早稲田大学競走部2年生コンビ伊藤大志&石塚陽士インタビュー・後編前編はこちら>>箱根初出走時を振り返る。「あとからテレビを見て、あっ箱根走ってたんだ」 前回の箱根駅伝は、早稲田大にとってまさかの展開だった。 1万m、27分台を持つ中谷雄飛(…
早稲田大学競走部2年生コンビ
伊藤大志&石塚陽士インタビュー・後編
前編はこちら>>箱根初出走時を振り返る。「あとからテレビを見て、あっ箱根走ってたんだ」
前回の箱根駅伝は、早稲田大にとってまさかの展開だった。
1万m、27分台を持つ中谷雄飛(現SGH)、太田直希(現ヤクルト)、井川龍人(当時3年生)の3選手がおり、ルーキーの伊藤大志と石塚陽士も調子は悪くなかった。往路はこの5名で編成され、往路優勝を狙ったが結果は往路が11位、総合で13位に終わった。
早稲田大学競走部、注目の2年生コンビ伊藤大志(左)と石塚陽士
──箱根で早稲田大が勝てなかったのは、どういうところに原因があったと思いますか。
伊藤「昨年はシーズンを通して、うちのチームが100%だったら勝てるよねっていうタラレバがすごく多かったかなと思います。出雲の時は千明(龍之佑・現GMOインターネットグループ)さんが走ったらとか、箱根も主力が万全でいけたら優勝の可能性もあるかもねっていうのがずっと続いていたんです。でも、結局、揃わなくて出雲6位、全日本6位、箱根13位に終わってしまって。ピーキングが甘かったと言いますか、やっぱり狙った試合にチーム全体で合わせることができなかったのが大きかったと思います」
石塚「大志の言うとおりですし、主力に頼りすぎたということも大きいです。中谷さん、直希さん、井川さんの27分台の3名がいるから大丈夫っていう慢心が部員のなかにあったと思います」
伊藤「多分、3人のなかにも井川さんが1区の上の順位で来てくれるとか、中谷さんが2区を走るからイケるとか、お互いに頼り合ってそれが各部員に伝播したのもあるよね」
石塚「そうだね。誰かに頼るんじゃなくて、みんなで、もうちょっと頑張ろうという意識が薄れていて、その積み重ねが13位という結果になった。あと、やっぱりケガ人が多くて、練習を継続できないのも大きかった。夏合宿で100%できたのは、僕ら1年生のふたりだけで、おまえらすごいよなって感じで、できないのが普通って雰囲気になっていた。本来、全員がすべきことなのに、僕らが特殊みたいな例になっていたのもシード落ちした大きな要因だと思う」
──なぜ、そんな雰囲気になってしまったのでしょうか。
伊藤「危機感が足りないのと、あとはポテンシャルが高い人が集まっていたので、練習できていなくても走れてしまうんですよ。そういう考えが走れていない人にも伝わり、増えてしまったのかなと。花田監督がよく言っている『よく走れる人が練習すればもっと速くなる』っていう考えがなかった。ただ、今年は、練習をどんどん積んでいこうよというマインドになっているし、予選会からのスタートでチームに危機感があるので、そこは昨年の失敗を活かしているところかなと思います」
石塚「そうですね。27分台が3人とか、そういうインパクトがなく、中の上ぐらいの選手が多いので、その分、みんなで頑張ろうという気持ちが強いので、そこはよい傾向だと思います」
伊藤、石塚ともに2年生に進級した。ルーキーイヤ―とは異なり、1年生を見つつ、主力としての走りも期待されることになる。
──2年生になってチームのなかでの取り組みや意識に変化はありましたか。
伊藤「一番変わったのは、チーム全体を俯瞰する機会が増えたことですね。チームの一員として、一歩引いて、今のチーム状況はどうなんだろうとか、キャプテンの(鈴木)創士さんがやろうとしている取り組みがチームのためにどう働くのだろうかとか、チームのことを考える機会がすごく増えて......。昨年は、まったくなかったんですけどね。1年生だし、先輩についていけばいいかって感じだったので」
石塚「自分も1年生の時は、練習についていくだけだったんですけど、今は僕も大志と同じように一歩引いてチームのことを考えられるようになりました。たとえば練習でも1年生の時は中盤にいて前にくっついていく感じだったんですけど、最近は大志が引っ張ってくれるので僕は最後尾につくことが多いんです。そこでみんなの走りを見て、この人、足痛そうだなとか、遅れそうな人がいたら『頑張れ』と声をかけたりすることを自分は意識しています。多分、僕らが上級生になった時、大志が主軸で僕がサポート役になると思うので、その構造を今のうちから作っていければと考えています」
伊藤「その影響か、昨年、Bチームで練習をこなせなかった選手がAチームで練習をこなせるようになっているのがすごい進歩。選手層が厚くなってきている手応えを感じます」
6月には相楽豊から花田勝彦に監督がバトンタッチされた。花田監督は過去、上武大を率いて8年連続で予選会を突破し、箱根にチームを導いた。その後、GMOインターネットグループでは吉田祐也ら個のタレントを磨き、日本のトップレベルに押し上げた。監督が代わり、チームに変化が見えているのだろうか。
