フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日〜6月11日/クレーコート)。 飲んだり食べたりすることについて思慮深いプロのアスリートとして、ベサニー・マテック サンズ(アメリカ)は、大会のメイン・スタジアムのすぐ外で、「ヌテ…

 フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日〜6月11日/クレーコート)。

 飲んだり食べたりすることについて思慮深いプロのアスリートとして、ベサニー・マテック サンズ(アメリカ)は、大会のメイン・スタジアムのすぐ外で、「ヌテラ(Nutella)」の名で知られる、チョコレートとヘーゼルナッツのスプレッドを塗ったワッフルを売るスタンドから漂ってくる甘い香りを避けるのがいかに難しいかを、知りすぎるほど知っている。

「毎日のように、その横を通りすぎるわけだから」と、32歳のマテック サンズは先週、2015年の全仏女子ダブルス優勝を遂げたときのことを回顧しながら言った。

「試合のコートでも、その香りが感じられることがあったのよ」

 世界的な美食の首都のひとつで開催されるこのグランドスラム大会には、テニスプレーヤーにとって、ほぼ絶え間なく食べ物の誘惑が存在する。クレープやクロワッサン、バゲットとパテ、ステーキとフレンチフライ、濃厚なソース、チョコレート、マカロン、ワイン、などなど、数え上げたらきりがない。

「フランスのチーズ、フォアグラなど、フランスの食べ物のすべてが非常にカロリーが高い」とセルゲイ・スタコフスキー(ウクライナ)は言う。この31歳のスタコウスキーは4年前のウィンブルドンでロジャー・フェデラー(スイス)に対し、番狂わせを演じたことでもっともよく知られる選手だ。

「でも君らも知っているように」と、彼はシャツを持ち上げて平らな腹を見せながらジョークを言った。「それは(体の中に)とどまらない。ただどっかにいっちゃうんだ、どこかはわからないけどね」。

 ある選手たちは、パンなどの炭水化物、デザート、アルコールは避けるようにしていると言い、他の者たちはただ誘惑に負ける。また、試合がすべて終了するまでは我慢するという者もいる。

「すべてをほどほどにする、ということが、よりうまくできるようになったわ。でも私は今20代で、大いに旅をし、大いにワークアウトをやっている。だから私は食べるのが好き!」と、全仏2回戦に進んだ27歳のマディソン・ブレングル(アメリカ)は言った。

「私は(ただ食べたいものを我慢するより)、トレーニングの量を増やして、食べることを楽しむほうを好むわ。私たちが旅して周る世界各地には、驚くべき食べ物がある。だから試してみないといけないでしょ」。

 ブレングルのパリでの一番のお気に入りは? ピスタチオのマカロンだ。

 2年前は、2週間ずっとそのワッフルのことを考えていた、とマテック サンズは言った。そして彼女とパートナーのルーシー・サファロバ(チェコ)が女子ダブルスのタイトルを獲ったとき、すべての賭けは終わった。

「決勝の直後、私は『さあワッフルを食べに行くわよ!』という感じだった。ほかの何も欲しくはなかったわ」と、マテック サンズは大笑いしながら言った。「私は片腕にトロフィを抱え、もう一方の手でヌテラのワッフルを持って食べたのよ。まだ試合のときのウエアを着たままでね!」。

 そして彼女の夫、ジャスティン・サンズによれば、その長いこと待ち焦がれたワッフルは、ダブルスのトロフィに注がれたシャンパンによって流し込まれたのだという。

 この話をしながら、ミネソタ生まれで、現在アリゾナにベースを置いているマテック サンズは、試合後の食事を摂っているところだった。プレーヤー用のカフェテリアで、夫ジャスティンによって用意された米と小さく切られたチキンと人参、オリーブオイル、塩コショウの一皿。それと赤いリンゴがひとつ。

「私にとって、自分が大会モードのときには、食べ物は燃料なの。私はそういう見方をする。食べ物を本当に楽しむためには、ときと場所というものがあるのよ。私たちは出かけて行き、私が好きな物で、食べてもよい何かがある場所を探そうと努めている」と彼女は言った。

