立教大の國安広人。55年ぶりの本戦出場に貢献した 箱根駅伝予選会は、常連校の神奈川大、中央学院大が本戦出場を逃した一方、大東文化大がトップ通過を果たし、立教大が55年ぶりに本戦出場を決めるなど、新旧の交代が目立つレースとなった。今回、箱根駅…



立教大の國安広人。55年ぶりの本戦出場に貢献した

 箱根駅伝予選会は、常連校の神奈川大、中央学院大が本戦出場を逃した一方、大東文化大がトップ通過を果たし、立教大が55年ぶりに本戦出場を決めるなど、新旧の交代が目立つレースとなった。今回、箱根駅伝出場を決めたチームは優れたルーキーが出走し、結果を残している。そのなかでも特に印象的な走りをした4人のルーキーに注目した。

 立教大は、前回の予選会で16位だったが、今回は6位に上がり、箱根駅伝の出場権を獲得した。そのなかでチームトップの成績を上げたのが國安広人(1年)だ。チームは、集団走をせず、全員フリーでの走行となり、上野裕一郎監督からは「前で攻めて走れ」と指示を受け、そのとおりに攻めた。終わってみれば63分13秒で個人21位という結果を出し、チームの55年ぶりの箱根駅伝出場に貢献した。

「レースは、15キロを45分以内で通過するのがチーム全体の目標でしたし、僕自身はチームの先頭を走るという役割を任せられていました。最低限そのペース内で走らないといけないと考えていましたが、実際はそのペースよりも早く通過できました。後半、公園に入ってからがきつかったですが、ラストの1000m(のペース)を上げることができました。自分の力は全部出しきれたし、役割を果たせたかなと思います」

 國安は、レース後、ホッとした笑顔を見せた。

 兵庫県の須磨学園高校から立教大に進学し、トラックシーズンではすばらしいスタートをきっていた。

 4月の日体大記録会の5000mで14分03秒05の自己ベストを出し、5月の日体大記録会では初めて1万mを走り、28分53秒82といきなり28分台を出した。順調そのものだったが、関東インカレや全日本大学駅伝の予選会では他チームのエース級の選手に勝てなかった。

「他大学のエースとの差はかなりありました。関東インカレなど大きな舞台では結果を出せず、調子はあまりよくなかったんですが、夏合宿で距離を踏むということと、箱根予選会に向けて実践的な練習をするなかで自分の調子が上がっていきました。練習の消化率も100%で、予選会前の調子は非常によかったです」

 その調子のよさが走りに出ていた。レース後は上野監督から「よくタイムを稼いでくれた」と褒められたという。その上野監督は國安について「安定感が抜群」と絶賛している。「春のトラックシーズンでいいスタートをきって、今はうちで一番走れる選手。これからが楽しみな存在」と語る。

 國安は自身の強みと課題についてこう語る。

「自分の長所は、安定感です。走るレースは、大きく外さない。キツくなっても落ち幅を最低限にできる、そういう粘りのある走りが自分の強みです。課題は、ラストスパートの切り替えですね。今日はラストで上げることができたけど、もっとラストスパートを磨いていきたい」

 箱根の本戦までは、まだ少し時間がある。さらに力をつけ、課題を克服することで、箱根では主要区間を走りたいと考えているようだ。

「2区のエース区間を走って、強い選手と競り合いたいです」

 頼もしい言葉がこぼれてくる。だが、2区は各大学のエースが集う区間だ。田澤廉(駒澤大4年)、近藤幸太郎(青学大4年)ら力のある選手がエントリ―される可能性がある。

「今の時点では田澤さんには全然かなわないですけど、これから正月まで力をつけていきたいですね」

 もうひとり同学年のライバルもいるという。

「青学大の広内(颯)とは同じ高校で、高校時代は彼にずっと負けていたんです。青学大では箱根を目指して頑張っているんですけど、4年間で一度は広内と競って走りたいですね」

