今季ツアーの中心にいた7人森口祐子プロが彼女たちの強さに迫る2022シーズンもハイレベルかつ白熱した戦いが繰り広げられている女子ツアー。なかでも今季、安定した活躍を見せているプレーヤーが7人いる。彼女たちは観客を魅了する圧巻のプレーを披露し…

今季ツアーの中心にいた7人
森口祐子プロが彼女たちの強さに迫る

2022シーズンもハイレベルかつ白熱した戦いが繰り広げられている女子ツアー。なかでも今季、安定した活躍を見せているプレーヤーが7人いる。彼女たちは観客を魅了する圧巻のプレーを披露し続け、ここまで多くのトーナメントで優勝、あるいは上位に名を連ねてきた。そんな彼女たちは何がすごいのか。そして、彼女たちの強さの秘密はどこにあるのか。永久シード選手の森口祐子プロに解説してもらった――。



西村優菜(にしむら・ゆな)
2000年8月4日生まれ。大阪府出身。2022シーズン優勝2回。トップ10入り12回。メルセデスランキング4位。賞金ランキング2位(獲得賞金1億4050万8595円)。
※成績などの数字は2022年11月9日時点のもの。以下同。

 今シーズンは、スイングの軸が少し乱れていたという感じを受けました。それは、下半身の問題なのか、メンタル的なことを含めての上半身の問題なのか、原因はいろいろと考えられますが、前半戦は西村さんらしくないショットが少し見受けられました。

 それでも、秋口の日本女子オープン辺りから、本来のゴルフが戻ってきたように思います。誰もが苦しんだ女子オープンの難しいセッティングに対して、パーを積み重ねるというシンプルなゴルフに向き合っていましたから。その結果、最終日には優勝した勝みなみさんと2人だけ60台で回って、西村さんは3位タイでフィニッシュしました。

 残り3試合は、彼女が好きなコースが続きます。こうしてショットのフィーリングが戻ってきたことで、昨シーズン同様、賞金女王争いにおいては最後まで盛り上げてくれるのではないでしょうか。





山下美夢有(やました・みゆう)
2001年8月2日生まれ。大阪府出身。2022シーズン優勝3回。トップ10入り19回。メルセデスランキング1位。賞金ランキング1位(獲得賞金1億8527万967円)。

 強さや安定感を示す「メルセデスランキング」「年間獲得賞金」「平均ストローク」の各部門で1位。今シーズンの年間女王の最有力候補であることは間違いないでしょう。

 日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯(2位)の時のキャディーさんが、「彼女のショットの距離計算は、2~3ヤード刻みで本当に狂わない。ちょっとレベルが違いますよ」と彼女の強さを語っていました。ショットの精度が高く、細かなキャリーの計算がきっちりできるから、勝負どころとなる100ヤード以内のショットでチャンスにつけて、バーディーを確実にとっていけるわけです。

 メルセデスランキングによる年間女王争いですが、山下さんと2位の西郷真央さんとのポイント差は結構開いています。ただ、今後はメンタル面の強さの勝負にもなってきます。女子ツアーは例年、土壇場での大逆転も生まれる熾烈な戦いゆえ、最後まで目が離せません。



西郷真央(さいごう・まお)
2001年10月8日生まれ。千葉県出身。2022シーズン優勝5回。トップ10入り11回。メルセデスランキング2位。賞金ランキング4位(獲得賞金1億2682万9607円)。

 2020-2021シーズンでは、中盤から終盤にかけて2位が7回。優勝まであと一歩届きませんでしたが、今シーズンは一転、開幕戦でツアー初優勝を飾ると、5月のブリヂストンレディスまでの10戦で優勝5回と目を見張る活躍を見せました。

 躍進の一因は、今季は"待てるゴルフ"ができているからだと思います。もともとショットがいい西郷さんはイケイケのゴルフになりがちで、去年はグリーンを外した時に気持ちが途切れる部分もあったのかもしれません。

 それが今季は、逸(はや)る気持ちを抑えたメンタルのコントロールができているようです。それを裏づけているのがリカバリー率。去年は24位だったのが、今年は現在1位です。

 シーズン序盤の勢いが中盤以降続かなかったのは、海外メジャーに挑戦した影響が出たのかなと思います。帰国後、少し力が入っているな、というゴルフになっていた時期がありました。それでも、10月のスタンレーレディスで2位タイになるなど地力はあるので、残り3試合での巻き返しが期待されます。





勝みなみ(かつ・みなみ)
1998年7月1日生まれ。鹿児島県出身。2022シーズン優勝2回。トップ10入り14回。メルセデスランキング6位。賞金ランキング5位(獲得賞金1億1577万6675円)。

