3年ぶりの鈴鹿でトップチェッカーを受け、パルクフェルメに戻って来たマックス・フェルスタッペンの勝利の喜びは、突然タイトル獲得の歓喜に変わった。 2位フィニッシュのシャルル・ルクレールに、ショートカットに対する5秒加算ペナルティが科されて3…

 3年ぶりの鈴鹿でトップチェッカーを受け、パルクフェルメに戻って来たマックス・フェルスタッペンの勝利の喜びは、突然タイトル獲得の歓喜に変わった。

 2位フィニッシュのシャルル・ルクレールに、ショートカットに対する5秒加算ペナルティが科されて3位降格。その瞬間、フェルスタッペンの2022年ドライバーズチャンピオンシップ獲得が決まったのだ。

「この鈴鹿で、ホンダのみんな、日本のファンのみんなの前でタイトルを決められたのは、本当に特別なことだ。信じられないくらいすばらしいことだよ。クレイジーなレースだったし、とてもいろんな感情が込み上げてきた」



鈴鹿で王座連覇を成し遂げたフェルスタッペン

 雨模様で始まった決勝はスタート直後のクラッシュでセーフティカー導入となり、視界不良を訴えるドライバーが多く、やがて赤旗提示。中断は2時間7分にもおよび、その間9万4000人の大観衆は冷たい雨に打たれながら、再開の時を待った。

 フェルスタッペンは最初のスタートで出遅れ、ルクレールに先行を許しかけたものの、ターン1からターン2への飛び込みでアウトに並んだまま引かず、執念でトップを取り返した。

 そして、リスタートから残り40分間となったレースでは、インターミディエイトタイヤを巧みにいたわりながら、ペースをコントロールして首位を独走。ルクレールはセルジオ・ペレスに対して防戦一方となり、フェルスタッペンが独走勝利を挙げた。

 表彰台には、2018年からホンダの開発責任者を務めてきた浅木泰昭が、優勝チームの代表者として上がった。

 この2年連続の栄光が、ホンダの存在と切っても切れない関係にあることを、フェルスタッペンもよくわかっていた。

「ホンダのみんなが見ている前で決めなきゃ、というプレッシャーも少しあった。でも、それはいいプレッシャーになったし、こうして決められたことを心から誇りに思い、すごく感情的になっているのはそのためでもあるんだ。

 昨年は最終戦まであんなに激しいタイトル争いを繰り広げたから、こんなに早く決まるなんて想像もしていなかった。でも、今年もまたチームがすばらしいマシンを作り上げてくれたし、ホンダもずっとともに戦ってきてくれた。この勝利に貢献してくれたすべての人たちに感謝しているよ」

国歌斉唱にグッときた角田

 F1ドライバーとして初めての日本GPとなった角田裕毅は、予選13位、決勝ではスタートで9位に浮上したものの、最終的には13位でのフィニッシュとなった。

 角田としては、マシンの持つポテンシャルを出しきり、自分にやれることはすべてやったからこそ「8点」だと振り返った。

「ポイント獲得で終えることができなかったのは本当に残念ですね。あれだけの応援をもらったからこそ、そのぶん悔しさが増しますね。でも完走をして、いくつかいいオーバーテイクを見せられたので、そこはよかったかなと思います。あんなに大勢のお客さんに囲まれて、あんなに歓声が上がる体験っていうのは人生で一度もなかったので、本当にみなさんのおかげで楽しむことができましたし、感謝しています」

 この1週間で、角田は大きく成長したように感じられた。

 ドライバーとしての成長というよりも、人としての成長。これだけ多くの声援を受け、その人気を背負っていること、そして日本におけるF1人気の根底になる部分を背負っていること......そんな自覚と行動が芽生えたことが、ひしひしと感じられた。

 スタート前に岸田文雄首相列席の下で、水樹奈々さんによる君が代の独唱が行なわれた。

「(スタート前に)プレッシャーはなかったですし、いつもどおりの感じでしたね。逆に楽しみな気持ちのほうが大きかったですし、プレッシャーは全然感じませんでした。目の前で国歌が流れたり、総理大臣と握手をしたり、日本人として光栄なことを体験できましたし、そのおかげで力強い気持ちで臨むことができました。国歌独唱を聴いてグッとくるものがありましたし、忘れられない光景でしたね」

 この3日間、角田はそれほどプレッシャーを感じているようには見えなかった。リラックスして、F1マシンでドライブする鈴鹿を、そして満員のスタンドからの声援を楽しんでいるように見えた。

「(最初の)スタートの蹴り出しがよかったので、そこで何台かオーバーテイクできたのはよかったですけど、スタートしたあとは前が見えなくなるのがわかっていたので、スタートくらいしかやれることはなかったですし、スタートは本当に集中しました。

 スタート直後はかなり水しぶきが上がっていて、正直言って前がまったく見えませんでした。コーナリングで曲がるのも、どのくらい前にクルマがいるのかも、勘で走っていたので、あれはレースができる状況ではなかったですね」

ベッテルの鈴鹿ラストラン

 2時間の中断の間も、スタンドに向かって手を振ったりと、感謝の気持ちを表わし続けた。

 インターミディエイトの消耗が激しく、途中でピットストップして新品に履き替える戦略に出たが、時すでに遅しだった。

「自分にやれるだけのことはやりました。少しは抑えられたとは思うんですけど、インターミディエイトの消耗が大きくて、新品に交換せずに最後まで走りきることは難しい状況でした。

 もし、タイヤ交換をするとわかっていたなら、あと2周早くピットインをコールしていたのは間違いありません。そういうコミュニケーションは僕がもっと学ばなければならないポイントですし、改善が必要なのも間違いありません」

 それでも13位でフィニッシュし、ありったけの感謝を伝えた。そして、グランドスタンドからも大きな声援を受けた。



ファンに手を振って感謝を伝える角田裕毅

 この経験は、きっと角田裕毅をひと回り大きく成長させてくれる。そんなふうに感じられた3日間だった。

「僕にとっては初めての日本GPでしたけど、雨でディレイに晒されながらも盛り上げていただいて、ありがとうございました。この3日間、僕としても忘れられない体験になりました。みなさんに少しでも楽しんでもらえるよう、自分らしいアグレッシブな攻めの走りは貫き通せたかなと思います。また来年、さらに強くなって鈴鹿に戻ってこられるように、次戦から気を引き締め直して戦っていきたいと思います」

 今年の鈴鹿は、初めてF1観戦に訪れたという若いファンも多く、着実に世代交代が進んでいる。F1チームやドライバー、関係者たちも、3年ぶりに訪れる鈴鹿を心待ちにし、「やっぱりここは最高だ、それも圧倒的な差で」と言ってくれた。今年かぎりで引退を表明し、鈴鹿ラストランとなるセバスチャン・ベッテルも鈴鹿への特別な思いを何度も口にし、日本語で「アリガトウゴザイマス、スズカ」と語った。ベッテルのみならず、どのドライバーもファンサービスは格別だった。

 2年続けて開催を断念しなければならないという苦境に直面しながら、粘り強く準備と交渉を続け、ここまで辿り着いてくれた鈴鹿サーキット関係者の多大なる努力も計り知れない。

 こうして我々の元に戻ってきた3年ぶりの鈴鹿は、多くの感動と希望をもたらしてくれた最高の3日間だった。そしてこれからは、もっとすばらしい未来が待っている。そう確信させてくれた、最高の日本GPだった。