4回転ジャンプ6種類7本の衝撃 10月8日にさいたまスーパーアリーナで開催されたジャパンオープン。その前日練習で衝撃的だったのは、17歳のイリア・マリニン(アメリカ)だ。 コーチでもある母のタチアナ・マリニナ氏と父のロマン・スコルニアコフ氏…

4回転ジャンプ6種類7本の衝撃

 10月8日にさいたまスーパーアリーナで開催されたジャパンオープン。その前日練習で衝撃的だったのは、17歳のイリア・マリニン(アメリカ)だ。

 コーチでもある母のタチアナ・マリニナ氏と父のロマン・スコルニアコフ氏は、ともにウズベキスタン代表として五輪や世界選手権に出場したフィギュアスケーター。マリニンは昨季の全米選手権、302.48点を獲得してネイサン・チェンに次ぐ2位。世界ジュニアで優勝し、世界選手権でも9位だった彼は、今年9月のUSインターナショナル・クラシックのフリーで、国際スケート連盟(ISU)公認大会で初となる4回転アクセルを成功させ、注目を集めている選手だ。



photo by Noto Sunao(a presto)

 マリニンが前日練習で、軽々と4回転アクセルを決めただけではなく、曲かけ練習では冒頭の4回転アクセルを含めて4回転ジャンプ6種類7本の構成に挑戦し、すべての4回転を着氷。終盤の3本は、4回転ルッツ+1オイラー+3回転サルコウ、4回転トーループ+トリプルアクセル、4回転サルコウ+3回転トーループとすべて連続ジャンプにする、究極のジャンプ構成を滑りきったのだ。

 同じリンクで見ていた三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)は、「わけわからなかったです。4回転アクセルもそうだが、プログラムに入っているのは全部4回転だったので。本人は初めて7本を入れたと言っていたけど、それでも跳べているので格の違いを感じました」と話す。

 そして、宇野昌磨(トヨタ自動車)も「アクセルがすごくうまいことは知っていたが、構成もすごい。すべてのジャンプを安定させ、すごく勢いを持って跳んでいた。4回転アクセルはすごいなと思うけど、僕のやっている4回転もすごく高いクオリティで跳んでいて、刺激を受けました」と語った。

 マリニンの4回転はわずかに回転不足と思えるものもあったが、すべて高さがあり、回転速度も速く、軸も細い、勢いと力感も感じさせるジャンプだった。

羽生結弦に「大いにインスパイアされた」

 10月8日の本番は、マリニンはその構成には挑戦せず、USインターナショナル・クラシックと同じく4回転は、4種類5本で、最後の2本の連続ジャンプは3回転フリップ+3回転トーループ、3回転ループ+トリプルアクセルにする構成で挑んだ。マリニンは「今、自分が自信を持って跳ぶことができるジャンプに集中したい」と理由を明かした。



ジャパンオープンに出場したイリア・マリニン

 スピンやステップなどを入れた各要素の基礎点の合計は102.87点で、チェンがフリーの世界最高得点224.92点を出した、2019年グランプリ(GP)ファイナルの時の97.73点を大きく上回った。

 その演技は、最初の4回転アクセルは4分の1の回転不足と判定され手をつく形になったが、そのあとの4回転トーループと4回転ルッツはGOE(出来ばえ点)加点2.85点と2.30点をもらう余裕のあるジャンプにした。

 続く4回転サルコウと4回転ルッツ+1オイラー+3回転サルコウは、ともに4分の1の回転不足と判定されGOEはわずかに減点されたが、最後の2本の連続ジャンプはしっかりと決めた。

 だが演技構成点は宇野より6.66点低い86.58点にとどまり、得点は193.42点で宇野に0.38点およばない2位だった。

 それでも、マリニンの演技はほかの選手にとって脅威を感じさせた。今回はミスとなった4回転アクセルについて、マリニンは「どういうふうに跳べばいいか、という基本も今は理解できていると思う。今回はたまたまうまくいかなかったが、ジャンプの入り方などに関しても、しっかり感触はつかめています」と自信を口にする。

「私がスケートを始めた当初から、羽生結弦選手には大いにインスパイアーされてきました。そもそも4回転アクセルを試そうと思ったのも、羽生選手を見てのこと。彼が成功に一番近いところにいたし、『絶対に跳びたい』という気力ややる気を見せていた。だから私も試してみようと思った時に羽生選手のやり方を研究し、そこから自分のやり方を考えて試してみたら、うまくいったという流れです」

5回転ジャンプも「試すかもしれない」

 ここ数年は、自分の演技構成点が伸び悩んでいるのが気になっていて、ステップやスピンなどの練習に時間を割くように努力しているという。

「今まではずっと自分のスタイルとは何なのかを見出せずにいました。でも最近になって、すばらしいスケーターたちと実際にスケートをする機会に恵まれたこともあり、そこで知ったことをうまく取り込んで、自分流に展開していった。それで演技構成点のスコアも伸びてきて、結果も出てきた段階だと思います」

 そう話し、マリニンは自身の成長に手応えを感じている。シニア初シーズンのGPシリーズの出場予定は、10月21日開幕の第1戦スケートアメリカと、11月25日からの第6戦フィンランド・エスポーグランプリと変則的な日程だ。現状のジャンプ構成については、「後半になったら場合によっては4回転を少しずつ追加していくかもしれないし、シーズン最後には7本の構成も考えるかもしれません」という思いも持っている。

「5回転ジャンプを試してみようかと検討したが、今は自分のスケートに集中し、一貫性を持ってやったほうがいいということになった。シーズンが終わってもし心に余裕があり、気分がよければ5回転を試していくこともあるかもしれません」

 進化を始めたばかりの彼が、これからどういう歩みをたどり、どう自分のスケートを完成させていくか。勢いのある新星から目が離せない状況になってきた。