地球の裏側という物理的距離だけでなく、サンパウロには確かにほかとは明らかに違う雰囲気が漂っている。もちろんここがアイルトン・セナの生まれ故郷であり、彼の愛した場所であるということも、F1関係者たちの胸に刻まれている。彼の眠るモルンビーの墓…

 地球の裏側という物理的距離だけでなく、サンパウロには確かにほかとは明らかに違う雰囲気が漂っている。もちろんここがアイルトン・セナの生まれ故郷であり、彼の愛した場所であるということも、F1関係者たちの胸に刻まれている。彼の眠るモルンビーの墓地には、今も花が絶えることはない。

 そんなセナのいたずらか、ブラジルでのレースはドラマティックな結末になることが多い。



角田裕毅はブラジルGPでポイント獲得なるか

 2019年に劇的な初表彰台を獲得したピエール・ガスリーも、そんな"役者"に選ばれたドライバーのひとりだ。

「ものすごく前のことのように感じられるね。でも、ブラジルに戻ってくるたびにあの感情を思い出すんだ。コースを歩いていても、あの時のことを思い出す。最終コーナーの上り坂を歩くたびにチームのみんなと、あの時のルイス(・ハミルトン)とのドラッグレースのことを思い出して話す。本当にすばらしい瞬間だった。今年もできればそんな力強い週末にしたいね」

 チームメイトの角田裕毅にとっては、初挑戦の昨年はたった1時間のフリー走行のみで予選に挑まなければならず、苦戦を強いられた。今年も土曜日にスプリントレースが行なわれるため、金曜の午後には予選が行なわれる。

「去年はフリー走行だけで予選に臨まなければならなくて、とても忙しい週末でしたけど素早く適応はできたし、今年は状況が把握できている分、もっとスムーズに行くと思います。シミュレーターもドライブして準備してきたので、1周目からいいペースで走ることができると思います。いつもどおりQ3進出とポイント獲得を目標にしたいです」

 幾度もの路面の全面改修で昔に比べれば格段にマシになったとはいえ、路面のバンピーさも気になると角田は言う。昨年は慣れない左回りのサーキットに体力を奪われたが、肉体改善によって今年は身体能力を向上させている。

「シミュレーターで感じられるのはすごくバンピーだということなので、実際にそれがどこまでアグレッシブなのか、特にブレーキングゾーンなどでトリッキーになるかですね。左回りのサーキットで体力的にも厳しいのは去年のレースでも感じましたし、特に首がきつかった。そういう点(横G)ではシーズンで最も厳しいレースのひとつだと思います。でも、今年は体力的もしっかりと準備ができていると思います」

 前戦メキシコシティGPではリタイアに終わったものの、「今季ベスト」と言うタイヤマネジメントを実行して入賞が目の前に見えていた。同じような走りができれば、サンパウロでも入賞のチャンスは十分にある。

 スプリントレースで30分間みっちりと実戦を学べるのは、2年目の角田にとってもいい経験になるだろう。事実、ここまでスプリントレースが行なわれたイモラとシルバーストンでは、好走を見せ好位置につけている。

 角田に必要なのは、劇的なドラマではなく、堅実に、クリーンにレースを戦い抜いてポイントを獲得することだ。

 アルファタウリはコンストラクターズランキング9位に沈んでおり、1点差の8位ハース、14点差の7位アストンマーティン、18点差の6位アルファロメオを追いかけている。残り2戦となった今、スプリントレースもあるサンパウロGPでしっかりとポイントを積み重ねることが極めて重要だ。

 チームメイトのガスリーは、昨年は中団グループ最上位の7位でフィニッシュしている。

 しかし、今年は出場停止の危機に直面している。ペナルティポイントが10点となり、あと2点で次戦出場停止の処分が下されることになるからだ。

「とても快適ではないし、慎重さを要する状況だね。シーズンを戦ってきてここで出場停止の可能性がある立場にいるのは、ちょっと困惑する状況でもある。もちろんすべてのレースに出場し、ベストなかたちでアルファタウリとのシーズンを締めくくりたいと思っているよ」

 ペナルティポイントというのは本来、危険なドライビングに対して科されるものだった。しかし、今季になってその運用にずれが生じ、ガスリーのみならず多くのドライバーが以前から異論を唱え、FIAとの間で話し合いを進めていたところだった。それだけに、ほかのドライバーたちからは同情の声も上がっている。

「彼のドライビングやミスに起因するものではないポイントが含まれている」(セルジオ・ペレス)

「すでに話し合いを進めていて、来年に向けて変更が加えられると理解している。ペナルティポイントは自車や他車に損害を及ぼすような危険なドライビングに対して科されるもので、現状では危険でないドライビングに対して出されているものがある」(バルテリ・ボッタス)

「ピエール(・ガスリー)に100パーセント同意する。僕のペナルティポイント3点はトラックリミット違反に対するもので、これは誰かを危険に晒すようなものではまったくなかった。あと2点はジェッダでの(ランス・)ストロールとの接触に対するものだったけど、ふたりの話し合いで僕のミスではなかったと結論づいている。このように、本来科されるべきではないポイントがたくさん科されている」(アレクサンダー・アルボン)

 今週末はスプリントレースが行なわれるだけに、バトルやペナルティの可能性は通常よりも大きくなる。慎重なドライビングが要求されるガスリーに代わって、角田がチームを引っ張らなければならない場面も出てくるかもしれない。

 優勝争いは、今季14勝を挙げて年間最多勝記録を塗り替えたマックス・フェルスタッペンが最有力候補であることは間違いない。しかし、マシン開発を進めてきたメルセデスAMGも毎戦のように優勝争いに絡んできており、フェラーリもメキシコシティGPのようなミスは犯さないと自信を見せている。

「ドライコンディションであれだけ後れを取ることはなかったし、メキシコはセットアップを正しく仕上げることができなかったワンオフだ。エンジンかマシンバランスかタイヤか、何かがうまく機能していなかった。マシンから何を学び来年につなげられるか、ここでペースを取り戻すのが重要だ。今週末はレッドブルやメルセデスAMGと表彰台を争いスムーズな週末にしたいと思っているよ」(カルロス・サインツ)

 2019年はフェルスタッペンとガスリーのホンダ勢がダブル表彰台を獲得し、大観衆からホンダコールが沸き起こった。2021年はスプリントと決勝の両方を通してルイス・ハミルトンの驚異的な追い上げと大逆転優勝が見る者を驚かせ、セナファンを公言し続けてきたハミルトンの活躍に地元ブラジルの大観衆が熱狂した。

 果たして今年のサンパウロGPでは、どんなドラマが生まれるのだろうか。