スラムダンク奨学生USA奮闘記須藤タイレル拓(21歳)インタビュー@前編「スラムダンク奨学金」13期生として2年前に渡米した須藤タイレル拓(アメリカでの登録名はタク・ヤングブラッド。ヤングブラッドは子どもの頃に亡くなった父の苗字)は、プレッ…

スラムダンク奨学生USA奮闘記
須藤タイレル拓(21歳)インタビュー@前編

「スラムダンク奨学金」13期生として2年前に渡米した須藤タイレル拓(アメリカでの登録名はタク・ヤングブラッド。ヤングブラッドは子どもの頃に亡くなった父の苗字)は、プレップスクールのセントトーマスモアでの2年間を経て、今秋からNCAAディビジョンⅠのノーザンイリノイ大に進学。11月7日の開幕戦でNCAAデビューを果たした。

 もっとも、この試合で須藤が出場したのは、わずか3分11秒。チームもディビジョンⅡのイリノイ大スプリングフィールドに敗れ、ほろ苦いデビュー戦となった。

 NCAAで1年生のうちから多くの出場時間を得ることは、簡単なことではない。須藤が出場したのは11月27日時点で7試合のうち6試合・合計28分のみ。ノーザンイリノイ大のヘッドコーチ(HC)ラショーン・ブルーノは「運動能力があり、競争心も強く、バスケIQもある。将来は明るい」と須藤を評価する一方で、今は練習や試合を積み重ねることでチームのなかでの自分の役割を見つけ、学ぶ時期だとも語る。

 須藤自身、そのことは理解したうえで、やはり悔しさがあると本音で語る。NCAAデビュー戦の翌日、須藤にその悔しい思いや、成長への飽くなき気持ち、大学生活、今シーズンの目標、そしてインタビュー後編では大好きな漫画『SLAM DUNK』について語ってもらった。

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今季からノーザンイリノイ大でプレーする須藤タイレル拓

── 初めてNCAAのレギュラーシーズンのコートに立った感想はどうですか?

「全然、納得いかないですけどね。ただ、自分のプレーでそういう結果が出ているので、何とも言えないんですけど。この悔しさを練習にぶつけていこうかなって。次の試合ではもっと時間をもらえるようにやろうと思っています」

── 試合に出た時は、どんなプレーをしようと思っていましたか?

「自分が出た時は、オフェンスよりもディフェンスに集中しようかなと。自分の課題はディフェンスで、練習中でも意識的にディフェンスのほうに力を入れているので。ディフェンスをハードに、プレッシャーかけてやっています」

── ブルーノHCに須藤選手の一番の強みは何かと聞いたら、以前から評価されることが多かった運動神経よりも先に、ディフェンスのコミュニケーションを最初にあげていました。それは今、自分でも意識していることですか?

「そうですね、人間なので無言でテレパシーなんてできないし、しゃべらないと何も伝わらないので。それは夏からずっと課題だったんです。もう、ひたすら夏からずっと大声を出して、声が枯れるまで毎日やって......」

── 新入生でも率先して声を出すというのは、セントトーマスモアを経験してきたからできることですか?

「セントトーマスもそうですし、高校(横浜清風高)でもずっとそういう感じでした。フルコートでプレッシャーをかけて、ディフェンスではしゃべって声をかけて、そこからすぐ速攻みたいなプレーだったので。当時それを僕ができていたかってなると、たぶんできてないんだろうなとは思いますけど。ディフェンスはすごく苦手だったから。

 でも、やっぱりそういう経験があったからこそ、僕はしゃべることの大事さを知っています。小さなことですけど、ずっと声を出し続けて、それが一番大事だっていうのを、やっぱりみんなにわかってほしいなと思いますね」

── 開幕戦では、短い時間ながらフレッシュマン(1年生)のなかで唯一、試合に出ることができました。

「それでも(わずか3分11秒の出場時間に終わったことは)ムカつきますね。だから、練習で証明しよう、試合に出さざるを得ない選手になろうって思っています。フレッシュマンで、大学バスケに入ったばっかりで、いきなり多くの時間をもらうのはなかなか難しいことだっていうのはわかっています。それでも、そこであきらめちゃいけないっていうか。

 そのとおりにならなきゃいけないっていうルールはない。まだここからシーズンは始まったばっかりなんで、ここから先、チームを助けられるような選手にならなきゃなって思います。結局、試合に出るかどうかは、その時の自分次第。それは(ノーザンイリノイ大に)来る前からわかっていたので、このチームを上に上げたいなと思っています。これが自分の選んだ道なので」

── ブルーノHCは、これまで須藤選手はチームのベストプレーヤーとしてやってきたけれど、今は周りにあわせてプレーすることを学び、そういう経験を積んでいく時期だとも言っていました。自分でもそう思いますか?

「思いますね。新たなチームに新人として入っていくのは、やっぱりそういうことだと思っています。それはどこに行っても同じ。中学から高校に行った時もそうでしたし、高校からセントトーマスモアに行った時もそうでした。セントトーマスモアで2年目になって、新しいチームでやる時もそうでしたし。結局、新しい環境に入っていく時は、その環境に慣れるのがひとつ大きな課題だと思っています」

── 大学生活のことも少し聞きたいと思います。ノーザンイリノイ大はシカゴから西に100kmくらい行ったところにありますが、実際にここに来てみてビックリしたのは、大学の周辺はトウモロコシ畑ばかりですよね。

「はい、学校の周りには何もないです。だから基本的には、いつもひとりで部屋にいてくつろいでます」

── 何もない環境ということは、大学を選ぶ時には気になりませんでした?

