本はタフなチームだった」

──実際に対戦してみて、特に印象に残った選手はいますか? 

「体格のいい左打者のことはよく覚えているな。名前は確か……」 

──4番打者の筒香嘉智ですね。 

「そう、その通りだ。パワフルな打者だった。彼に限らず、さっきも言った通り日本の多くの打者たちはバットコントロールがうまく、加えて甘く入った球は遠くに飛ばすだけの長打力を秘めていた。だから情報がなくとも、ラインナップを通じて気を抜かないように気をつけた。あと、直接対戦したわけではないけれど、日本は多くの好投手を擁していることが印象的だったね。先発、リリーフともに投手陣は穴がなく、とてもレベルが高いなと感じたよ」

──今年のWBCはやや大味なゲームが多かったですが、投手力に秀でたアメリカvs日本は緊迫感のある大会屈指の好ゲームになりましたね。 

「日本代表はイメージ通りのプレーをしたと思う。基本に忠実で、ミスが極めて少ない。チーム全体が正しいプレーをし、事前のプランを一丸となって遂行してくる。一発勝負でそんなチームに勝つのは簡単なことではない」

──日本の打者はツーシームを苦手にすると言われています。シンカーボーラーのあなたは、あのゲームを通じてそれを感じましたか? 

「右打者のインコースをツーシームで攻めようというのが準決勝のプランだった。ただ、それは僕が常々やろうとしていることであり、日本打線に対してだけの攻め方というわけではない。インサイドにツーシームを決め、右打者に快適にスイングさせないのが僕のピッチング。左打者に対してもインサイドのボールゾーンからストライクになるツーシームを多用し、より軌道が真っ直ぐのフォーシームとうまく混ぜ合わせて使う。あの日もそういった攻めを心がけたのは確かだ」

──日本戦は中9日での登板でしたし、調整が難しかったのでは? 

「本当はマイアミでの第1ラウンドで1試合に先発し、その後にナショナルズの春季キャンプに戻るという予定だった。しかし、僕はWBCのチームに残りたくて、実際にそうなった。アメリカ代表でプレーを続け、『初優勝したチームの一員だったんだ』と胸を張りたかったんだ。

結果的に、中9日という異例の登板間隔で投げることになった。おかげで日本戦の前はいろいろ考え、不安もあったけど、とにかく集中しようと自分に言い聞かせた。自分らしく、無理をしないで投げようと思ったんだ。(バスター・)ポージーとバッテリーを組むのは初めてだったんだけど、彼がリラックスさせてくれて、上手に導いてくれたのも大きかったな」 

──WBCを終えてシーズンに入ってからも、ナショナルズの先発ローテーションを守り、ここまで6勝と好調です。WBCに間に合わせるために少し早くトレーニングを始めた疲れは感じていませんか? 

「WBCに向けた調整のおかげで、むしろいい感じでシーズンに入れたんじゃないかな。それぞれの球種をイメージ通りに投げれていると思う。特に僕にとってのカギはスライダーとカーブで、その2つの球種の曲がりが似てきてしまうことは避けたい。スライダーの方がより打者の手元で曲がり始める方がベター。それによってカーブとの間に落差が生まれる。シーズン序盤からそれができているのは、WBCのために早くから身体を作ったおかげかもしれない。シーズンは162試合で、1試合目も162試合目も同じくらいに重要。だから最初から全開で投げられていることを嬉しく思う」

──第4回のWBCで見事に優勝し、目標を達成しました。今から4年後、ジョー・トーリから再び参加の要請があったらどう返事をしますか。 

「出場するよ。もちろんだ。これまで話してきた通り、WBCの経験は他の何にも代え難いからね」