日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、5月29日、都内で6月のテストマッチシリーズのメンバーを発表。会見中、何度も唯一の大学生選手の名を挙げていた。 例えば、今回対戦予定のアイルランド代表に関する質問を受けた際は…。「こ…

 日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、5月29日、都内で6月のテストマッチシリーズのメンバーを発表。会見中、何度も唯一の大学生選手の名を挙げていた。

 例えば、今回対戦予定のアイルランド代表に関する質問を受けた際は…。

「この6月のテストマッチを戦うコーチ陣たちは、チームに経験を授けようとしています。アイルランド代表はそれなりの経験者を集めた一方、未来を見据えた選手選考をしている。私も今回の機会を通じ、野口のような選手の能力を高めたいと思っています」

 野口竜司。春は若手中心の日本代表に呼ばれ、アジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)の全4試合に先発した。ここでも指揮を執ったジョセフHCに、才能を評価された。

 会見前日の28日、当の本人は山梨・中銀スタジアムにいた。主将を務める東海大の公式戦に出場するためだ。春季大会Aグループの帝京大戦を28-31で落とした直後、あくまで仮の話として代表選出への思いを語ったものだ。

「もし選ばれたのであれば、そこにチャレンジしたい。(ツアー期間中)自分がインターナショナルレベルになるうえで学べる部分、自分の足りない部分が凝縮して出てくると思うので。それを自分のなかでクリアにしながら、それをチーム(東海大)に持ち帰っていいアプローチができれば…とも感じます」

 6月は10日にルーマニア代表戦(熊本・えがお健康スタジアム)、17、24日にはアイルランド代表戦(それぞれ静岡・エコパスタジアム、東京・味の素スタジアム)を予定。

 2019年のワールドカップ日本大会で、アイルランド代表は日本代表と同じプールAに参画。まだ出場を決めていないルーマニア代表も、以後の欧州予選をクリアすればプールAに名乗りを挙げる。今度のツアーは、日本代表にとって現状認識の絶好機だ。

 貴重な場への参加が許された野口は、グラウンド最後尾のFBを担う21歳。身長177センチ、体重86キロと決して大柄ではないが、防御網を切り裂く際のボディバランスが特徴的だ。ピンチの局面では、日々の研究に裏付けされた判断力で危険地帯をカバーする。

 さらに今年のARCでポジションを争った帝京大副将の尾崎晟也は「竜司はエリア取りがうまい。自分は、そこを磨いていかないと」と、的確なキックでの陣地獲得術を褒めていた。

 身体能力だけに頼らぬプレースタイルについて、本人はこう説明する。

「僕は考えないと生きていけないですけど、考えた方が楽しく(ラグビーが)できます」

 ARC挑戦から6月のスコッド入りという流れは、ジョセフHC就任前の昨季にも経験している。ところが当時のベストメンバーで挑んだカナダ代表、スコットランド代表との計3戦では、出番を得られなかった。この時のFBを務めたのは、海外でプレーしていた松島幸太朗、当時の帝京大副将で6月から代表入りした松田力也だった。

「すごく悔しい部分と、当然だなと感じた部分があります。やることがいっぱいあるな、それをやらないと成長できないな、と」

 野口の述懐は、潔かった。

 当時は田邉淳アシスタントコーチとの居残り練習で、ハイボールの捕球技術を高めた。「前までは落下地点に速く入り過ぎて、その後に相手のプレッシャーを受けてしまっていた。でも、いまは落下地点に走り込んで捕るようになった」。コツをつかんだ様子だった。

 ともにプレーした松島らの強さに接し、さらに身体を大きくしようとも思えた。キレを保ちながらのサイズアップを図り、1~2キロ程度の増量に成功している。

 そう。あの時は試合に出られずとも、「成長させられる部分」があった。しかし今度は、タフな実戦から収穫を得たい。

「スキルが足りない分、成長させられる部分は大きいと思ってやっていきます」

 謙虚な口ぶりに、自分の伸びしろへの肯定感がにじむ。(文:向 風見也)