ジャパンオープンに出場した宇野昌磨 宇野昌磨(トヨタ自動車、24歳)のシーズン初戦となった10月8日のジャパンオープン。 前日の記者会見で、「すべて成功させることを目指すのではなくて、練習してきたことをしっかり出せるようにして、失敗したらそ…



ジャパンオープンに出場した宇野昌磨

 宇野昌磨(トヨタ自動車、24歳)のシーズン初戦となった10月8日のジャパンオープン。

 前日の記者会見で、「すべて成功させることを目指すのではなくて、練習してきたことをしっかり出せるようにして、失敗したらそれを受け入れて次の試合で活かせるように、と考えてやっていきたいです」と宇野。その話のとおり、入れ込むような雰囲気は見せない滑りとなった。

 シーズンオフの間、日本ではジャンプ、スイスでは振り付けをメインに練習していたという宇野。

「自分のイメージとしては、シーズン初戦からよりよいパフォーマンスをしたいと心がけてはいるけど、1年を通してケガをしないことを考えています。急に目の前の試合だけを見据えて練習をしすぎるとのちのちのケガにつながることを長年の経験でわかってきた。しっかりと上を見ながらも、ジャパンオープンでは自分が今、達成できそうなものをやっていきたいです」

新星マリニンを抑えトップ

 宇野が試したのは、オフシーズンの練習で取り組んできた連続ジャンプが、試合でどうなるかということ。練習で課題にしていたのは、演技前半の4回転トーループ+3回転トーループのあとにトリプルアクセルからの3連続ジャンプ。ただ、その構成を入れると後半でうまくいかないところがあったという。

「今回は単発のトリプルアクセルにして、うまく4回転フリップにつなげていきたい」と、連続ジャンプは終盤のトリプルアクセル+ダブルアクセルを含む2本に抑える構成を予定していた。

 本番では音にしっかり入り込んだ滑り出しから、最初の4回転ループと次の4回転サルコウはGEO(出来ばえ点)加点3点台のジャンプとし、落ち着いていた。だが、次の4回転トーループは着氷したものの、3回転トーループをつけられずに終わった。それでも、トリプルアクセルは予定どおりに単発で跳び、静かな曲調のなかでコレオシークエンスも丁寧に滑って流れをつくった。

 6分間練習では決めた後半最初の4回転フリップは2回転になってしまったが、冷静にトリプルアクセル+ダブルアクセルを決めると、最後の4回転トーループには2回転トーループをつけ、こちらも予定どおりに連続ジャンプは2本にした。

 結果はGOEで2回転フリップが減点されただけで、193.80点を獲得し、4回転アクセルを含む4種類5本の4回転ジャンプに挑んだイリア・マリニン(アメリカ)を0.38点差で抑えて1位に。演技後の会見で宇野は「ルール変更もあるなか新プログラムをやってみて今の自分の位置を見つける試合でもあったが、演技の内容は妥当だったと思います」と振り返り、こう続けた。

「去年1年間『ボレロ』をやってきて、そこで培われた体力やジャンプ構成がちゃんと活きた初戦だったと思います。演技の動画を見直してみても、去年よりバテずに力強く滑ることができていたし、点数にも表れている。ステップはちょっとレベルを落としたが、難しくなったスピンはすべてレベル4をとれているので、ルール変更にも対応できている。

 後半のフリップのパンクは練習でもよくやっているので仕方ないけど、前半の4回転トーループ+3回転トーループは練習ではほぼ失敗していないので。試合での気持ちの変化なのか、これからの一番の課題です」

 昨季も4回転+3回転がなかなか跳べないことを悩んでいたが、宇野は「去年もフリーでは一度も入ったことがなかったし、ここ数年を見ても2019年の世界国別対抗戦くらい。試合になるとどうしても、自分のなかで難易度が上がった感じになってしまう」と言った。

「今シーズンからセカンドにアクセルを使えるようになったので、4回転+アクセルをやれば4回転+3回転をやらなくてもいいかもしれないが、練習でできている自分がなぜ試合ではできないのかというのを謎のままにするのではなく、その理由を追求して成長につなげなくてはいけないと思っています」

「自分を磨く」意識

 自分を冷静に見つめ、疑問をひとつずつ解決し成長していこうという思い。それはネイサン・チェン(アメリカ)が学業に専念し、羽生結弦が競技から退いたことでさらに強くなった。

「これまではネイサン選手やユヅくんに勝ちたいと思ってやってきたが、今シーズンのオフからは自分を磨くことを意識してきました」

 目標とする選手が戦いの場から離れた今、自分が競い合う相手は自分自身にしなければいけないと考えたのだ。

 だが、7本のジャンプをすべて4回転の構成に挑戦しているマリニンの姿を見て、その気持ちは軽くなったようだ。彼を見て「違う強い選手が現れるものだなと思った」と話す。

「彼(マリニン)のすごさは4回転アクセルと跳ぶことだけではなく、それ以外の4回転がすごいこと。柔軟性もあってケガをしにくいジャンプをしていて、無駄な力が入らず、すごくラクに安定して跳んでいる。僕はそれに刺激を受けたし、彼ができるなら僕にも何かやり方があるのではないかと思えました」

 まだシニアデビュー間もないマリニンについて、「これからもどんどん伸びていくはずだし、1〜2年後は圧倒的な選手になる存在だと思います」とも言う宇野。大きなモチベーションになっているはずだ。

 だがその反面、マリニンの演技を見たからこそ自分の気持ちをしっかりコントロールしなければいけない、という思いも膨らんできた。

「僕の場合は夢中になると練習をやりすぎてしまうことが多い。刺激を受けたけど、そこでムキになってしまうと一歩間違えばケガをしてしまうし、夢中になるのとムキになるのは違うので、『コントロール』という言葉を自分に言い聞かせています」

 さらに進化しようとする宇野は、24歳のスケーターとして今季の冷静な一歩をジャパンオープンから踏み出した。