「自分のパラメーターの範囲内で、いい食事を摂っていると感じているわ。でも間違いなく、自分に何でも好きなものを許す特別な日を楽しみにしている。しっかり計画しているのよ。なぜってそれは極めて稀だから、私はそれをただ何にでも浪費するような真似はしないの」。

 世界290位のペトラ・マルティッチ(クロアチア)は、予選から本戦4回戦まで進む過程で、各勝利をグラス一杯のワインで祝ったと言った。

 彼女が最終的に負けたとき、ある記者が「今夜はそこまでのルーティーンを変えるか」と尋ねた。

「それでも私にとっては素晴らしい大会だった」とマルティッチは言った。「常に赤ワインのための理由は見つけられるものよ」。

 スタコフスキーもこれに同感のようだ。

 彼は22歳になるまで酒を飲んだことはなかったというが、その後も飲むのはテニスの短いオフシーズンのみだったと言う。そして今は? 彼は毎晩、グラス1杯、あるいはグラス半分のワインをたしなんでいるという。

 スタコフスキーは本当にワイン好きで、シャトー・パヴィやムートン・ロートシルトなど、ボルドーのワインメーカーがスポンサーを務めるテニスクラブでのクラブ・マッチに出場している。彼はそこにいる間に、40から60のボトルをオーダーするのだという。

「昨今の選手たちの何人かと話すのは興味深いわ。彼らは、私がツアーを周っていた頃よりもお酒を飲んでいる」と、1990年代にシングルスとダブルスでトップ10だったチャンダ・ルビン(アメリカ)は言った。「私はたぶん遅れていたのかもね。でも私は今、その埋め合わせをしているわ」。

 元世界1位のマッツ・ビランデル(スウェーデン)は、現在の選手たちの生活は----いつ、どのように食べるか、時間をどのように費やすか、といったことは、かつてよりずっと厳格に管理されていると考えている。

「今やフィジカルセラピスト、トレーナー、そしてコーチがいる。それからもちろん代理人も。つまり、選手は自分のチームを抱えている。やることはすべて予定が組まれているんだ。昼食の予定を立て、昼食後にはストレッチに行く、といった具合にね」

 80年代に7つのグランドスラム・タイトルを獲ったビランデルはこう言った。

「今や、プロのテニス選手は、大会期間中にいっしょにどこかに出かけたりなどしなくなった。彼らはいっしょに夕食に行ったりはしない。80年代には、22歳の男たちがいっしょに夕食に行き、ちょうど5セットマッチに勝ったあとだったりしたら、そこで何が起こる? ビールで乾杯となるかもしれない」とビランデルは言った。「そして、もし負けていたら? 僕はやはり1回戦で負けた、ほかのスウェーデン人選手に電話をして、『ヘイ、いっしょに出掛けないか?』と誘うだろうね」。

 今大会、第21シードだったジョン・イズナー(アメリカ)は、テニスプレーヤーの間で人気のある『ラベニュー』を含め、パリのレストランに出かけて食事をした。

 しかし、(ATPによると)身長208cm、体重107kmのイズナーは不満だった。ステーキのサイズが彼には小さすぎたのだ。彼は解決策として2皿オーダーしたと言った。

「僕はアメリカで36オンス(約1kg)のステーキを出す『テキサス・ロードハウス』に行き慣れているんでね。ヨーロッパ、特にパリの食事は美味しいけど、僕は母国の食べ物が恋しいよ」と、フロリダに拠点を置いているイズナーは言った。「アップルビーズ(アメリカのチェーンのファミリーレストラン)や、キャラバスのイタリアン・グリルに勝てるものはない。僕はそれがちょっぴり恋しいのさ」。(C)AP(テニスマガジン)

※写真は「全仏オープン」会場内の「ヌテラ(Nutella)」スタンド。(撮影◎毛受亮介/テニスマガジン)