2017年のニューカマー@ナ・リーグ編 次々と若手が台頭してくるのがメジャーリーグの魅力ですが、今シーズンもナ・リーグから無名の選手がいきなり表舞台に現れました。そのニューカマーとは、コロラド・ロッキーズに所属するアントニオ・センザテラ…

2017年のニューカマー@ナ・リーグ編

 次々と若手が台頭してくるのがメジャーリーグの魅力ですが、今シーズンもナ・リーグから無名の選手がいきなり表舞台に現れました。そのニューカマーとは、コロラド・ロッキーズに所属するアントニオ・センザテラ(22歳)という先発ピッチャーです。

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開幕前は誰もアントニオ・センザテラに注目していなかった

 センザテラはベネズエラ出身の右投げ投手で、2011年7月に当時16歳でロッキーズに入団しました。そして4年後の2015年にはロッキーズ傘下シングルAのモデストで9勝9敗、リーグ1位の防御率2.51という好成績をマーク。カリフォルニアリーグの最優秀投手にも選出されました。

 しかし2016年はダブルAのハートフォードに昇格したものの、右肩を痛めてわずか7試合の先発登板に終わってしまいます。6月15日以降はまったくマウンドに上がることもなく、シーズン後半を棒に振ることになりました。しかも悪いことは重なり、8月24日にはガンを患っていた母親が52歳の若さで他界。公私ともにショックなことが重なり、精神的につらい時期でした。

 そんな不運が好転したのは今年の春。ロッキーズのキャンプに参加したところ、バド・ブラック監督の目に止まります。オープン戦での投球を見たブラック監督は、若いセンザテラの潜在能力に感じるものがあったのでしょう。その結果、トリプルAの経験がなく、昨年もダブルAで7試合しか投げていないにもかかわらず、なんと開幕ローテーションに大抜擢されたのです。

 センザテラの過去3年間のマイナーでの成績は、88試合に登板して41勝19敗。なかでも秀でていたのは、通算防御率2.45という安定したピッチングです。その武器を引っさげてメジャーデビューを果たすと、4月は3勝1敗・防御率2.81という新人らしからぬ抜群の安定感を発揮。いきなりナ・リーグの月間最優秀新人賞に選出されました。

 その勢いは5月以降も止まることなく、現在12試合の先発登板でリーグトップタイの8勝(2敗)をマーク。マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ/7勝)やジェイク・アリエッタ(シカゴ・カブス/6勝)など、球界を代表するエースより多い勝ち星を挙げているのです。

 しかも驚くべきは、「バッター天国」と言われるクアーズ・フィールドを本拠地としながら、防御率3点台(3.56)をキープしている点でしょう。最速96マイル(約154.5キロ)の速球と、キレのあるスライダーやチェンジアップを織り交ぜたスタイルで、メジャーの錚々(そうそう)たるスラッガーを次々と打ち取っています。

 ロッキーズは現在、ナ・リーグ西地区で堂々の首位をキープ。1993年創設の新興チームですが、開幕から50試合の時点で32勝18敗という勝率は球団史上最高のスタートダッシュです。その最大の原動力となっているのが、ルーキーのセンザテラであることは間違いないでしょう。

 今シーズン開幕前、センザテラの存在はまったく注目されていませんでした。ロッキーズのプロスペクト(若手有望株)ランキングでは10番目。「将来の先発ローテーション候補5人」にも名前は挙がっていません。予想外のうれしい誤算に、球団関係者はみんな驚いています。

 ただ、センザテラを抜擢したブラック監督は、このように述べています。

「自分が現役選手だったカンザスシティ・ロイヤルズ時代の1985年、当時21歳で20勝をマークしてサイ・ヤング賞に輝いたブレット・セイバーヘイゲン、そしてサンディエゴ・パドレス監督時代の2010年、当時22歳で防御率2.91をマークしたロサンゼルス・ドジャースのクレイトン・カーショウ。彼らふたりの若かりしころに、センザテラは似ている」

 現在22歳のセンザテラのピッチングは、若かった当時のセイバーヘイゲンやカーショウを彷彿とさせるのでしょう。彗星のごとく現れた無名のルーキー、センザテラの今後が大いに楽しみです。

 そしてもうひとり、ナ・リーグで取り上げたいニューカマーは、ドジャースに所属するコディ・ベリンジャー(21歳)という一塁手兼外野手です。

 ベリンジャーという名前を聞いても、誰かを思い出すファンは多くないでしょうが、実は彼の父は元メジャーリーガーのクレイ・ベリンジャーで、主に三塁手としてプレーしていました。1999年から2001年にかけてニューヨーク・ヤンキースに在籍し、2000年のワールドシリーズ優勝メンバーでもあります。ただ、メジャー4年間で通算打率.193・12本塁打・35打点と、チーム内では控え選手という扱いでした。

 そんな父を持つ息子のコディは、2013年にドラフト4巡目・全体124位でドジャースに入団。2015年にはシングルAのランチョ・クカモンガでホームラン30本を打って注目されました。そして今年、4月25日のサンフラシスコ・ジャイアンツ戦でメジャーデビューを果たすと、驚異的なペースでホームランを量産していったのです。

 6月8日現在、12本塁打はチーム1位、31打点はヤシエル・プイグと並ぶチーム1位タイ。突如現れたルーキーがドジャース打線を牽引しているのです。特筆すべきは、ホームランの量産ペースでしょう。デビュー31試合目での10本塁打到達は、1900年以降のドジャースの球団史上もっとも早いペースです。

 また、ベリンジャーはバッティングのみならず、一塁の守備も高く評価されています。近年のドジャースの一塁といえば、「チームの顔」であるエイドリアン・ゴンザレスの指定席でした。しかし、その立場も危うくなるほどの勢いを見せています。

 これまでドジャースからは、幾多の新人王が輩出しました。1992年から1996年にかけては5年連続でドジャースから選出され、野茂英雄投手も1995年に受賞しています。そして昨年はコリー・シーガーが満票で受賞し、前田健太投手も投票3位に食い込みました。今年はベリンジャーが受賞するのではと、早くも関係者の間では話題となっています。

 ア・リーグではアーロン・ジャッジ(ヤンキース)やアンドリュー・ベニンテンディ(レッドックス)が旋風を巻き起こしていますが、ナ・リーグのニューカマーも負けてはいません。若くしてブレイクを果たしたセンザテラとベリンジャーは、これからも要チェックです。

※記録は日本時間6月9日現在