 最近はコーチの指導を受けるトッププレーヤーが多いなか、彼女は自分でスイングを作る数少ない選手です。大会連覇を遂げた日本女子オープンでは、極端なオープンスタンスにして打っていたティーショットが「飛んで曲がらない」と話題になりましたが、これは大会前にインサイドアウト軌道でフェースが開いて当たって、ボールが真っ直ぐ右に出ていたため、左を向けば真っ直ぐ飛ぶんじゃないかと自分で考えたそうです。

 コーチなどに頼らず、自ら考えてやっていることですから、それがハマった時は本当に強い。時折見せる勝さんの爆発的な強さには、そういうスイング作りの背景があるようです。

 来季、アメリカツアーに挑戦することを表明した彼女。その意味では、今シーズンはスイングや戦い方をいろいろと試した年だったのでしょう。勝さんはひとりで道を切り拓けるタイプ。そういう人のほうが、海外に向いているのかもしれませんね。





稲見萌寧(いなみ・もね)
1999年7月29日生まれ。東京都出身。2022シーズン優勝2回。トップ10入り17回。メルセデスランキング3位。賞金ランキング3位(獲得賞金1億3258万2087円)。

 常に自分が理想とする軌道に沿ってクラブを下ろしてくるという、高い理想を持ってやっている稲見さん。それが、ショット精度の高さを示すパーオン率1位という成績に表れていて、このままいくと3シーズン連続でこのタイトルを獲得することになるでしょう。

 課題はパッティング。今季はパットが打ちきれなかったり、ライン読みが昨季に比べると若干ズレているのかな、と思わせるところがあります。その結果、平均パット数(パーオンホール)が昨季の2位から、今季は13位まで下がっています。

 オフの取材やイベントで"オリンピックの銀メダリスト"と紹介されることで、「もっと上を」と思う気持ちが強くなっているかもしれませんし、夏場以降にコーチを変えたりしたところをみると、今季は賞金女王といったタイトルよりも、自分のゴルフをもう一段上へと見直すシーズンと捉えていたのかもしれません。





小祝さくら(こいわい・さくら)
1998年4月15日生まれ。北海道出身。2022シーズン優勝2回。トップ10入り14回。メルセデスランキング7位。賞金ランキング6位(獲得賞金1億726万4103円)。

 ある試合で解説をした時に、事前にテレビ局の人から「メンタルが強いと思う選手は誰ですか?」と聞かれ、私は小祝さんの名前を挙げました。驚かれましたが、理由はこうです。

 3~4人で回るゴルフという競技で強いのは、一緒に回る人たちに嫌な思いをさせない、プレーも遅くない、そして自分もコントロールし、成績を挙げられる人です。それは、小祝さんじゃないですか。

 私たちは、小祝さんが怒ってクラブを投げつけたり、キャディーに当たったりするところを見たことがない。急に歩き方が速くなったりすることもないし、態度も変わらない。要するに"波立つ"ことがないのです。あるキャディーさんがそんな彼女のことを「腹が座っていますよ」と言っていたのを聞いて、「確かに」と思いました。

 今年はコーチを変えて、持ち球をドローからフェードに変更。うまくいかないシーンが何度もあったけれど、苛つかない、動じない。今季は残り3試合となりますが、フェードを完璧にモノにした来季の小祝さんが今から楽しみです。





吉田優利(よしだ・ゆうり)
2000年4月17日生まれ。千葉県出身。2022シーズン優勝0回。トップ10入り18回。メルセデスランキング5位。賞金ランキング7位(獲得賞金1億596万4959円)。

 ルーキーイヤーだった昨シーズンに2勝を挙げ、期待されて臨んだ今シーズンでしたが、ここまで優勝はありません。ゴルフ5レディスではセキ・ユウティンさんとのプレーオフに敗れ、住友生命Vitalityレディス 東海クラシックではルーキーの尾関彩美悠さんと優勝争いを演じて一打差で涙を飲みました。今季はここまで、勝利まであと半歩届かなかった、という感じです。

 それでも数字を見ると、今季の吉田さんは飛躍の年だったと思います。なにしろ、現時点でバーディー数とサンドセーブ率、バウンスバック率が1位。バーディー数の多さは攻撃的なゴルフの証明ですし、サンドセーブ率はプロとして技術の高さを示すもの。バウンスバック率はメンタルのタフさを表しています。そして、総合力を示す平均ストロークも、去年の16位から大きくランキングを上げて、現在4位というのは立派です。

 2位に甘んじた試合では、優勝者を気持ちよく称えたあとに号泣していましたが、その潔さもまた彼女の魅力。残りの試合で今季初優勝を手にして、笑顔でシーズンを終えてもらいたい選手のひとりです。