NHK杯フリーの宇野昌磨 11月18日のグランプリ(GP)シリーズ・NHK杯ショートプログラム(SP)では、宇野昌磨(トヨタ自動車)は4回転トーループの失敗により山本草太(中京大)に次ぐ2位。それでも、宇野は「トーループの失敗以外はすごくよ…



NHK杯フリーの宇野昌磨

 11月18日のグランプリ(GP)シリーズ・NHK杯ショートプログラム(SP)では、宇野昌磨(トヨタ自動車)は4回転トーループの失敗により山本草太(中京大)に次ぐ2位。それでも、宇野は「トーループの失敗以外はすごくよかった」と話し、トーループについても「跳び方自体は悪くないので、このジャンプを続けていけばうまくいく」と述べた。

 翌19日のフリーは、SPで成功した4回転フリップにミスが出た。他の4回転ジャンプ4本とトリプルアクセル2本は成功したが、得点源となるコンビネーションジャンプは2本だけという滑り。演技終了後は、まあこんなものか、とでも言いたげな表情を浮かべた。合計279.76点で優勝という結果にも、宇野は冷静さを崩さなかった。

「自分の演技に対してはうれしいとか悔しいという感情はないんですけど、何か、本当に状態がよくなくて周りの方々にもたくさんの心配をかけました......。ただ、次の(12月9日開幕の)GPファイナルまで期間があまりないので、どういう調整をしていくか。それは自分で決めなくてはいけないことなので、今はそれを冷静に考えています」

フリー直前に変えたジャンプへの意識

 NHK杯へ向け、納得できない練習が続き、宇野は心を揺らしていた。それが大会前日の公式練習のあとに話した「いらだった気持ち」だった。フリーの日の練習時にも誤算が出て、練習を終えてからジャンプへの意識について少し考えた。

「6分間練習で最初に4回転トーループを失敗した時、『エッジの位置が違うな』と思ったので。僕がジャンプの調整のために昨日(18日)、おとといとエッジの位置を直前までコロコロ変えていた影響で、あまりにも違う方向にいってしまったなと思い、6分間練習の途中で、『これ以上この位置で跳んでも意味がない』と思いました。

 それで影響のない4回転ループだけを跳んで、あとの練習は流して......。そのあと自分の出番まで4人いるから、その時間でエッジの位置を自分が思うほうに調整し、演技の直前に4回転トーループをしっかり跳んでから、アクセルとトーループを跳ぼうと決めました。

 右足のほうは変えてなかったので4回転ループは『練習どおりに』と思ってやった結果、跳べました。本当に運がよかったと言えばよかったけど......ちゃんと合わせられたかなと思います」

 3本目の4回転フリップが2回転になったのは、自身では織り込み済みだった。最初は「どうせ跳べない」と思い、4回転フリップを最後の7本目にして、3本目には4回転トーループをしっかり跳ぼうと考えていた。だが、最初の4回転ループと4回転サルコウを跳べたことで、練習どおりにやろうと考えを変えた。

「直前にエッジを動かしたので、まずはトーループが跳べるのか、アクセルが跳べるのか、自分の感覚がどういうものかと考えていた。本来なら何日かかけて調整していくものなので、どうなるかわからないというなかでしっかり踏みきって降りられるかを最初の4回転トーループで確認しました。

 それで『あっ、大丈夫だ』と思ったので、次の4回転トーループには『ダブルでいいから』と2回転トーループをつけてコンビネーションにしました。最後のトリプルアクセルは本当に余裕があったら3連続にしようと思ったけど、不確定要素を取り入れたなかだったから、ちょっとでも安心できるジャンプにしようとシングルにしました」

 納得できない状態を考慮したなかで、自身でしっかりと考えて体現した演技。いつもの宇野らしい曲に身を任せるような流れのある滑りだったが、「今日はジャンプ以外のことは全然考えてなかった。なのでプログラムをつくってくれた宮本賢二先生には申し訳ない演技をしたと思いつつも、優勝につながる演技ができたと思います」と振り返った。

納得できなくても今できるベストを

 この苦しい戦いで得たものは、宇野にとって大きかった。

「今日まではいい練習ができてこなかったと言いましたが、それでも納得しなくても毎日自分ができる範囲で練習をしてきたことは事実なので。今回の演技内容にもそれが表れていたと思うし、今できるベストは出せたかなと思います」

 かつてコーチ不在で苦しんだ時の「自分がどこまで落ちてしまうかわからない状態」とは違い、今回の279.76点は、現時点の自分の最低限と言える、ベースラインの得点でもあることも確認できた。

 SPの時のようないらだちとは違い、フリーは精神的にアップでもダウンでもなかった、と振り返る。

「フリーは、練習どおりと思える演技がはたしてあったか、とも思っていますが、ただ練習で気をつけていたことを、しっかり試合でも気をつけようと思っていました。いつもやらないようなことをしていたので、いい意味でも悪い意味でも気持ちが散っていてあまり考え込まないで済んだ。跳べなくても、跳べない原因がある失敗をしているから、あまり自分に腹が立つということはなかったです」

 戦い終わり残ったのは、平板な気持ちだった。それは今季の宇野が、かつてのように羽生結弦やネイサン・チェンを追いかけようとするのではなく、自分が今できる最高難度の構成に挑戦し、自分自身に対して集中しているからだろう。

 道の険しさをこれまでの経験で十分に知っているだけに、目先の大会の結果に一喜一憂し心を揺らしている場合ではない、と考えている。NHK杯の勝利は、宇野にとっての大きな一歩であり、次のGPファイナルも自分が目指すべきところに到達するための一歩でしかない。そんな心境で彼は今、自分のフィギュアスケートを目指している。