──監督交代で、どんな影響がありましたか。
伊藤「監督が代わること自体、好影響というか、大きかったですね。箱根でシード落ちして、仕切り直しをしてもう1回スタートしようとしたんですが、3月からケガ人が増えて、チームとしては停滞したままでした。そこに花田さんが来られて、心機一転スタートという雰囲気になった。練習の雰囲気も変わったし、メンタル的にリセットされたというか、主力選手に変化があったよね」
石塚「そうだね。特に、井川さんは監督が代わったからなのか、4年生になったからなのか、すごく変化しました。練習でも引っ張るし、前向きになったというか。すごいです」
伊藤「チームがいい方向に流れているのはよいことだと思います。ただ、個人的な考えで言えば、僕は監督の交代で改めて自分の意識や考え、自分のスタイルが大事だなって再認識しました。監督はアドバイスや練習メニューを提供してくれるけど、大事なのは選手がそれをどう考えやるのかということだと思うんです。そこを確認できたのは大きいですし、それをチーム全体でやっていかないと監督が代わって一時的によくなっても、強くなっていかないと思います」
夏合宿を終え、チームは今、10月15日に行なわれる箱根駅伝の予選会に向けて調整中だ。トラックシーズンを含めてのここまでの手応えをどう感じているのだろうか。
伊藤「トラックは、5000mでようやく高校時代の記録を更新(のべおかGGN:13分35秒70)できて、ホッとしました(笑)。それまでは結構イヤでしたね。僕は、高校の頃にポンポンと記録を更新してきたので、その成功体験が逆に足かせになり、昨年更新できなかったことで足踏みしたなって思ってしまったんです。佐久長聖の高見澤(勝)先生からも『これが生涯ベストにならないように』って言われていたんですが、本当にそうなりそうだったので大丈夫かなって不安がずっとありました。ただ、自己ベストは更新できたけど、関東インカレは全然ダメでしたし(5000m16位)、トータルで満足いく感じではなかったです」
石塚「僕は、トラックシーズンは60点です。5000mは13分48秒81(ホクレン士別大会)が出たけど、本音をいえば13分30秒台でいきたかったですし、関東インカレでは12位でさっぱりでした。1万mでは28分30秒台は出たけど、20秒台を出したかった。最低ラインはクリアできているけど、全体的にもう一歩という感じでした」
伊藤「授業が大変だから、なかなか練習できないのも大きいよね」
石塚「そう(苦笑)。月曜から水曜までは夕方までびっしり授業ですし、寮から(キャンパスのある)高田馬場まで通学時間が少しかかります。そういうのもあって、最低限の練習しかしていないんです。だから、トラックシーズンは、夏まで何とかつなぐことしか考えられなくて、それがそのまま結果にも反映されているのかなと思います。ただ、夏休みは陸上に集中できているのでだいぶ取り戻してきていますし、これからさらに調子をあげていきたいです」
──これから箱根予選会、そして全日本大学駅伝(11月6日開催)、箱根駅伝(来年1月2、3日開催)と続きます。
伊藤「箱根予選会は通るのは当たり前だと思っていますし、そのうえでトップ通過でいけるかどうか。そこまでこだわっていきたいですね。個人的には、もちろん走る以上はひと桁(の順位)を狙っていきたいです。箱根については、山はどうなんですかね......(苦笑)。5区を走るのであれば前回のような結果(区間12位)に終わりたくないですし、吉田(響・東海大)君にも負けたくない。区間賞を獲りたいと思っています」
石塚「予選会は、大志と同じくひと桁の順位でいきたいですし、自分がひと桁に入ればチームにも貢献できると思うので。1年生ではないですから主力として走る以上はしっかりと結果を残したいですね。箱根は、どこを走るのかわからないですが、僕も区間賞を獲りたいです」
──箱根駅伝は強豪校の面子をみてもかなり強そうですね。
伊藤「正直、青学大や駒澤大とかとは、まだ差があると思います。でも、何が起こるのかわからないのが駅伝なので、ブレーキせずに戦えるといい勝負ができると思います」
石塚「箱根は、大志の言うとおり、ブレーキがないことが前提になりますが、やっぱり昨年のような経験はもうしたくないのでそこは注意しつつ、個々で自分がやるんだという意識が大事。やっぱり、出る以上は勝ちたいですね」
早稲田大の立て直しは、そう簡単ではない。花田監督就任とともにチーム改革がもう始まっているが、伊藤と石塚が最上級生になった時、どんなふうにチームの景色は変わっているのだろうか。ふたりのさまざまな取り組みが浸透し、チーム改革が大きく進行していたら......前を行く青学大や駒澤大の尻尾をとらえるぐらいの強さを身につけ、勝負できるチームになっているはずだ。