フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコーと)は大会12日目、女子シングルスの準決勝2試合が行われた。 ノーシードのエレナ・オスタペンコ(ラトビア)と第30シードのティメア・バシンスキー(スイス)の…

 フランス・パリで開催されている「全仏オープン」(5月28日~6月11日/クレーコーと)は大会12日目、女子シングルスの準決勝2試合が行われた。

 ノーシードのエレナ・オスタペンコ(ラトビア)と第30シードのティメア・バシンスキー(スイス)のバースデー対決は、20歳になったオスタペンコが7-6(4) 3-6 6-3で勝利。34年ぶりとなるノーシードのファイナリストの誕生だ。決勝では、第2シードで昨年の全米準優勝者のカロリーナ・プリスコバ(チェコ)を6-4 3-6 6-3で退けた第3シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)と対戦する。 ◇     ◇     ◇

 昨年は同じロラン・ギャロスの1回戦で大坂なおみ(日清食品)に敗れたオスタペンコが、一年でファイナリストに成長した。準決勝でフルセットの末に敗れたバシンスキーは、オスタペンコの怖いもの知らずの攻撃に、ただただ感服していた。

 第1セット、第2ゲームで先にブレークしたのはバシンスキーだったが、オスタペンコはすぐにブレークバック。今度は第7ゲームでブレークしたオスタペンコに対してバシンスキーがすぐにブレークバックし、オスタペンコは第11ゲームでブレークすると、またすぐにバシンスキーがブレークバックしてタイブレークへ。これをオスタペンコがものにするが、7ポイントのうち6本がウィナーだった。とにかく、ミスを恐れずに、ネットすれすれ、ラインぎりぎりの高速ショットを打ちまくるのがオスタペンコの持ち味だ。

 第2セットは失ったが、最終セットも強気の姿勢を崩すことなく、終盤で突き放した。

 オンコート・インタビューで元ウィンブルドン・チャンピオンのマリオン・バルトリ(フランス)が、「あなたのフォアハンドのウィナーのスピードは、アンディ・マレーのフォアの平均スピードより上だったときもあったのよ!」と指摘し、オスタペンコはニコニコ微笑んでいたが、渾身のパワーを乗せたショットにはそれくらいの勢いがある。この日放ったウィナーの数は50本。バシンスキーの2倍以上だった。

 そのバシンスキーもまた、今日が誕生日だったが、28歳になったクレー巧者はオスタペンコの成長をこう表現した。

「一番変わったところは動きだと思う。シャラポワがいつだったか、クレーコートの自分のことを『氷の上のバンビ』とかなんとか言ったことがあったけど、去年のオスタペンコも同じことを言っていたわ。動きがよくなって、前ほど不安定ではなくなった」

 確かシャラポワは「氷の上の牛」と言ったのだが、牛でもバンビでも構わない。とにかく、無力で弱々しい状態であることに変わりはない。そんなオスタペンコがクレーでここまで成長した裏には、昨年の秋から指導にあたっているスペインのアナベル・メディナ ガリケスの存在があるようだ。

 メディナ ガリゲスは今なお現役の34歳だが、肩の故障のため昨年の夏から戦列を離れている。マネージメントが同じという関係で、2015年のオフシーズンにもトレーニングをともにしたことがあったが、本格的にコーチをするにあたって、メディナ ガリゲスはオスタペンコに足りなかった〈忍耐〉を教え込んだという。

 パワフルだが、ウィナーとアンフォーストエラーが隣り合わせだった不安定なプレーから、ミスを減らしていかにラリーを組み立てるか。そのためにはもちろん、クレーでの独特のフットワークを習得することも重要だった。

 ただ、安定したとはいっても、準決勝でのアンフォーストエラーは45本。まだ安定しているとまではいいがたい。ここまではウィナーやウィナー級のショットがそれを帳消しにしていたのだ。 決勝でも同じようにいくだろうか。相手は3年前に一度ここで準優勝を経験しているクレー巧者のハレプだ。正確で安定したショットを左右に打ち分けてくる25歳に対し、初の大舞台で、これまでのように平常心で戦えれば、まさかの結末が待つかもしれない。 (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

※写真は「全仏オープン」準決勝で第30シードのティメア・バシンスキー(スイス)を倒したノーシードのエレナ・オスタペンコ(ラトビア)(撮影◎毛受亮介/テニスマガジン)