7日に行なわれた日本対シリア戦に先発した香川真司は、前半9分、負傷のため交代した。試合後に受けた診断の結果は左肩関節前方脱臼で、最終予選イラク戦を前にチームを離脱することとなった。シリア戦でケガを負い、日本代表から離脱した香川真司 香…

 7日に行なわれた日本対シリア戦に先発した香川真司は、前半9分、負傷のため交代した。試合後に受けた診断の結果は左肩関節前方脱臼で、最終予選イラク戦を前にチームを離脱することとなった。


シリア戦でケガを負い、日本代表から離脱した香川真司

 香川は日本サッカー協会を通じて「残念かつ申し訳ない形でチームを離れますが、こればかりは仕方ないので、今は怪我を一日でも早く治すことに集中したいと思います。日本代表が勝つことを祈ることしかできませんが、勝利を信じて、戦ってきてほしいと思います」と、コメントを発表している。

 今回のケガは、自陣で相手フォワードのドリブルを止めにかかって倒れた際、無理な体勢で手をついたことによるもの。キリンチャレンジ杯という親善試合、前半9分という時間帯、しかも守備による負傷。気合いが空回りして本番であるイラク戦でプレーできないのは、本末転倒としか言いようがない。ハリルホジッチ体制になってから、香川が代表遠征に同行しなかったのは、国内組で臨んだ2015年の東アジアカップ以来である。

 シリア戦前日の6日、香川の所属するドルトムントでは新監督が発表された。新監督には昨季までアヤックスを率いたオランダ人のペーター・ボスが就任する。ボスはかつてジェフ市原でプレー経験があり、日本人としては親近感を抱くところだ。

 クラブ公式サイトで公開されているノビー・ディッケル(クラブOBでスタジアムアナウンサーを務めている)によるインタビューで「ドイツ語とオランダ語、英語、フランス語、あと少し日本語ができるよ。少し単語を覚えているから、香川とは話せると思うよ。香川がもっとよくなるかって? もう彼はいい選手だ」と語っている。

 もし香川がドルトムントに残留するのであれば、久々にポジティブな環境となるかもしれない。振り返れば、それぐらい香川にとっては難しい2年間だった。

 ドルトムントは5月27日にドイツ杯決勝でフランクフルトを下して優勝し、翌日にはドルトムント市内をバスに乗って巡る恒例のパレードが行なわれた。そこには元指揮官トーマス・トゥヘルの嬉しそうな姿もあった。

 トゥヘルが解任されたのは、それからわずか2日後の5月30日のこと。31日付のクラブ公式サイトでは、ハンス・ヨアヒム・ヴァツケCEOが、一人称でその理由を説明している。長文の割に詳細には踏み込んでいない内容だが、要は「信頼関係を築けなかった」という訴えに近い主張が強く伝わってきた。そのうえで「結果だけを求めているのではない」と、タイトル獲得直後の解任にサポーターの理解を求めている。

 トゥヘルの”変人ぶり”はマインツ時代から知られていた。マインツの関係者がドルトムント関係者にそう”進言した”という記事も見受けられた。言い訳がましい長文のメッセージが必要になったのはそのためだろう。そのあたりはどっちもどっち、という印象しか残らない。

 信頼関係が築けなかったのであろうと推測できる情報は何度も報じられてきたが、それは香川真司の発言や振る舞いからもよく伝わってきた。

 驚いたのは、シーズンも終わりかけた5月6日、第32節ホッフェンハイム戦後の香川のコメントだった。香川はトゥヘルのことを「今の監督」と表現した。2年間もともに過ごしながら、まるで最近知り合ったばかりの人物であるかのような言い方は、ふたりの間の距離感を強く感じさせた。

 香川だけではない。特にシーズン終盤、オーバメヤンやマルコ・ロイスは、得点してもベンチと喜びを分かち合うことがなかった。スタンドから見ていてもわかるほどの、いわば絶縁状態だった。

 日本に帰国して代表合宿に臨んだ香川は、トゥヘルとの2年間をこのように振り返った。

「自分の口から総括するのは難しい、チームが決めたことなので。監督からは学ぶこともたくさんあったし、悔しい部分もたくさんあって、そういうのを与えてくれたことはいい経験になった。いい2年間だった」

 この時も、トゥヘルを「彼」と呼び、すぐに「監督」と言い直す場面があった。ここに至っても、なお溝のようなものがあるのを感じさせた。

 香川のコメントからは、悔しさで満ちていても、それをポジティブな経験に変換していきたいという心境が読み取れる。フル出場した最終節ブレーメン戦の後には、次のように今季を振り返っている。

「すごくいい1年だったと思っている。もちろん出られない時期が多かったですけど、その時期にどう取り組むか、どういうメンタリティでいるかというのがすごく大事だと、あらためて気づいた。1年ずっと活躍し続けるということがどれだけ難しいか。ある程度の波は必ずあると思っているので、シーズンの中でそれを経験できてすごくよかった。また来シーズン、自分の経験に活かしていきたいと思っています。充実したすばらしい1年だったと思っています」

 そう表現するしかない。そして後から振り返ったとき、そう思えるようにしたいという希望を込めたコメントだった。

 これまで香川が結果を残してきたのは、ユルゲン・クロップ、アレックス・ファーガソンという、香川を評価してチームの軸に据えてきた監督と仕事をしたときだ。逆にデイビッド・モイーズやルイス・ファン・ハールのもとではそもそも構想外で、そこから這い上がることはできなかった。

 チームのカラーをクロップ色から一新したかったトゥヘルのもとでは、やはり苦戦を強いられた。ボス新監督はどのような構想を持っているのか。それは香川の選択をも大きく左右することになるだろう。

 チームの始動までは1カ月ある。代表離脱は本意ではないだろうが、休み、考え、準備をする時間はたっぷりある。