北半球、南半球の強豪14チームが参加するオータム・ネーションシリーズが熱戦を繰り広げている。10カ月後の本番、ワールドカップ・フランス大会を見据えて実力を計る格好のステージだ。ジャパンは12日にワールドランキング5位のイングランド、20日に…

北半球、南半球の強豪14チームが参加するオータム・ネーションシリーズが熱戦を繰り広げている。10カ月後の本番、ワールドカップ・フランス大会を見据えて実力を計る格好のステージだ。ジャパンは12日にワールドランキング5位のイングランド、20日に同2位のフランスと対戦する。いったいどんな試合を見せてくれるのか、見どころをまとめてみた。

◆元オールブラックス ダン・カーター氏 日本に「勝機ある」「フィジカルで引いてはいけない」

■熱狂に包まれた国立でのオールブラックス戦

10月29日、国立競技場に6万5188人を集めて行われたオールブラックス戦。ジャパン・ラグビーが2019年ワールドカップのスコットランド戦以来、3年ぶりに熱狂に包まれた。前半を17-21と4点差に食らいついて折り返すと、後半も力勝負を互角の展開に持ち込み、79分には姫野和樹がポスト下にねじ込んで再び4点差に詰め寄った。

ワントライで逆転! その瞬間、誰もが2015年のワールドカップで南アフリカを破った、世紀のアップセットを思い起こしたはずだ。最後は83分にPGを決められて7点差となったが、オールブラックスをギリギリまで追い詰めたことは事実だ。試合後、サム・ケーン主将は「タフな試合は予想どおり。最後までハードワークをしなければならなかった」と、ジャパンの力を認めた。

しかし、ラグビーとは、善戦はあっても番狂わせが極めて起こりづらいスポーツ。「悔しいです。勝てた試合だった」(姫野)、「最後の最後、ちょっと届かなかった。本当に悔しい」(坂出キャプテン)というコメントは、ラグビーをよく知っているからこそ出る言葉だ。力差が縮まっていることは事実だが、次にいつ、これだけのチャンスが来るかは誰も分からない。「勝ち切りたかった」それが本音に違いない。

■初戦に敗れたイングランドの戦い方に注目

6日にアルゼンチンと対戦したイングランドは、シーソーゲームの末、29-30と競り負けてしまった。足のケガと脳しんとうで休んでいたキャプテンのオーウェン・ファレルがセンターで復帰し、やはり久しぶりのマヌ・トゥイランギとコンビを組んだが、迫力は感じられなかった。

大会を前にエディ・ジョーンズHCは「勝たなくてはいけないが、すべてを出したくない」と手の内を隠すともとれる発言していた。また、コートニー・ローズ(LO)、ジョニー・メイ、エリオット・デイリー(いずれもWTB)など主力を欠いていた。とはいえ、負けた言い訳にはならないだろう。

もし、ジャパンに敗れれば、本番で同じ予選プールに入る2チームに連敗となる。8万2000人収容の聖地トゥイッケナムで、それは許されないはずだ。エディは、「日本は私にとって特別な国だが、試合は試合。全力で叩き潰す」ともいっている。なりふりかまわず、勝ちにくるのか…

■ジャパンの勝機は失点を減らすことで訪れる

ジャパンが勝利を掴むとすれば、失点が減らすことだろう。先に行われたオーストラリアAとの3試合でも、合計104点を失った。オールブラックス戦でもサインプレーで簡単にラインブレークされるシーンが目立った。

近年のワールドクラスの試合では、トライの多くは4次攻撃までに生まれるというデータがある。セットプレーからの攻撃パターンを読み取る高度なディフェンス戦略が必要となる。

逆に攻撃力は世界に通用することを、秋の4戦で証明した。姫野を7番に置き、デビタ・タタフをNo.8に入れるバックローがよく機能している。また、20歳のロック、ワーナー・ディアンズがオールブラックス戦でトライをあげて猛アピールしたほか、シオサイア・フィフィタ、松島幸太朗のウイング・コンビも躍動していた。イングランドからでも複数のトライを奪えるとみる。

ジャパンは過去にイングランドと9回対戦して全敗。ラグビーの聖地で歴史を塗り替えることができるのか、注目したい。

■勢いのあるフランスに、どこまで迫れるか

フランスは5日の開幕戦でワラビーズと対戦、30-29と競り勝ってテストマッチの連勝を11に伸ばした。現在、チーム記録を更新中、勢いに乗っている。先発メンバーの平均年齢が24歳と若いのもいい。4年をかけて育ててきたチームが成熟期に入ろうとしている。

特に目立ったのはフルバックに入ったトマ・ラモス。センターライン付近からの長距離弾を含むPGを次々に決めて勝利に貢献した。また、ランでも強いところを見せ、ほぼ15番を手中にしたといっていいだろう。

逆にケガから復帰して活躍が期待されたロマン・ヌタマック(SO)は、動きがもうひとつだった。むしろ途中交代で入ったマチュー・ジャリベルがよくみえた。世界一のスクラムハーフと評価が高いキャプテンのアントワンヌ・デュポンと、どちらがコンビを組むのか、気になるところだ。

ジャパンは今年の夏の2戦を含めて、フランスにも勝ったことがない。デュポン、ヌタマック、ラモスが所属するトゥールーズの地元で見せ場を作れるか、この試合も目が離せない。

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著者プロフィール

牧野森太郎●フリーライター

ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。