日本GPの興奮冷めやらぬまま、アメリカGPの舞台オースティンへとF1サーカスは飛んできた。 角田裕毅は日本GPで「一生忘れられない経験」をして、このアメリカGPにはひと回り大きくなって帰ってきた。日本GPのあとはしばらく日本に滞在し、友人…

 日本GPの興奮冷めやらぬまま、アメリカGPの舞台オースティンへとF1サーカスは飛んできた。

 角田裕毅は日本GPで「一生忘れられない経験」をして、このアメリカGPにはひと回り大きくなって帰ってきた。日本GPのあとはしばらく日本に滞在し、友人たちと東京ディズニーランドに行ったりと、リラックスした時間も過ごした。



雨で視界が最悪のコンディションだった日本GP

「そうですね、ちょっと恥ずかしい写真が流出していましたね(笑)。あの日は3連休のあとだったので、あまり混んではいないと思っていたんですけど、実際にはすごく人が多くて、アトラクションによっては180分待ちみたいな状態だったんです。

 なので、アトラクションを楽しむ余裕は全然なかったんですけど、それでも男3人で過ごしても楽しかったですね。僕にとって家族や友人は大切ですし、普段はヨーロッパにいて距離があるぶん、こういう時間の過ごし方でエンジョイして、自分自身をリフレッシュすることができたのはよかったです。日本語を話せたのもよかったですね(笑)」

 サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(通称COTA)のセクター1は、まさに鈴鹿のS字をモチーフにした中高速コーナーが連続するセクション。サーキット全体としても、鈴鹿に似た特性を持っている。

 鈴鹿では苦戦を強いられたアルファタウリだが、今週末は鈴鹿とは違ってドライコンディションでしっかりと走り込み、シンガポールGPで投入した新型フロントウイングの性能をフルに引き出すことができれば、Q3進出も狙えると角田は考えている。

「去年はQ3に進出できましたし、決勝でも9位でフィニッシュできて、とてもうまくいきました。でも、ここはいろんな意味で鈴鹿に似た特性のあるサーキットで難しいですし、特にターン1のあとは鈴鹿のS字に似ていて簡単ではないと思っています。そのなかでもマシンの性能を最大限に引き出してQ3に進み、ポイントを取りたいですね」

あと2勝でシューマッハと並ぶ

 しかし、COTAの路面は非常にバンピーで、脚回りが硬くなった2022年型マシンでは苦しいドライビングを強いられるかもしれない。セクター1のターン2からターン10、そしてターン12からターン15の低速スタジアムセクションは再舗装され、それ以外の箇所もグラインダーで削って対処しているが、どこまで改善されているかは実際に走ってみなければわからない。

「今年はいくつかの箇所が再舗装されているとは聞いています。去年は路面がかなりバンピーだったので、特にセクター1で今年のマシンがどんな挙動を示すのか楽しみですね。

 バンプのためにセットアップを変えればパフォーマンスを犠牲にすることになりますし、特に高速コーナーでの速さを失うことになるので、できればやりたくないです、最適なバランスを見つけ出さなければならないと。それをうまくやって、マシンをサーキットに合うようにセットアップできればと思います」

 鈴鹿ではマックス・フェルスタッペンがドライバーズタイトル獲得を決めたが、このオースティンではレッドブルのコンストラクターズタイトル獲得がかかっている。フェラーリがレッドブルより19点多く獲得できなければ、レッドブルのタイトルが決まる。

 フェルスタッペン自身もあと2勝を挙げれば、2004年にミハエル・シューマッハが達成したシーズン最多勝記録13勝を更新することになる。

「残り4戦あるから、どういう結果になるかだね。僕としては毎戦、勝つつもりでベストを尽くすだけだよ。タイトルは決まったけど、それでもまだ僕は勝ちたいと思ってレースに臨んでいるので、自分自身のベストを尽くす。もちろん、これまでよりもリラックスできているけど、クルマに乗ってしまえばベストな走りをしたいという気持ちになるからね」

 一方でF1界は、2021年のコストキャップ違反に関するFIAからの報告書と、それに対するペナルティの裁定で揺れている。さらに日本GPでは、3時間ルールの規定やポイントシステムを定めるレギュレーションの不備などが次々と明らかになった。

悲劇を繰り返さないために

 なかでも、1周目にクラッシュしたカルロス・サインツ車の撤去作業が行なわれているところにピエール・ガスリーが200km/hの速度で直面しそうになったインシデントは、ドライバーたちから強い非難の声が上がった。

 1週間前のシンガポールGPで角田がクラッシュした際にも、各マシンがまだセーフティカーに追い着こうと「デルタラップタイム(基準タイム)」に従って走行しているなか重機を持ち込んで撤去作業が行なわれ、ドライバーたちから改善要求が出されていた矢先だった。それだけにレースコントロールへの批判が相次ぎ、FIAは詳細な調査を行なうこととなった。

 ドライバーのみならず事故処理にあたるマーシャルの安全を守るためにも、レースコントロールの運営やガスリーが従っていた「デルタラップタイム」に問題があるのなら、徹底的に検証して対策を講じなければならない。特にあのような雨のコンディションかつブラインドコーナーで、ドライバーの「配慮」だけに頼っていたのでは、あまりに危ういからだ。

 GPDA(グランプリ・ドライバー協会)のディレクターを務めるジョージ・ラッセルは、次のように説明している。

「すべてのドライバーが懸念を示し、あれは正しいことでなかったという意見で全員が一致している。あんな事態は絶対に起きるべきではないと考えている。なぜあれが起きてしまったのか、それを理解するために努力しなければならない。明日のドライバーズブリーフィングでひざを突きつけあわせて話し合い、レースディレクターの見解も聞く予定だ」

 ドライバー側からはすでに、さまざまなアイデアが提案されているという。

「クレーンをコース上に出す際には、全ドライバーの合意が必要だと思う。(セーフティカーで重機を使った作業ができるのは)ストレートラインだけにして、そのミニセクターではウィービングを禁止するとか、速度制限を設けるといった措置を執ることもできるかもしれない。

 コース上で何かが行なわれる場合には、無線による情報伝達も必要だろう。そういったよりよい解決策を見つけ出すために、力を合わせていく必要があるんだ」

命を失わないシステムの確立を

 ガスリーのドライビングが100パーセント完璧だったとは言わない。しかし、彼のドライビングは現行のルールで「安全」と認められた範囲内だった。ジュール・ビアンキの事故(2014年日本GP)をきっかけに導入されたVSCと「デルタラップタイム」の仕組みは、それに従って走っていればドライバーとマーシャルの安全が確保されるはずのシステムだったからだ。

 しかし、その安全神話が崩れた。

 安全だったはずの目の前に突然重機が現われたのだから、ガスリーのショックは察するに余りある。安全が確保されていると思って撤去作業を開始したマーシャルたちも、突然200km/h近い速度(ガスリーは赤旗提示を受けて187km/hまで減速している)でマシンが現われたのだから、どれだけ身の危険を感じたかは言うまでもない。

 ドライバーもレースコントロールも、人間誰しもミスは犯しうる。問題は、そのミスが起きた時に誰かの命が失われるようなことがないシステムを確立することだ。FIAもドライバーたちもそのことを理解し、すでにこのアメリカGPから対策を採るべく前へと動き出している。

 F1ブームに沸くアメリカで超満員のサーキットが興奮に包まれるよう、F1は前へと進んでいるのだ。