「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣「THE ANSWER」が各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE …

「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣

「THE ANSWER」が各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。女子ゴルフでツアー通算6勝を挙げた北田瑠衣(フリー)は「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務め、ゴルフ界のトレンドやツアーの評論、自身の経験談まで定期連載で発信する。

 今回のテーマは「8月からルーキーが優勝し始めた理由」。岩井千怜(Honda)、川崎春花(フリー)、尾関彩美悠(フリー)がツアー初優勝を飾るなど新人が活躍。彼女たちに加え、日本人37年ぶりに全米女子アマチュア選手権を制した17歳の馬場咲希(代々木高2年)に抱く印象などを北田が語った。(文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 8月以降、ルーキーの活躍が目覚ましい。2020年の日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)プロテストがコロナ禍で21年に延期され、同年は6月の合格組(93期生)と11月の合格組(94期生)で計43人のプロが誕生。彼女たちはツアー予選会(QT)を得て今季、ルーキーの立場でプレーしている。

 全員がツアーに出場できているわけではないが、8月には、93期生の岩井がNEC軽井沢72ゴルフトーナメントで初優勝を飾り、翌週のCATレディースも制した。史上3人目の初優勝からの連勝を史上最年少の20歳47日で達成した。9月には、94期生で19歳の川崎が、国内メジャー・日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯で逆転優勝。翌週の住友生命Vitalityレディス 東海クラシックでも、94期生の19歳・尾関が激戦を制した。

 共通するのは、悲壮感のない笑顔でのプレー。北田も感心している。

「3人とも伸び伸びプレーしている印象です。先輩たちと笑顔で会話していますし、緊迫した優勝争いの中でも、いつも通りの自分を出せている感じもします。ステップ・アップ・ツアーも含めて春先から試合を重ね、プロ生活のルーティンに慣れたことが大きいと思います。そして、『あの子が勝ったから、自分も勝てる』というライバル心もプラスに作用しています」

 だが、タイプはそれぞれ。北田の目にはどう映っているのだろうか。岩井はCATレディースの優勝会見で「緊張はしましたが、『緊張しているということは集中できているということ』と感じていました」などとコメント。北田は「彼女は人としてしっかりしている」と評した。

「冷静に自分を分析できているし、かなりのコメント力です。双子の姉、明愛さんもそうですが、朝のスタートで紹介された時にお辞儀をして、ギャラリーに手を上げて応える姿を含め、見ていて気持ち良さを感じます。あとは、フィジカルの充実が目を引きます。遺伝的なものもあると思いますが、十分なトレーニングを積んできたことで、下半身、体幹が安定し、スイング中に力まなくても飛距離を出せる。これはものすごく大きなことです」

北田が「開幕前から注目していた」、尾関の長所とは

 川崎は8月末に開催されたステップ・アップ・ツアーの山陰ご縁むす美レディースで優勝。その自信を胸に日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯を制した。ツアー初優勝がメジャー制覇。「新星登場」を印象づけた。

「私も『また出てきたか』と思いました。彼女は画面を通しても自信を持ってプレーしていることが分かりましたし、見ていて面白かったです。やはり、ステップ・アップ・ツアーで優勝したことは大きかったですね。私も彼女と同じで、プロテストで一発合格はしたものの、QTはダメで『試合に出られないのは、プロじゃない』と思いながら、日々練習をしていました。

 そんな中で一つの優勝を手にした自信で、その後、ツアーでも頑張れてシードも獲れました。自分のゴルフ人生を振り返っても大きな1勝でしたが、川崎さんはメジャー優勝で3年シードも手にしました。これで焦りはなくなったと思うので、長く活躍できるようにじっくりと心・技・体を高めてほしいです」

 尾関は川崎の優勝に刺激を受け、「次は私」の思いを胸に住友生命Vitalityレディス 東海クラシックでプレー。同じ最終日最終組の吉田優利に競り勝った。6月の宮里藍サントリーレディスで初めて最終日最終組を経験した際は8位に終わり、「次に優勝争いした時は勝ちたい」と宣言。有言実行でつかんだ初優勝だった。

 祖父、父、姉がティーチングプロのゴルフ一家で育ち、最終プロテストはトップ合格。一方で、「忘れものが多いんです」とノンビリ口調で話すなど、愛らしさも話題になっている。北田はこう明かした。

「1度、優勝争いをした経験が生かされて、『絶対に勝つ』という思いが他の選手より上回っていた結果と言えるでしょう。こういう時は、自分の実力以上のものが発揮されることがあります。ただ、私は彼女のことを開幕前から注目していました。『しっかり捻転して、上げて降ろす』というシンプルなスイングが身についていているからです。

 これが一番理に適い、今のクラブに合っています。コースマネジメントに関しても、お父様たちから本番で身になるアドバイスを得られていると思います。やはり、ゴルファーも生まれ育った環境は大事です。彼女はキャラクターもいいですし、成長が楽しみです」

期待が高まる馬場咲希、大切なのは「自分を見失わない」

 偉業を達成した馬場については、期待の一方で心配もあるという。

「17歳で世界一になったことは、プラス面は計り知れませんが、アマチュアの大会では優勝を期待されますし、ツアーの試合でもそうなっています。大事なことは『自分を見失わない』です。いろんな声を耳にして動揺もするでしょうが、ご両親の管理とサポートのもとで環境の変化に対応し、冷静に自分を見ていく。それができれば、長身でスケールが大きく、高い技術もあるので、プロでもトップになっていくと思います」

 こうした若手たちは「勢い」もあるが、北田は「それ以上に不安を抱えているもの」と話す。自身もプロ3年目でツアー初優勝を飾り、賞金ランク3位になったが、「不安しかなかった」と振り返る。

「シーズン中は常に競争の中にいますし、いつ調子を崩すか分からない。予選落ちをすれば、『このまま落ちていくのか』と思いにもなります。なので、練習は納得するまでやっていました。打撃練習場では、パターを除く13本のクラブを1本につき10球連続で納得したショットを打つ。それができないと練習を止めないと決め、試合中でも不安があると夜に、打ちっぱなしに行ったりしていました」

「練習熱心」と言えば稲見萌寧。ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンで予選落ちした際は、翌日の日曜正午過ぎから練習を始め、「気付いたら(深夜)0時を過ぎていました」というエピソードを明かした。北田は「その気持ちは分かります」と言った。

「稲見さんは昨季の賞金女王ですし、23歳にして通算12勝もしていますが、トップに立った人でも不安なんです。1つの試合を終え、どう次の試合を迎えるのか。それを思うと、クラブを握っていたくなるのも分かります。私自身、『月曜は休もう』と思えたのはツアーに出始めて3年が経ってからですし、新人時代は『練習を休め』『試合も時には休め』と言われても難しいと思います。それに、そうした時期は必要で、先になって『頑張ったあの頃があって今がある。まだやれる』と思えるはずですから」

 一方で、プロとして強くなれば大金が入る。周囲からもてはやされるが、北田は「謙虚さだけは忘れてはいけない」と訴えた。

「先日、宮里藍さんが『天狗になりそうな時期に(父親が)引き戻してくれた』とコメントされた記事を読みました。子どもが活躍すると、親の方が稼ぐ子に気を遣い始めるケースも見受けられますが、『人としてこれは違う』と思ったのなら、言うべきことがあるはずです。選手自身もゴルフをしていない時の態度、人間性についても、周りに見られていることを知っておくべきですから」(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)