「まぁ、もう過去2年間(コネチカット州にあるプレップスクールのセントトーマスモアで)ここより何もないところで生活していたんで。むしろ、近くに飯を食う場所がある、みたいな。あそこに比べたら全然、ラクだなって。あそこはあそこで楽しかったですけどね。何もなくて、チームメイトとずっと一緒にいて......あれが逆にいい環境だったんだなと思います」

── 大学の授業はどうですか?

「授業自体はそこまで難しくないですけど、課題がすごく多いですね。1週間でやる課題が山ほどあるので、すごい毎日ギリギリでやってる感じです」

── シーズンが始まったことで、試合に向けての準備もあり、試合もあり、その合間に授業や課題をこなしていかなくてはいけないわけですが、その難しさは感じ始めていますか?

「そうですね。すごく感じてます。でも結局、大学を卒業したあとにバスケをやるにしろ、ほかのことをやるにしろ、結局そういう生活リズムっていうのが普通になってくると思うので。

 何か大きなプロジェクトを進めている間に、ほかに小さなことを並行してやってかなきゃいけないのは、たぶんどこに行ってもそうだと思う。これに慣れていけばすごくいい経験になるのはわかっているので、頑張っていこうと思います」

── 授業と練習がある日は、朝から夜までどんなスケジュールですか?

「基本的には朝7時に起きて、準備して、授業が8時からなので、それに行って。授業のあとはすぐにアカデミックアドバイザーとミーティングをして、ここ(アリーナがある建物)に来てトリートメントやリハビリをして、筋トレして、練習して、またリハビリをして、部屋に戻って宿題をする......という感じです。

 あとは自分の時間。自分の寮にはフレッシュマンのチームメイトが3人いるんで、そいつらと時間を過ごしたり、音楽を聞きながら踊ったりと、ふざけまくっています。僕らフレッシュマン4人はすごく仲いいんですよ。いつも一緒に過ごしています。

 ひとりはスイスから、ひとりはリトアニアから来ていて、海外からの選手も多く、みんな家から遠く離れたところでバスケしているので、戻りたくても戻れないっていうか。コートにすべて置いていかなきゃな(コートですべてを出しきらなきゃな)って、みんなでいつも話しています」

── セントトーマスモアで10番をつけていた背番号が、大学では1番になりましたけれど、その理由は?

「本当は10を選ぼうと思ったんですよ。でも、チームメイトに10がいて選べなかった。次に僕が好きな数字の6にしようと思っていたら、NCAAのバスケって6がないんですよ。オフィシャルが(ハンドサインで)6ってやった時に、15や51と間違えちゃうから。

 だから6、7、8、9がないんです。それを知って、それじゃ1番にしようかなと。デリック・ローズとかデビン・ブッカー(どちらも背番号1のNBA選手)もすごい好きで、しっくりきたので1番を選びました」

── 今シーズンはNCAAのディビジョンⅠに所属している日本人の男子選手が、わかっているだけで6人いるのですが。

「すごいですね。めちゃめちゃいますね。これから増えていくといいですね」

── そうやって日本人の選手がアメリカで頑張っているのは励みになりますか? それともライバルみたいな感じでしょうか?

「どちらかと言えば、ライバルですかね。みんな、たぶん同じところを目指しているので。誰かとは絶対にぶつかることがあるし、そうなった時には負けられないから、確実にライバルですね。もちろん、仲間でもありますけど。同じ国から来ているプレーヤーたちなんで」

── 「仲間だけどライバル」という存在は、お互いに励みにもなるので、とても大事だと。

「そうですね。間違いないですね。お互い切磋琢磨して」

── 今シーズンの自分自身の目標は何ですか?

「もっとチームを助けられる選手になりたいです。今は(チームとして)苦労していて、みんな何をしたらいいのかもわかってなくて......。小さなことまで全部徹底してやらないと、いつまで経ってもよくならないと思う。

 大きなことばかりしたって崩れ落ちるだけ。大きい石を積み上げても、その間にしっかり小さい石を入れてかないと、隙間があってすぐ崩れちゃう。小さな石を埋めていって、ガシっとしたものを今シーズンで作り上げていけたら。それを自分が率先してやっていかないとなって思っています」

── 小さな石を入れられるような選手になりたい、ということですか?

「はい。大きい石も積み上げつつ、小さな石もしっかりサポートしていって。タレント(才能ある選手)はすごく揃っているんで、小さなことを面倒くさがらずに、みんな全員が徹底して毎日やらなければいけないと思ってます」

「プレーは流川楓、キャラクターは桜木花道が好き」

【profile】
須藤タイレル拓(すどう・たいれる・たく)
2001年4月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、小学6年生の時に横浜ビー・コルセアーズのユースチームに参加してバスケにのめり込む。横浜清風高2年の時にスラムダンク奨学金に応募して合格。2020年8月から渡米先のセントトーマスモアスクールでプレーし、そこでの活躍が評価されて2022年4月にNCAAノーザンイリノイ大への進学が決まった。アメリカでの登録名は「タク・ヤングブラッド」。ポジション=シューティグガード、スモールフォワード。身長188cm、体重84kg。