2017年のニューカマー@ア・リーグ編 2017年のレギュラーシーズンも約3分の1を消化し、両リーグ各地区の勢力図も徐々に固まってきました。開幕時は注目されていなかったチームが躍進したり、無名の若手プレーヤーが突如ブレイクするなど、予想…

2017年のニューカマー@ア・リーグ編

 2017年のレギュラーシーズンも約3分の1を消化し、両リーグ各地区の勢力図も徐々に固まってきました。開幕時は注目されていなかったチームが躍進したり、無名の若手プレーヤーが突如ブレイクするなど、予想外な出来事もメジャーリーグのひとつの楽しみです。そこで今回は、シーズン序盤を大いに沸かせた「2017年のニューカマー」を紹介したいと思います。


ホームランを量産して一躍人気者となったアーロン・ジャッジ

 まずはア・リーグで、ひとり目はニューヨーク・ヤンキースに所属するアーロン・ジャッジ(25歳)を取り上げるべきでしょう。2013年のドラフト1巡目・全体32位でヤンキースに入団したジャッジは、プロ入り早々にマイナーで結果を残して注目を集めた逸材です。メジャーデビューは2016年8月13日のタンパベイ・レイズ戦。その試合でなんと初打席・初ホームランを放ち、華々しいデビューを飾りました。

 そして2017年、カルロス・ベルトランの移籍やマーク・テシェイラの引退に伴いライトのレギュラーに抜擢されると、驚異的なペースでホームランを量産しているのです。その数、開幕から40試合の時点で15本。この「開幕40試合・15本塁打」をヤンキースの選手でクリアしたのは、過去にベーブ・ルース、ミッキー・マントル、ティノ・マルティネス、アレックス・ロドリゲスの4人しかいません。

 しかも、新人でホームラン15本に出場38試合目で到達したのは、1987年のマーク・マグワイア(当時オークランド・アスレチックス)、1986年のウォーリー・ジョイナー(当時カリフォルニア・エンゼルス)に次ぐメジャー歴代3位のスピード記録です。シーズン開幕から豪快なホームランを放ち続けたことで、ジャッジは早くも『スポーツ・イラストレイテッド』の表紙を飾るなど、全米で大きな話題となっています。

 彼がひと際注目されるようになった理由のひとつに、まずは身体の大きさがあるでしょう。身長201cm・体重124kgというメジャーきっての巨漢で、遠目から見てもその大きさは目立ちます。これまでピッチャーでは殿堂入りした身長208cmのランディ・ジョンソンなど、2メートル以上の長身で活躍したメジャーリーガーはいました。しかし、200cmオーバーのバッターで成功した例はほとんどありません。

 もっとも成功した例は、身長201cmのフランク・ハワードです。ワシントン・セネタース(現テキサス・レンジャーズ)時代に2度の本塁打王(1968年・1970年)に輝き、メジャー通算382本塁打を記録している巨漢スラッガーです。1974年には太平洋クラブ・ライオンズ(現埼玉西武ライオンズ)でも1試合だけプレーしました。

 さらにもうひとつ、ジャッジが注目されているのは彼の背番号「99番」です。ヤンキースは永久欠番が多く、ひとケタの背番号はすべて埋まっています。そんな名門チームで99番を背負ったことが話題となりました。ちなみに、背番号に99番を選んだのはメジャーリーグ史上15人目。メジャーで初めて背負ったのは、ヤンキースのチャーリー・ケラーという外野手でした。

 過去15人の背番号99でもっとも有名なのはマニー・ラミレスでしょう。1999年に打点王、2002年に首位打者、2004年に本塁打王とワールドシリーズMVPに輝いた名スラッガーです。デビュー当初のクリーブランド・インディアンズやボストン・レッドソックスでプレーしていたときは24番でしたが、キャリア後半のロサンゼルス・ドジャースやシカゴ・ホワイトソックス、そして今年加入した四国アイランドリーグの高知ファイティングドッグスでは99番を背負っていました。

 ジャッジの人気は右肩上がりで、ヤンキースタジアムには彼の名前にちなんで「ジャッジ・チェンバース(裁判官執務室)」という特別席が外野スタンドの一角に設けられています。このままの勢いが続けば、オールスターのホームラン競争に出場するかもしれません。「メジャーきっての飛ばし屋」マイアミ・マーリンズのジャンカルロ・スタントンをしのぐほどの打球スピード・飛距離をマークするなど、ジャッジは今シーズン序盤を盛り上げたニューカマーのひとりに間違いありません。

 そしてもうひとり、ア・リーグのニューカマーとして取り上げたいのは、レッドソックスに所属するアンドリュー・ベニンテンディ(22歳)です。ジャッジに対抗するかのように、ヤンキースのライバルチームからも突如ルーキーが頭角を現しました。

 ベニンテンディは2015年のアーカンソー大学時代にカレッジ球界最多となる20本塁打を放って全米大学最優秀選手にも選ばれた逸材で、ドラフト1巡目・全体7位でレッドソックスに入団した期待のホープでした。しかしながら、昨年8月2日に早くもメジャーデビューを果たしたものの、ひざのケガでレギュラーシーズンは2本塁打に終わってしまいました。

 ところがケガから復帰後、ポストシーズンの最初の打席でホームランを放って才能の片鱗をのぞかせると、今年は開幕から2番に抜擢されるやいなや大爆発。デビッド・オルティスの抜けたレッドソックス打線に加わり、最近では4番を任させるほどの中軸バッターとなっているのです。

 4月の1ヵ月間で、チーム最多の30安打・14打点をマーク。レッドソックスのルーキーが4月にチーム最多のヒットと打点を叩き出したのは、1975年のフレッド・リン以来、実に42年ぶりのことです。

 リンは1972年、USC(南カリフォルニア大学)時代に第1回日米大学野球選手権で来日し、関西大学のエースだった山口高志投手(元阪急ブレーブス)から特大ホームランを打つなど、日本野球とも関わりある人物。1975年にメジャー史上初となる新人王とMVPのダブル受賞を果たし、その快挙を次に成し遂げたのが2001年のイチロー選手(当時シアトル・マリナーズ)でした。当時、日本のメディアでもリンの名前が多く取り上げられたので、覚えている方も多いのではないでしょうか。

 ベニンテンディの本職はセンターでしたが、このポジションはジャッキー・ブラッドリー・ジュニアという若きスターの定位置となっているので、現在はレフトを守っています。ただ、レッドソックスの歴史上において、レフトというポジションは聖域です。「打撃の神様」テッド・ウィリアムズ、三冠王に輝いたカール・ヤストレムスキー、そして本塁打王3回のジム・ライスと、グリーンモンスターの前を守ったのは殿堂入りした名選手ばかり。ベニンテンディはその栄光のポジションでこれから新たな歴史を作っていくのかもしれません。

「フレッド・リンの再来」と呼ばれ、関係者が「10年にひとりのバッター」「将来、首位打者を獲るのは確実」と賞賛するベニンテンディは、ジャッジとともに成長著しい逸材なので、今後が楽しみなニューカマーです。今年のア・リーグはライバル球団同士でしのぎを削る、彼らふたりにぜひ注目してください。