 立教大では、中山凜斗(3年)とともにエース格。これからの立教大を支えるだけではなく、日本の陸上シーンの表舞台にも顔を出してきそうな逸材だ。
 
 予選会で3位に入り、2年ぶりに箱根に戻ってきた城西大は、斎藤将也(1年)の快走が目立った。留学生のヴィクター・キムタイ(1年)が先頭集団でレースを展開するなか、櫛部静二監督の「前半から速いペースで入る」という戦術を守り、前の位置でレースを展開。そのままポジションをキープし、63分18秒で個人27位となり、城西大の箱根復活に大きく貢献をした。夏のホクレン北見大会5000mで13分56秒07を出すと、すぐに網走大会で13分53秒14を出し、夏合宿も順調に終えた。留学生とともに今後の城西大を支えていくエース候補だ。

 日体大は予選会5位に入り、75年連続75回目の箱根駅伝出場を決めた。エースの藤本珠輝(4年)が故障でエントリ―から外れ、4年生の盛本聖也と廣澤優斗がチームを牽引したが、チーム3番目のタイムを出したのが山崎丞(1年)だ。64分05秒で個人60位となり、タイムを稼いだ。バネを活かした走りが特徴で、新潟県の5000mの高校記録を持つ。練習のプログラムが高校時と似ていることから日体大を選び、箱根では1区か2区が希望だ。箱根までまだまだ伸びしろがあり、往路を走るチャンスは十分にあるだろう。

 予選会9位と苦戦した東海大。石原翔太郎(3年)や吉田響(2年)の活躍もあり、なんとか箱根本戦への出場を決めた。チーム4番目の結果を出したのは、鈴木天智(1年)だ。

 レース中は、沿道からの声に焦りを覚えたという。

「自分たちは集団を作って走っていく感じだったんですけど、途中で東海11位って沿道の人が教えてくれたんです。これはヤバいと思って、スピードを上げたんですけど、公園に入ってからが本当にきつくて、脱水症状にもなって粘りきれなかったです。夏合宿は相当頑張って走ってきたので、63分台はイケるかなって思ったんですが、ハーフは甘くなかったですね」

 鈴木のタイムは、64分05秒(個人58位)。それでも予選会当日の湿度の高いなかでのレースであれば、十分及第点はつけられるだろう。両角速監督も「鈴木はいい走りをしてくれました。夏もケガなく、順調にやれたので、このまま継続して成長していってほしいなと思います」と語る。

 鈴木の持ち味は、「粘り」だ。

「長所はタレても(失速のこと)粘りきれるところです。高校の時は、タレたらやめてしまうみたいな感覚だったんですけど、今は絶対にやめないと決めています。そのせいか、気持ちがだんだん強くなってきましたし、人間的にも少しは成長できているのかなと思っています」

 東海大は、毎年全国からトップクラスの選手が入部してくる。チーム内の競争はもちろん、各学年の競争も非常に厳しい。鈴木は、今、一番意識しているのが花岡寿哉(1年)だ。

「花岡は、今回は出場していないですけど、本当に強い。花岡には簡単に勝てないので、まずは練習から勝つことを目標にしたいです。他の大学では、早稲田の山口(智規)君。今日のレースでは絶対に勝ちたいと思っていました(山口は体調不良により個人289位に終わった)。そして僕は東北出身なので、同じ東北出身の吉居駿恭(中央大1年)君に勝ちたい気持ちもすごく高いです」

 これから全日本大学駅伝(11月6日)、そして箱根駅伝(来年1月2、3日)と駅伝レースが続く。昨年は、箱根駅伝本戦でまさかの11位となり、シード権を失った。今回は予選会9位ということで、両角監督は「全体の19位というチーム。ここからシード権を獲るのは簡単じゃない」と言うが、それを獲るためには鈴木の力も必要になる。その本戦、鈴木はどの区間を走りたいと考えているのだろうか。

「箱根は、あくまでも個人の考えですが、1区を走れたらいいかなと思っています。ラストはスパートの打ち合いになると思いますが、挑戦したいですね」

 予選会という負けられないレースに出てくる1年生は、基本的に力がある。彼ら以外にも故障などでレースに出走できなかった選手も多いだろう。これから全日本大学駅伝やハーフマラソンなどのレースを挟み、箱根駅伝と向かうなかでも、國安や斎藤、山崎、鈴木らに続く面白いルーキーが出てきそうだ。