メキシコシティは熱狂している。鈴鹿やオースティンと同じように、いやそれ以上に、メキシコ全土が盛り上がっている。 母国の英雄セルジオ・ペレスが出身地グアダラハラでF1デモ走行を行なえば、14万人もの大観衆が詰めかけて熱狂した。「14万人が集…

 メキシコシティは熱狂している。鈴鹿やオースティンと同じように、いやそれ以上に、メキシコ全土が盛り上がっている。

 母国の英雄セルジオ・ペレスが出身地グアダラハラでF1デモ走行を行なえば、14万人もの大観衆が詰めかけて熱狂した。

「14万人が集まったらしいけど、メキシコにとってはそんなに特別な数ではないよ(笑)。でも、地元グアダラハラでのショーランは一生忘れることができない思い出になった。ただ、そこで立ち止まるつもりはないし、今週末ここで優勝することが僕の目標だ。それができるマシンとチームが僕にはあるからね。メキシコのファンのみんなの前で勝つために100パーセント全力を尽すよ」(ペレス)



メキシコGPを楽しんでいる角田裕毅(中央)

 1週間前のアメリカGPで久々の入賞を果たした角田裕毅も、心機一転リラックスした様子でメキシコシティに入ってきた。

「いつもホテルの周りにはファンの人がたくさん集まっていますし、メキシコのファンの人たちのF1へのパッションや熱を感じますね。僕はすでに鈴鹿を味わっていますし、地元がやはり特別なので、メキシコが世界で一番とは言えないですけど(苦笑)。

 ただ、ファンの人たちやサーキットの雰囲気としては、ベストなレースのひとつだと言えると思います。僕も楽しいですね。もしチェコ(セルジオ・ペレス)が優勝すればファンの人たちもクレイジーな盛り上がりになるでしょうし、僕もそれを見たいです。彼も僕もいいレースができればと思いますが、僕は美味しいタコスをたくさん楽しめればと思っています(笑)」

 メキシコシティGPの舞台アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは非常に特殊なサーキットだと、角田は言う。

 メキシコシティは標高2240メートルの高地にあり、富士山の五合目とほぼ同じ。気圧は780hPaと低く、空気は薄く地上(標高0メートル)の78パーセントしかない。

角田「カート時代を思い出す」

 その結果、ダウンフォースも空気抵抗も小さくなる。モナコGPと同じマキシマムダウンフォースの前後ウイングを装着するが、最も薄いウイングを使うイタリアGPと同レベルのダウンフォースしか得ることができない。

 だからマシンは、あちこちでスライドする。だが、これが楽しいと角田は言う。

「メキシコのサーキットはかなり特殊です。ひとつは標高が高くて空気が薄いせいで、最大ダウンフォース(の空力パッケージ)で走っていてもダウンフォース量がかなり少ない。

 去年初めてここでレースをした時、ちょっと変な感じだなとわかりましたけど、すぐにそれに適応することができましたし、自分のパフォーマンスにも満足しています。特に予選パフォーマンスはよかったと思います。低速でトリッキーなセクター2が好きで、マシンをかなりスライドさせて走るのが楽しくて、カートを思い出しましたね」

 空気が薄くダウンフォースが少なければ、ブレーキング時の挙動も不安定になる。空気抵抗による減速効果も、ふだんとは違う。

「すごく重要なのは、ブレーキングを正確にすることです。ここは空気が薄いので、ほかのサーキットと同じようなブレーキパフォーマンスは得られません。スタート直後のターン1はかなりリスクがあると思います。

 今回はFP1でリアム(・ローソン/レッドブルレーシングのリザーブドライバー)が僕のクルマに乗って僕は走れないので、FP2がものすごく重要になりますね。そこでブレーキングの自信をビルドアップする必要があります」

 メキシコの特殊性はそれだけでなく、空気が薄いため、走行風による冷却力も下がる。エンジンに取り込む酸素量を減らさないよう、ターボがいつも以上に仕事をして過給圧を保たなければならない。

 だが、メインストレートが1.2kmに及ぶにもかかわらず、全開率は約53パーセントと低い。それは見た目以上にコンパクトで低速コーナーが多く、低速でゆっくりと走っている時間が長いからだ。

連続ポイント獲得のチャンス

 角田が今週末に向けて自信を持っている理由も、そこにある。アルファタウリが好調だったアゼルバイジャンと同じように、長いストレートと低速コーナーの組み合わせだからだ。

「過去4戦とはコース特性がかなり違うので、今週末に向けては楽観視しています。メキシコのコース特性が僕らにとってアドバンテージになることを期待していますし、ペース的にもいい方向にいくことを願っています」

 そんななかでも、マシンの速さと戦略を最大限に発揮できなければ、中団グループ上位を争うことは簡単ではない。前回のアメリカGPではチーム戦略に問題があっただけに、それをしっかりと話し合い、今回はチームとして結果を最大化できるようなレース運営をしなければならない。

「いずれにしてもチャンスを最大限に生かす必要があります。レース週末はいつもどおりにアプローチして、2台揃ってポイントが獲得できればと思っています。去年はスタート直後の接触でリタイアになってしまいましたけど、特に中団以降のポジションでは接触のリスクはさらに高くなると思います。

 なので、予選でもっと上位にいければと思っています。去年のようなことにはならないよう、レースを走りきることが一番重要なこと。今年はクリーンな週末を送り、すべてをまとめ上げてポイントを獲りたい。残り3戦でもっと多くのポイントを取ることが目標です」

 鈴鹿で成長した角田は、アメリカGPの結果でさらにその成長を実感している。ここからの残り3戦では、今までとは違う角田裕毅の走りが見られることは間違いなさそうだ。